『delaidback』の収録曲はいつ頃作られたのか

 最近syrup16gの曲をよく聴いているのだけれど、普通にレビューとかやるより、こういうアプローチをしてみようと思って…。
 今年になってこのバンドの音源を聴き始めたにわかファンである私が無謀にも試みた、めちゃくちゃ無駄な推測(いらなくね?)や雑感も混入しています。

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 なお、この記事には以下のサイト、ブログ記事、そしてツイートを参考文献とさせていただきました。サイト名・ユーザー名とURLを明記し、感謝の念の表明とさせていただきます。

・syrup16g official website
http://www.syrup16g.jp
(公式がセットリストをここまで細かく残してくれているのはマジでリスペクト)

・with or without 『犬が吠えるの解散に寄せて』
https://ameblo.jp/r-a-i-a/entry-10256045861.html
(犬が吠えるの短い活動について包括的かつかなり仔細にまとめており、とても参考になりました)

・zooeyさん(@Murder_you_know)のツイート
https://twitter.com/Murder_you_know/status/923312849148973058
及びそれ以降のリプライツリー
(「音楽と人」当該号のバックナンバーは当然ながら既に売り切れなのでめちゃくちゃ助かりました…)

・「夢みたい」「開けられずじまいの心の窓から」

 この2曲はプレスにて正式に製作時期が発表されている。曰く、バンド結成直後の1997年頃に制作され、当時下北沢Garageや新宿JAMといった会場で行っていたライブにて盛んに演奏されていた楽曲とのこと。

 なお、「夢みたい」はネット上で楽曲の存在及び歌詞の内容だけは長らく認知されていた。一方で「開けられずじまいの心の窓から」は今まで情報が流通したことが殆ど無く、全く存在が知られていなかった曲。

 2021年の「UKPラジオ」などで語られている通り、UKプロジェクトからのデビュー作『COPY』やメジャーデビュー作『coup d'Etat』は極めて短い期間でその収録曲全曲を書き下ろした作品であり、それ以前にライブハウスで演奏されていた楽曲は殆ど収録されなかった。
 それらの楽曲を再録したのがかの有名な「Reborn」を収録している『delayed』であり、今作を含む”delayedシリーズ”の原点となっている。
 その経緯を考えると、この2曲の選曲には原点回帰的な意味合いがあるのかもしれない。

・「Star Slave」「upside down」

 2005年以降~解散直前までのライブで発表された楽曲。

 この時期のライブでは、異様なペースで新曲が披露されていた。場合によっては本編は全曲が新曲で、既存曲はアンコールの1~2曲のみ…という場合すらあったらしい。これら未発表曲の一部は解散前に発表された『Syrup16g』に収録されたが、その大半は音源化されることなく取り落とされており、現在では当時のライブを録音したブート音源のみがネット上で流通している状態になっている。
 これら未発表曲の一部の楽曲の曲名・仮タイトルに関しては、公式サイトで公開されているセットリストのアーカイブで確認できる(しかし途中から楽曲の製作ペースに着いて行けなくなったのか、途中から仮タイトルではなく単に「新曲」とだけ記述されるようになっているが…)。

 新曲のうちの一部は場合によっては歌詞もアレンジもあまり固まっていないような状態で披露されており、そのため「upside down」に関しては歌詞に複数のバリエーションがある。今作収録音源の歌詞は音源化に際して改稿されたもの。

 この時期だけでもフルアルバムを1、2枚は余裕で作れるレベルの数の未発表曲がまだ残されている他、更にそれ以前の期間まで含めると更に大量の未発表曲があることが知られている。

 本人たちの中で思うことがあるのだと思うし、それを理解しているので無理強いはしたくないのだけれど、…やはり、私個人の意見としては、”皿に乗った宇宙人が指咥えて逃げるように飛んで行った”曲(あれは本当に名曲!)を4年ほど前にたまたま動画サイトで聴いたことがこのバンドのことをはっきりと好きになった切欠でもあるので、これらの楽曲をちゃんと音源化して欲しいと思っている。
 バンドにとって楽曲というものは本人たちにとっても聴き手にとってもはっきりと「財産」だと思うし、それをちゃんとした形で残さないのはやはり「損失」だとも思う。
 あまりバンドに対して偉そうに指示を出すようなリスナーにはなりたくないんだけど、それでも、あれらの楽曲をとても大切に思っている人は本人たちが思うよりもずっと多いかもしれない、ということに気付いているのだろうか…とは考えてしまう。
 今年になってやっと聴き始めたレベルのにわかリスナーの私でさえそんなことを考えているので、長年追ってきたファンはもっと並々ならぬ思いをこれらの楽曲に抱いていると思うし。
 …そんな事ここに書いてもどうしようもないんだけど。

