『The Audition』全曲レビュー
最近、『The Audition』シリーズを全作まとめて入手した。某オークションサイトで。
『The Audition』って何?
そもそも『The Audition』とは何かというと、ブルボンとソニーミュージックによる合同企画『The Audition プロデューサーはキミだ!!~21世紀ガールズユニット結成キャンペーン~』のために販売された商品。
ブルボンの製造したお菓子と一緒に2曲のデモ音源(ワンコーラス)及びエントリーボーカリストのトークが入った8cmCDと特製はがきが封入されており、お菓子(商品写真を見る限りではブルボンの他の商品を改変したものっぽい)とCDの内容がそれぞれ異なる「YELLOW」「GREEN」「BLUE」「RED」「BLACK」の全5種が販売された。
購入者はCDに入っているデモ音源に耳を通し、特製はがきを使って一番良かったエントリーボーカリストに投票。君がプロデューサーとなり、次世代のスターを選ぶのだ!…という触れ込み。
当時の販売価格は各300円。CDが付いていると考えたら安い…というか1990年代~2000年代のCDバブルだからこそできた低価格だなあ。
結局この企画はどうなったのか
後にこの企画によって得票を得た澤亜沙美、待島佐和子、西村朝香の三人がチュエル'sとしてメジャーデビュー。
ブルボンの同名商品のCMソング「風と光とうたと」を歌唱し、CMの映像にも登場した。
…しかし実際のところ、この三人は札幌の芸能学校で結成されたBelieveというグループのメンバーだったらしく、…言葉を選んで書くと、企画自体が触れ込み通り進んでいたものだったのかは…今ではわからない。
なお、ここら辺の内情に関してはこのオーディション企画の参加者であり、なおかつBelieveのメンバーでありながらチュエル'sには選出されなかった方が後に連載記事で当時の内情を書き記しており(これとこれ)、参加者もあまり実態を把握していなかったっぽいことが伺える。
ただ、「採用された参加者に投票した人はプロデューサーとしてデビュー作に名前を掲載!」という触れ込みに関してはきっちりと守り、チュエル'sのCDのインナーに投票者全員の名前を印刷したらしい。変なところが律儀!
結局チュエル'sのシングルはほぼ売れず、チュエル'sはこのシングル1作のみで解散した。
その後、チュエル'sに参加していた西村朝香はZONEにTOMOKA名義で加入。実は西村はデビュー前のZONEに在籍していたが諸事情でメジャーデビュー時に解雇されたらしく、この加入は正確には再加入だったようだ。
また、チュエル'sには選定されなかった参加者である奈良安由加も、ZONE解散後に元ZONEのMAIKOとガールズバンドRED WORKER’zのメンバーを中心に結成されたバンド、MARIAに参加している。
なんか…情報を書けば書くほどきな臭くなるが、それはさておき…。
『The Audition』の資料的価値:町田紀彦作品
このシリーズには非常に重要なポイントがあり、町田紀彦の作曲作品が5曲も聴けるということ。
彼がZONE以外に提供した楽曲はかなり希少で(どうもZONE以外の事務所所属タレントに向けて様々な曲を書いていたようだが、その殆どが音源化されておらず、ZONE以外に提供した曲でまともに流通している曲は片手で数えられるぐらいの曲数しかない)、それがワンコーラスの尺とはいえ5曲も聴けるのはとてもデカい。
…でも…ランタイム社員の町田紀彦がそんなにフィーチャーされているってことは…やっぱりこの企画って…。
色々思うところはあるが、ここからは実際に収録曲を聴いた感想を述べていこう。
CDレビュー
CDはどれもDJの短いアナウンスで始まり、「DJによる参加者の短い紹介→ワンコーラス尺のデモ音源→参加者によるコメント」を二回繰り返した後にもう一回DJによる投票を呼び掛けるコメントが入って終了する、という流れになっている。
CDを再生すると短いあいさつの後にいきなり「このCDを聴いてくれているキ・ミ・が!プロデューサーなんだよ~!」と言われるのですげえビックリする。
なお、この「如何にもDJ風」の喋りをこなしているDJに関しては自己紹介もクレジットもなく、何者なのかは一切不明。
各曲の長さはトラック毎にかなり変動があるが、概ね2分半前後といったところ。
ちなみに。
言うまでもないですが、以下の文章に於ける各ボーカリストの評価は「プロの歌手ではないオーディションの参加者」であることを加味した評価なんで、そこら辺を容赦して読み進めてください。
YELLOW
収録曲が2曲とも町田紀彦楽曲で構成された唯一の盤。ただし内容はそこまでではない。
01:澤亜沙美「attract」
作詞・作曲:町田紀彦 編曲:平山博之
