『初恋ハラスメント ~私の恋がこんなに地獄なワケがない~』感想【かなりネタバレ注意】

 中京テレビが製作した単発(たぶん)ドラマ。
 一部地域のみで放映されたが、2024年3月末現在はTVerなど配信サイトで視聴が可能。

 作品としては「通常の恋愛ドラマ、と見せかけたホラー作品」。
 放映前の広告展開などはいかにも近年ブームとなりつつあるモキュメンタリー系ホラーっぽい雰囲気を漂わせていた…のだが、実際にはモキュメンタリーの要素も入っているものの、メインのドラマパートに関してはジャンプスケアなども飛び出す割と直球のホラーに仕上がっているので(個人的な印象としては「ほんとにあった!呪いのビデオ」の投稿映像群のなかでも割と派手めなヤツが映像としての風味が近いと感じた)、そもそもホラーが苦手、という人は見るのが少し大変かも。



これ以降は完全にネタバレ全開なので、
それを了承したうえでお読みください。


下の仕切り線以降はネタバレ全開になりますよ?
いいですね?



 結論から言うと。
 思っていたのとはやや違ったけど、普通に良かった。

 深夜とはいえジャンプスケアやノイズ、サブリミナル判定ギリギリのカットといった、2024年の地上波テレビ番組としては困難そうなホラー演出群をここまで大量に盛ったドラマをよく地上波で流せたな~、というところにまず感動した。
 ローカル局の方が断然フレキシブル、ということを最近思う機会が多い。まあ「水曜どうでしょう」や「saku saku」の存在に思いを馳せれば、昔からそうだったことに最近私が気付いただけなんだろうけど。

 今作は前半の直前特番パートの様々なヒントによって、これから始まるドラマの中で何かが起こりそうだ、ということを暗示されたうえで、後半のドラマパートを見る、という作りになっている。
 この番組構成が作り出した「無理のある展開が多い無神経で軽薄な恋愛ドラマを、”次のカットでは何が起こるんだろう?”とやたら緊張しながら見ることになる」という異化された体験が非常に面白かった。
 霊障による妨害=様々な恐怖演出が行われる一方で、恐怖演出とは別のタイムラインでドラマのストーリーが滞りなく進行している、という今作ならではの構造がこの面白さを生み出していたように思う。

 ホラー的にはもうちょっと頑張ってほしいところや若干やり過ぎ感を抱く演出も多かったけど、それ以上に「ホラー演出を用いて明確に語られない部分を誰にでも分かるように表現する」ことを成功させていたのが非常に好印象。
 後半の他の被害者の存在を提示する演出が好きだったな。夜のオフィスのシーンの、「カットが変わる毎に徐々に近づいてくるやつ」と思いきや最後のカットでいきなり”いる”演出にも意表を突かれた。
 あとネタっぽく捉えられてる菅沼の「最重要事項なので五秒数えて言いました」、私はすごい好きだ。自らの存在を踏み潰して作られた作品に対する痛烈な皮肉を感じるので。

 題材の時点でそうだろうな~とは思っていたけど、かなり社会派な内容。
 カルチャーの分野でハラスメントが起こった際に直面しがちな「作品と本人の行動の不一致」を、入れ子構造を用いて作品に取り入れているのがとても今日的。
 今作における「怨念」たる菅沼がはっきりと喋る点や、最後に唐突に地球が映るのは若干説明的過ぎる気もしたけど、最近はホラー作品に於いて「コンセプトを分かり辛くする」のが良い場合と悪い場合があると思っていて、今作の題材ならば思いっ切りわかりやすくするのはアリなのではと思う。
 特に今作の場合は「考察したら作中作の製作過程におけるハラスメントの実態が明らかになって、そこから隠れたメッセージ性が浮かび上がる!」みたいな感じだと却ってダルかったと思うし、いやもうそんな大事な話はストレートに言えや!ってなってただろうし。

 私は「最初から考察待ち」な意味怖的コンテンツに対してあまり興味を持つことができない(最近、梨さんがトークショーなどで似たようなことを仰ることがあり、その度に無意味に嬉しくなる)。
 考察をすることが嫌いなわけじゃないし、どちらかと言えばあれこれ考えるのは好きなのだけれども、あくまで一つの作品の「見えてはいるが意図が明確にされない部分」の意味を探る作業が好きなのであって、パズルを解きたいわけではない。それだったら最初からパズルをやった方が良い。
 やはり考察という要素はコンテンツに明確な核やフックが用意されたうえでのサブであってほしい。
 今作は作中で何度もコンセプトに直接言及するため、視聴中に私の中にある「考察」に対する感覚を強く意識する瞬間がけっこうあった。

 とにかく、言いたいことはちゃんと言った方が良い時もあるよ、ということです。
 まあ、作中で菅沼もはっきりと「許さない、呪ってやる」って言っていたことだし。

 あと私が今作視聴後に最も強く抱いた感想は、「吉田伶香さんよくこれ引き受けたな!!!」です。
 作中作で霊障によって顔をぐにゃぐにゃに加工される部分だけでも「若手の女優さんにこんなんやって大丈夫?」と変な汗出るのに、演じるのが菅沼があそこまで呪うのも納得のマジで嫌な人間で、それがよりにもよって「本人役」という。
 地上波ドラマ初主演らしいけど、地上波初主演作がこれっていくらなんでも豪胆がありすぎる。菅沼役の星耕介さんに並ぶ今作のMVPだと思う。