 なお、ブート音源の存在や、それらの音源に付いたファンによる仮タイトルについてはメンバーも認知している模様。

・「光のような」「赤いカラス」

 syrup16g解散直後の2008年に活動していた五十嵐氏の別バンド、犬が吠えるのレパートリーとして製作された楽曲。

 結成時には当然かなり期待された形で登場し、更にレコーディングに入っていることなどが伝えられていたにもかかわらず、翌2009年の4月に解散。後に五十嵐氏は所属していた事務所からも退所し、割と冗談抜きで生死すら不明の状態が2013年まで続いた。
 当時syrup16gに関しては名前程度しか知らなかった私ですら、この期間には2か月に1度ぐらいの頻度で「五十嵐っていま何やってるんだろ…」(さんを付けろ)と考えていたことを覚えている。
 後にこの期間に五十嵐氏は引き篭もり同然となり、再発音源の印税などで食いつないでいた状態であったことが明かされた。

 …話が若干ズレたが、犬が吠えるは音源こそ残さなかったものの、1年足らずの活動期間の中で割と積極的にライブ活動を行っていた。この2曲はその時期にライブで演奏されていたレパートリーの一部。「光のような」は当時は「光」というタイトルだったようだ。
 また、「赤いカラス」は後述する復活ライブ「生還」でも演奏され、その後も今作発売前のsyrup16g名義のライブでも何回か演奏されている。犬が吠えるで披露されていたバージョンからCメロが変更されているらしい?

 犬が吠えるの楽曲は全てこのバンドのために用意された新曲で、syrup16gの楽曲は演奏されなかったようだ。
 そのためこの2曲以外にも5~6曲程度の持ち歌の存在が知られている他、タイトル不明の新曲も数曲披露されていたらしいが、それらは例によって現在も未音源化のまま。

・「透明な日」「冴えないコード」「ヒーローショー」「ラズベリー」

 2013年に敢行された、”五十嵐隆単独公演”「生還」にて披露された新曲群。

 あくまで「五十嵐隆単独公演」を銘打ち、実際これら新曲群とsyrup16gの楽曲に加えて犬が吠えるの「赤いカラス」が演奏されるなどの包括的なセットリストが組まれたが、実質は五十嵐氏・中畑氏・キタダ氏という編成でsyrup16gの楽曲が大量に演奏された「syrup16g」としての復活ライブでもあり、翌年のsyrup16gの再始動の布石となった。
 なお、「冴えないコード」は当初「さえないコード」という表記だったようだ。

 それにしても…これらの楽曲はいつごろ製作されたのだろうか?犬が吠える.の活動中?犬が吠える解散以降の引き篭もり状態の時期?それともライブの直前?というわけで、前置きに書いた無謀な推測をここら辺から始めようと思う。

 曲の雰囲気や歌詞のテスクチャから推測するに、「透明な日」「冴えないコード」の2曲に関しては公演に割と近い時期に制作されたのではないだろうか。
 直後の『HURT』では明らかに引き篭もり期の雑感を描いたと思しき楽曲が多数収録されているが、この2曲に関してもそれに近いことが描かれているように思う。楽曲の構成に関しても、再始動後の諸作に近い作りになっている…気がする。
 ただ、「冴えないコード」は何となく二つの在籍バンドの解散のどっちかについての言及かな~と思わせる記述が目立つので、もうちょっと前に制作された楽曲かもしれない。
 また、「ラズベリー」も「(You will) never dance tonight」などを思わせるアレンジで、歌詞の抽象的ながら希望を匂わす作風も『HURT』のそれに近いので、やはり公演直前に近い時期に制作されたのかな…と推測。

