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ささいなこと

私は、本当にささいなことに、しっかりと落ち込む。
周りの人たちが踏んづけて通るような小石につまづき、あれよあれよという間に、坂を転がり落ちていく。

どんぐりころころ どんぶりこ
お池にはまって さあ大変

さあ大変!

気づいたら、気分はどん底。
たぶん、はまっているのはお池なんて可愛いものではない。

***

先週、つまづいたささいな小石とそのあとのこと。

月曜日、会社にお土産を持って行った。
チョコナッツクリームのクッキー。10枚入り。
数が少ないから、全社員の目につく事務所のレンジ横ではなく、私の所属する課のあるラボの休憩テーブルに置いた。

水曜日、お土産の残数を確認した。8枚。
2枚しか減っていない…。

私はまだ、会社に馴染めていない、と思う。
先輩たちの雑談に飛び込むことはできないし、機器の使用許可をとるのにも緊張してなかなか話しかけられない。
だからといって、そんなことはないのに、お土産を食べてもらえなかっただけで、私自身が拒絶された気持ちになる。

かなしくて、かなしくて、頭がショートしそうになる。
目は開いているけれど、周りのことは入ってこない。
やっぱり、ラボは実験する場所だから、そこにお菓子を置くのはやめた方がよかったのかな。
チョコかナッツかクッキーが苦手な人が多かったのかな。
誰かに聞いてみればいいのに、できずに、真っ暗な中、ぐるぐるぐるぐる思考ばかりが充満する。

持って行ったお土産が減らなかった。
たったそれだけで、私はしっかり落ち込んだ。

***

帰り道、暗い気持ちは晴れないまま、スーパーに寄った。
お米がきれていたし、明日の味噌汁の具がほしかった。


木綿豆腐
麻婆豆腐の素
中華そばの生めん
パスタ

安くなっているし、保存もきくから蓄えに、と余計な物までカゴに入れてしまった。
少し反省しながら、レジの人に買い物カゴを渡す。

ピッ、ピッ
いくらくらいになるかな、
ピッ
財布の中の小銭を確認してみる
ピッ
あー、あんまり小銭ないや
ピッ

リズミカルなバーコードのスキャン音が終わった。

お会計、〇〇円です。
というお決まりの言葉が続かない。

「あら」

なんだろう。

「お会計、2…?2000円ぴったし!」

レジの人が笑いかけてくれた。
え、すごい!
思わず、私も目を合わせて笑ってしまった。

私は2000円ぴったしを払った。

「ありがとうございましたー」

「ありがとうございます」
と自然と言っていた。

落ち込んでいたけれど、笑顔になれました。
ありがとうございます。

今、今日、初めて人の目を見て笑ったような気がする。
余計な物も買ってよかったな。

私は、ささいなことに落ち込みやすいけれど、ささいなことで笑顔になれるらしい。

***

そういえば、お土産を食べてくれた2人から、お礼を言われた。
それから、神奈川県の江の島のお土産だったから、江の島神社は人がたくさんだった話とか、江の島は猫と魚屋さんが多い話とか、した。していた。忘れていたけれど。

お土産のおかげでたわいもない話ができた。
普段、味気ない仕事の話しかしない私からしたら、これって、すごいことだ。

8枚の食べてもらえなかったお土産
ではなく、
2枚の食べてもらえたお土産
にも、ちゃんと目を向けることが出来ていたら、拒絶感以外のものにもすぐに気づけたのに。

うわあああ…とひとつのことに落ち込むと、それ以外のものが見えなくなってしまうのは、私の悪い癖。

視野はいつでも広く、フラットに。



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