大事MANブラザーズバンド 『これも大事』

※私のdiscordサーバーで展開していた企画用に書いた文章を基にしています。ほぼ原形を留めていませんが。

 1991年の9月、全作から僅か7カ月強という異様なハイペースでリリースされた2ndアルバム。
 今作は先行シングル「それが大事」のリリース直後に発表されている。「それが大事」のヒットはリリース後の91年末~92年初頭なので、結果的に1st『大事な気持ち』と今作の2作はヒット前のアルバムということになる。
 また、今作から一部の楽曲の編曲にアレンジャーの渡辺禎史が携わっている。この後の作品にも渡辺は時折アレンジで参加することとなる。

 結論から言えば、前作の欠点をすべて補った傑作である。

 まず1曲目「Birthday Time」がとんでもない。最初にCDを聴いたとき、1曲目に流れ出したこれが本当に衝撃だった。メロディ、アレンジ、ボーカルパフォーマンス、演奏、歌詞、全てが完全無欠の大傑作。サビの繰り返しが多いこってりした構成の曲(長さも5分超)なのだけれど、聴いた後に若干の口惜しさを感じるレベルで全てが完璧。

 更にそこに続くのが負けず劣らずの名曲「青春の弱点」。今作はこの2曲が並んだ時点でもう勝ちが決まったとしか言いようがない。硬派なロックにどこか物悲しいメロディを乗せたトラックとそのトラックの魅力を最大限に発揮するバンドの演奏(ラストのキーボードソロは絶品!)は勿論、ここに来て立川の作詞が前曲を上回るレベルのキレを見せる。とりわけサビのこのフレーズはすさまじい。

夢で恋を語るだけで力尽きた青春の弱点

大事MANブラザーズバンド「青春の弱点」 作詞:立川俊之

 さらに3曲目には誠実で素晴らしいロックバラード「クレアによせて」が用意され、そのまま勢いが衰えないまま最後まで走り抜ける。

 軽快なシャッフルナンバー「この恋は終わらない」、重厚な美メロバラードに乗せてこいの終わりを歌い上げる「愛しい人と逢える時」、サックスソロ完備のブチギレラテン風味ロック「これで最後のLOVE」、サザンからの影響を感じるメロディとムーディなアレンジが印象的な「Autumn Avenueを君と」、サザンオールスターズを換骨奪胎したようなファンクに乗せて「結婚」というトピックを皮肉たっぷりに歌い上げて見せる「本来・婚礼・一生問題」、タイトル通り両親への感謝を歌い上げるバラード「For My Parents」。
 そのどれもがキャラが濃くてしかもハイクオリティ。全曲の作曲を手掛ける立川の音楽知識の広さ、そしてセンスの良さを堪能できる。
 半数の曲をバンド自らで、そして残る半数の曲を渡辺禎史とバンドの共同で手掛けたアレンジも抜群で、多彩なアイデアを次々と繰り出してくるので最後まで飽きさせない。
 アルバムの中に4曲収録されているバラード曲がどれも5分前後あり、更にうち2曲は6分越えと若干の重さがあるのが唯一の欠点と言えば欠点だが、どれもメロディが非常に良質なので苦痛にならず聴き通せる。

 それにしても、いったい前作から今作までの半年ちょっとの間に何があったのか。
 のちの立川による振り返りによれば「それが大事」は契約解除を仄めかされるなどレコード会社からのプレッシャーが掛けられた状態で製作された楽曲のようだし、今作にも「売れなくてはいけない」というプレッシャーから来る焦りは確かにあったのだと思う。
 どうやらこのバンドの場合、その焦りがむしろキャッチーな曲を生み出す原動力になったようだ。

 そんな中、満を持して6曲目に現れる、半ばバンドの代表曲的な扱いを受けている「それが大事」。改めて聴いてみれば、確かに立川のメロディセンスが今作の中でもひときわキャッチーな方向に振り切れた名曲だ。
 …だが、今聴くとアルバムの他のトラック群とかなり距離を感じる楽曲になっていて、かなり浮いた存在になっている。
 そもそもここまでの大事MANブラザーズバンドの楽曲でここまでストレートな応援歌というものは実は殆どなく(今作以降は「キボウ」「出来ないなんてないっ!」といった応援歌路線の楽曲が散見されるようになる)、事実今作の中でも素直にポジティブな楽曲というのはこれ以外には「クレアによせて」と「For My Parents」ぐらいしかない。
 明るい中にも若干の影を匂わせる、そんな作風の楽曲がこのバンドの真骨頂であることは今作や次作『夏を待つ理由』を聴けばわかっていただけると思う。
 そう考えるとやはりこの曲は「Smells Like Teenage Spirit」…程の忌み子ではないかもしれないが(近年の立川はこの曲をポジティブな気持ちで演奏できているようだし)、あくまで売れなければいけないというプレッシャーの影響下でたまたま投げることができた魔球であり、状況の産物なのだと思う。

 ご存じの通り大事MANブラザーズバンド、そして立川は後々まで「それが大事」の存在に翻弄されることになってしまうのだけれど、それはひとえにプレッシャーが掛けられた状態でたまたま投げることが出来た普段とは違うフォームの魔球が、何故か時代にフィットして想像以上に大ヒットしてしまったせいなんじゃないだろうかと思う。
 これはよくある話でもあるが、しかしその大ヒットのせいでバンドとしてはむしろ過小評価されることになってしまった、というのが何とも皮肉である。

 ともかく傑作。全体的にキャッチーでバンドの才気が伝わりやすい曲が揃っており、音作りも聴きやすいので初めて聴く作品としてもかなりおすすめ。また今作に関しては中古市場でも入手しやすい。