サビこそかなり町田紀彦っぽいメロディラインが聴けるが、それ以外の部分の歌メロの展開が異常に平板、かつ不安定で何とも言えない感じ。特にサビの前に入るCメロはかなり変。
先述のようにサビはかなり町田紀彦っぽいキャッチーなメロディなので悪くはないが、ZONEに提供した名曲群と比べるとちょっと見劣りしてしまうかなあ…というのが素直な感想。
最終的に採用されただけあって割と歌は上手いが、とはいえオーディション参加者ということもあってやや棒読み気味な部分も目立ち、それ故に歌メロの不安定さがより目立ってしまっている感がある。
アレンジは典型的な2000年代初頭J-POPという感じで、特筆することなし。このオーディションプロジェクトの内容を踏まえたと思しき歌詞がさりげなくテクニカル。
この曲を筆頭としてシリーズ全10曲のうち、半数近い4曲でアレンジを担当している平山博之はソニーミュージックに在籍していたプロデューサーとのこと。本人のものと思しきfacebookアカウントによると、2005年にソニーを退社している。
02:奈良安由加「evening beach」
作詞・作曲:町田紀彦 編曲:和田勝彦
ZONEでもあまり聴けなかったレゲエ調の曲。これも町田紀彦っぽいメロディが聴ける曲ではあるが、かなり印象薄い。
これ、レゲエ調のアレンジが良くなかったんじゃないか…。町田特有のクセ強歌メロが、レゲエのリズムに載ることで却って単調に聞こえてしまう感じがある。
この曲はボーカルも印象薄い。
アレンジャーにZONE「大爆発No.1」を手掛けた和田勝彦の名前が。この人はZONEのデビュー前に楽器のトレーナーを担当していた人物でやっぱりランタイム関係者。
スネアの連打を連発するリズムトラックが独特。
あと『今日は 楽しかった 花火もした』に代表される、ロマンチックなシチュエーションを素気の無い表現で描く歌詞がめっちゃ町田っぽい。
GREEN
前作から一転、シリーズで唯一となる町田作品が含まれない盤。「dear memory」は名曲。
03:待島佐和子「Born To Make You Happy」
作詞:高橋豪 作曲:大野幹恭 編曲:平山博之
すげえ90年代初頭な感じ。
2000年にこれはメロディもトラックのアレンジもかなり古いよなあ…。悪くはないけど…正直「よくあるタイプの曲」以上でも以下でもないので書けることが少ない。歌詞もそんな感じ。
その割には結構長い曲で、ワンコーラスなのにコメントが入っている箇所含めて3分ぐらいある。あと次の「dear memory」と比べるとトラックの音色の安っぽさが耳に付く。ボーカルはまあまあ上手い。
作曲の大野幹恭は作曲仕事に関してはよく分からないことが多いが、現在もギタリストとして北海道を中心に活動している…って…北海道を中心に活動ってことはこの人もランタイムの関係者…?
大野はチュエル'sのシングル「風と光とうたと」の表題曲の作曲も手掛けている。…やっぱりこの企画…もういいか。
04:佐久間あず沙「dear memory」
作詞・作曲・編曲:真友
ドラムンベースを大胆に取り入れた野心的なトラック。
これは名曲!バリバリのドラムンの上にベタな90年代J-POPなメロディを乗せるアイデアが素晴らしい!Aメロ→Bメロ→サビのメロディの流れやピアノの美しい響きを印象的に配したアレンジも流麗。ボーカルも良い声&テクニカルで、全体的に「聴かせる」楽曲。個人的にBメロのハモりが幻想的で好き。
このシリーズの楽曲は基本的にワンコーラスで聴かせること前提で作られているからか、ワンコーラスで終わっても特に口惜しさを感じることはないのだけれど、この曲に関してはめちゃくちゃフルコーラスを聴いてみたい。
トータルプロデュースを手掛けている真友はアニソン系の作曲家?のようだが、google検索だと他の「真友」が大量に出てきてこの人の情報が全然出てこないし、JASRACのデータベースで検索しても10曲程度の情報しか登録されていない。謎が多い。
歌詞のフレーズのぶつ切り感が結構独特なのだけれど、こういう作風なんだろうか。
佐久間あず沙はこのプロジェクトに参加する前に、ソニーが発売した『De-View File #1』というコンピレーションに参加しているらしい。
BLUE
ここからの3枚は町田作品+それ以外の作家の曲という構成。突然ベテラン作曲家が参加。
05:成田望美「colors」
作詞・作曲:町田紀彦 編曲:和田勝彦
町田紀彦作品とは思えない超普通の曲。
サイケっぽい要素が入ったアレンジ(「evening beach」と同じくランタイム組の和田勝彦が担当)含めマイラバの風味がかなり強めの曲で、町田の個性があまり感じられない。サビメロもマジで普通。
…これ、本当に町田紀彦…?こんな小林武史風の歌メロ書く人だったっけ…?
