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『フェイクドキュメンタリーQ』全作レビュー番外編:プロでやってる映画監督がスマホだけで撮るホラー映像(作:寺内康太郎監督)

 寺内氏単独監督による外伝的作品。

 2023年3月現在、シーズン2が絶賛連載(連載?)中の「フェイクドキュメンタリーQ」。
 シーズン2の作品に関しては全12話が揃ったところでまた全作レビューを執筆する予定ではあるが、この作品に関しては「フェイクドキュメンタリーQ」の本編ではないこと、そして「期間限定公開」という文言が概要欄にあるため緊急性(緊急性?)が高いと判断してレビューを書かせていただく。

 冒頭でも書いた通り、今作は正確には「フェイクドキュメンタリーQ」ではない。テレビ東京の番組『アルコ&ピースのメガホン二郎』のイベント企画「アルコ&ピースのメガホン二郎 Season1 Final ~春の映画まつり~」のために製作された、寺内監督による短編作品である。
 イベントではyoutuber集団シネマンションの製作した短編との対決形式で上映された模様。キャプションにはこちらの作品の方が敗退したためにyoutube上で公開されることになった、とある(※当該イベントは配信もされていたようだが、残念ながら私は視聴していないので細かいことは分からない)。

 みゅらりんごさんのツイートによると、今作の製作には以下のルールが設けられていた様子。

・5分尺に収める
・撮影機材はiPhoneのみ
・CGの使用は不可

 心不全で亡くなった大学生が所持していたスマートフォン。
 その中には、彼が通っていた大学の教授―彼も大学生と同時期に心不全で亡くなっている―と詳細不明の人物が、とある集合住宅の中を歩き回る様子を収めた映像が残っていた。
 教授と大学生は超常現象の研究をしていたというのだが…。

 まず最初に見て思うのが、冒頭がフェイクドキュメンタリーQすぎる!!!ということだろう。
 今作がyoutube公開された2023年3月12日は「Q」の最後の新作は2月19日に公開されたQ2:3「- (basement)」という状況で、だいぶお預けを喰らっていたのでこの冒頭20秒の編集でブチアガってしまった。ありがとう。これでしばらく生き延びれます。
 本編そのものもかなり「Q」に寄せた作りになっている。イベント概要にて、寺内監督の代表作として「フェイクドキュメンタリーQ」が紹介されていたことも関係しているかもしれない。

 ただ、今作は「Q」を見ていない人も楽しめるように工夫されたつくりになっていて、そこが決定的に「Q」と異なっている。

 まず動画の尺が4分30秒、という点。
 これは前述のルールに則った形だが、結果的に4分の尺である程度の状況を伝える必要性の発生によって、どんなに短くても6分、平均して8分~12分程度の時間をかけて一つのテーマをゆっくりと追求する形を取っている「Q」とは違い、「出来事」の何となくの輪郭が短時間で誰にでも伝わるようなつくりになっている。
 ところどころに挟み込まれる異変もフェイクドキュメンタリー系のホラーの文脈に則った、よりはっきりとした形を取って表出しており、特に動画の最後で顔を出す「アレ」は「Q」にはない要素と言えるだろう。
 また、冒頭のテロップの「ミステリアスな動画」という言い回しや、見やすいテロップが随時出ている映像構成(「Q」だったらあえてテロップに起こさないだろうな、と思う箇所も全部丁寧に文字起こししている)といった細部には、意図的に「Q」とは違うもの(おそらくは、「Q」よりも幾ばくか分かりやすいもの)を作ろうと志向した様子が何となく見て取れる。

 かといって出来が落ちるのかと言えばそんなことはなく、むしろのその分かりやすさを損なわないギリギリのレベルまで「不明」を貫いていて、故に短い尺の中に質の高い「なんとなくイヤ」な感覚を充満させることに成功している。
 何かが起こっているのは分かるがその実像がわかりそうでわからない、故に疑い出すとキリがない、という「信頼できない状況」の持つ不穏を生々しくパッキングする手腕はここでも発揮されている。例えば、入口で住人と思しき女性とすれ違い挨拶を交わす何気ないくだりが、本編を最後まで見た後だとどうしても気になってしまう。これこそ「Q」特有の感覚だろう。
 また、「昼の屋外」を舞台に設定しているのもポイント。学生がスマートフォンに収める数々の異変、不穏な言葉が大量に飛び交う会話、そうした直球のホラーギミックを展開するキャンバスとして子供の遊び声が遠くから聞こえるおだやかな住宅街の風景を選択し、「何気ない日常の横で深刻な異常が展開する」という構図を作り出しているのが素晴らしい。思えばQ4「祓」でも全く同じポイントを褒めたな。
 ホラー表現の鋭さも抜群。最後に現れるものももちろん怖いのだけれど、個人的には学生と教授がとある部屋で見てしまう風景があまりにも嫌すぎて、「必要最低限の要素だけでよくこんな最悪な景色を思いつくな…」と感嘆した。
 そして絶妙なのが、Q12「ラスト・カウントダウン」の「アレ」を思わせるタイトルの出し方。これは実際に映像で確認していただきたい。

 ややわかりやすめの作り、短い尺、ということで、まだフェイクドキュメンタリーQを見たことがない、というビギナー向けの作品として重宝しそうな感じがするので、是非とも恒久的なアクセスを確保して欲しいところ。
 これを見て「面白い!」となった人はすぐさまより深い信頼のできなさを味わえる「Q」本編に進んで欲しいし、これを見て「怖すぎる…無理…」となった人は用心して更なる恐怖が待つ「Q」本編に進んで欲しい。

 また「Q」のファンとしての観点でいえば、寺内監督単独制作ということもあって、寺内監督と皆口氏の二人が「Q」においてどのような役割を果たしているのか、という点を考察できる作品としても貴重な存在ではないだろうか。