 しかし「ヒーローショー」は…わからん。何この曲?このバンドに興味を持ちはじめた頃にこの曲を聴いた時は「こういう変わった曲ばっかりやってるバンドなんだな~」と思ったんだけど、いざちゃんと聴いてみたらこんな曲は他になかったので首を傾げた。何この曲?全然推測できない。
 歌詞では「決心 生まれ変わって/まともなひとになる」とか書いてるので、何となく引き篭もり期の雑感なのかな…とも思ったけど、なんかこの曲で言ってることに関しては引き篭もり期とは関係なくそういうことずっと言ってる気がするし。「賢者タイム」というネットミーム的文言を使っていることからして少なくとも2009年~2010年以降であることは確実かなとは思うが…でもこの歌詞って音源化に際して改稿されてるみたいだし…わからん。
 何この曲?めっちゃ好きだけど。

 なお、「生還」ではこの4曲と共に「真夏のターンテーブル」という新曲も披露されたが、この曲だけ今作に収録されなかった。syrup16gとしての公演でも披露されていないようだが、「生還」公演は映像ソフトとして商品化されているのでそこで聴くことはできる。

・「変拍子」

 ずっと今作で初披露の未発表曲だと思っていたのだけれど、この文章を書いている中で、前記した2004年~2007年頃のライブで矢継ぎ早に新曲を発表していた時期にライブにて演奏された曲、という記述を発見。
 ブート音源が存在しない公演で披露され、そのままになったパターンの楽曲(「タバスコ」「ダーリー」という曲はそのパターンであることが知られている)なのだろうか…?

 あと気になるのは、曲の展開が「不眠症」と一緒であること(普通に暗めの曲が進行→中盤で突然転調してメロディアスに→元に戻って終了)。

・「4月のシャイボーイ」「光なき窓」

 この2曲に関してはセットリストなどでも確認されておらず、また犬が吠える.などで披露された記録も残っていない、正真正銘の未発表曲。
 発売当時に刊行された「音楽と人」2017年12月号の五十嵐氏のインタビュー及び金光氏のレビューに、楽曲製作時期が推測できる記述が残っていたらしく、それによると2曲とも2000年前後には存在していた楽曲とのこと。
 2000年前後ということは『Free Throw』直後~『COPY』以前の期間であり、恐らく製作期間は『delayed』の収録曲辺りと同時期かもうちょっと後ぐらい?歌詞などが改稿されたかは不明。

 2曲とも初期作品及び恐らく同時期に楽曲が制作された作品―『Free Throw』や同アルバムの再発盤ボーナストラック(ベストに収録されたものと同じ音源)のデモ曲に近いトーンを持っており、歌詞も近年の楽曲と比べると明らかに具体的で、なんとなく初期っぽい…感じはする。
 特に「4月のシャイボーイ」はテーマも歌詞の内容もそんな感じで、とりわけ「青春は会員制」は『COPY』収録曲にありそうなフレーズ。メロの言葉遊びっぽい押韻は何となく最近の加筆が入ってるのかなとも思うけど…どうなんだろう。
 一方で「光なき窓」も初期の楽曲ということは少し意外な気もしたけど、最終的に「そばにいてくれ」という「人と人の繋がり」への飢餓に漂着する辺りが初期っぽいかなと。これがもうちょっと後だったり最近の筆だったら結論がもう少し大局的な部分に繋がる気がする。

 そういう部分でも、「変拍子」だけはもう少し大局的な絶望に接続されているので、新曲乱発期の曲と言われたら確かに納得する部分はある。

 こんなこと書いといてめっちゃ間違えていたら恥ずかしいけれども、それは今更か。

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 そして最後に、今作の印象的なアートワークについて。

 最初の『delayed』では一応離陸している飛行機の写真も使われているけれど、ジャケットで目を惹くのは停留している方の飛行機(背後の滑走路にも離陸か着陸している飛行機の灯りが写り込んでいることに、最近まで気づかなかった)。そして『delayedead』では人の手に支えられた模型の飛行機。そして今作の轢き潰された蝶。
 "delayed"シリーズは、どの作品のアートワークにも一貫して「本来は飛べるもの」が「飛ばない/飛べない状態」になっている様子が必ず映っていることが、ずっと気になっている。
 まあ…これは私のただの深読みっぽいような気がする、というか、特に最初の『delayed』は空港の遅延表示からインスピレーションを得たことを表したアートワークなので、結局はただの偶然なのかもしれないけれど。