強いて言えばサビが微妙に盛り上がらない感じが町田っぽい?でもこの「サビの盛り上がらなさ」もコバタケ作品によくある感じなんだよな…。あとはよ~く聴けばBメロの歌メロが多少町田っぽい…か?
ボーカルもかなりマイラバのakkoっぽいというか、これに関しては成田さんが悪いのではなく完全に曲に引っ張られているな…。
見方を変えればZONEではまず聴けないタイプの曲であり、かなりレアなのでは。
歌詞はイメージの集積だけで構成された感じで、こっちは結構町田っぽい。
06:田中友可里「GO FOR IT!」
作詞:久和カノン 作曲・編曲:羽場仁志
ありそうでなかった、ディスコの要素が入った四つ打ちハウスアレンジのド直球アイドル歌謡。
これはかなり良い曲。イントロのスーパーの特売日のBGMみたいなアレンジから一気にテンションが上がる。Bメロからサビの歌メロの流れに、90年代J-POPの「あの感じ」が充満していて最高。ボーカル・歌詞も90年代J-POPの「あの感じ」満載で曲に合っていて良い。
せっかく良い曲なのに、テンポが速いせいかワンコーラスがあっという間に終わってしまうのが勿体ない。
作曲を担当している羽場仁志は様々な有名シンガーに楽曲を提供してきたベテラン作曲家。
他の面子がその後の消息がいまいちよく分からない作曲家ばかりな中、いきなりちゃんとしたキャリアを確認できるベテランが参戦しているので結構な違和感がある。
他のシンガーに提供する予定で製作したもののボツったデモ曲がここに回されたんじゃないかと個人的に推測しているが…どうなんだろう。
また作詞の久和カノンはチュエル'sのシングルにも参加している。
田中友可里は佐久間あず沙と同じくソニーが発売したコンピレーション『De-View File #1』への参加歴アリ。また、この『The Auditions』の後にLove Marinesというアイドルユニットに加入している。ソロでグラビアDVDも出していたらしい。
RED
個人的に一番見どころが多いと感じる盤。特に町田紀彦ファンは見つけたら即ゲットしよう。
07:西村朝香「only」
作詞・作曲:町田紀彦 編曲:平山博之
このシリーズの町田作品で、最もZONEの名曲群に近いフィーリングがある名曲。
細かいパートを詰め込み、最後にはCメロとも大サビとも言い難い謎のパートが突然出てくる独特の曲構成、その謎のパートに最もエモーショナルなメロディを持ってくる展開、印象的な癖があるメロディワーク、曲を構成する要素全てに強烈な「町田節」を感じる。
その「町田節」をビートルズ風のトラック(初期ステレオの「泣き別れ」を再現した大胆なミックスが秀逸)に乗せたアレンジは正に発想の勝利。
この曲は歌詞の質感もZONEの楽曲に近く、一番町田紀彦感がある。
そんな一番ZONEに通じるものが多い楽曲のボーカルを取っているのが、後にZONEにTOMOKAとして加入する人物であることに奇妙な因縁を感じる。技術的にはまだ稚拙な部分も目立つが、何せ元々ZONEのメンバーだっただけあって町田曲との相性がいい。
このシリーズの楽曲でこれが一番好きかもしれない。これ、せっかくならZONEでリメイクして欲しかったな~。名曲になったはず。
08:外山恵梨「君のいない世界」
作詞:上村洋史 作曲・編曲:上村洋史、城田憲吾
このシリーズの楽曲で唯一となる、シティポップっぽい雰囲気が漂う楽曲。
これはね~、当然のように好きです。特にサビはトラックも歌メロも完璧だし、その完璧なサビで始まる曲構成も抜群。
名のあるシンガーに提供されていたら普通にヒットしていそうなクオリティで、こんな限定的な流通の仕方をしているのはちょっと勿体ない。ワンコーラスで2分半ぐらいの短い曲なのだけれど、あまりにも曲が良いので十分すぎる満足感がある。ボーカルの歌いこなしも曲に合っていて良い。
作曲の上村洋史と城田憲吾はDizzyというバンド?女性歌手?の楽曲を多く手掛けている(バンドだとしたらメンバーだったのか…?)ほか、城田憲吾はTAISUKEという男性歌手?の楽曲を、このコンビ編成ではアニソンを数曲手掛けているようだが、それ以外の目立った情報が出てこない。この人たちも謎が多い。
あと曲の最後に入る本人コメントによると、外山さんは作詞にも少し参加しているらしい。だったら作詞のクレジットに入れてあげても良かったんじゃないかと思うけれども、色々な事情で難しかったんだろうか。
BLACK
最後の盤。謎の作曲家CHIKAO。
09:安岡綾香「day dream」
作詞・作曲:町田紀彦 編曲:平山博之
町田紀彦の怪しい個性が前面に出た曲。サビの単調な歌メロからいきなり妙に複雑なフレーズに移行する感じとか、いかにもな感じ。
ただ個性とキャッチーさが抜群に決まっていた「only」の後に聴いてしまうとかなり食い足りなさを感じる。同じ路線の楽曲ならキャッチーなサビメロが用意されていた「attract」の方が良いかもしれない。
ただ、ZONEに提供した名曲群と比べると…というのは「attract」もこれも一緒だと思う。
ボーカルは声質が個性的だけど、やや技術的に頼りなさを感じるかなあ。
あと何故か歌詞が全編ひらがな。
10:山下いづ美「虹」
作詞:Me' ya 作曲・編曲:CHIKAO
ザ・2000年代初頭J-POP。
サビメロもアレンジもかなり良いので嫌いじゃない、どっちかって言うと割と好きだけど、「ド直球の2000年代J-POP」であり、それ以上でもそれ以下でもない曲なので感想を書けと言われるとなかなか難しい。Bメロでいきなりボーカルにパン振られる辺りは結構独特か。
あと、これは最後に入っている山下さんの自己紹介が一番面白いかもしれない。めちゃくちゃキャラが濃い。
作詞のMe' ya、作編曲のCHIKAOはどちらもJASRACのデータベースにこの1曲しか登録作品がない謎の存在。その割にはまあまあクオリティの高い曲なので、誰かの変名か何かなんだろうか?また、三点リーダーを多用するMe' yaの詞の作風はかなりクセが強い。
総評
曲自体は粒揃い。どの曲もそれなりのクオリティを保持しており、故に「好みの問題」の領域も大きいため、私があんまり気に入らなかった曲であっても気に入る人はそれなりにいるだろうと思う(その逆も然り)。
ボーカルに関してはオーディションの参加者なのでまあ…という感じではあるが、とはいえ極端に下手な人はおらず、最低限の歌いこなしは出来ているため、聴取をする上では特に問題ない。
また、各曲のクオリティは別にしても町田紀彦作品をこれだけ聴ける点にはやはり代え難い資料的価値がある。「colors」のような作風の曲はこれ以降ないし。
ただ、全部聴いた後に抱く感想は「結局これってどういうプロジェクトだったんだ?」というものだった。
音楽業界の”あまり良くないところ”が見え隠れするバックグラウンド、チュエル'sは全く売れずシングル一枚で解散という全方向的にパッとせずに終わった結末、オーディション参加者だけでなく町田を含めた作曲家陣の殆どまでもが消息不明の現状、どれを取ってもただただ微妙な気持ちになる。
結局、これはCDバブルで浮かれていた2000年代初頭の音楽業界が作り出し、そして携わった関係者達だけが見ていた淡い夢のようなものであり、同時に時代の仇花(と言えるほど開花した蕾だったかどうか…)だったのだ、と思う他ない。
2020年代の今、その全てが「淡い第三者の夢」でしかないことを知ったうえで聴く『The Audition』シリーズは、各曲のクオリティの高さ、ボーカリストたちの初々しい歌唱、DJのハイテンションな喋りと裏で流れる著作権フリー素材と思しきBGM、どれを取っても暗い儚さに満ちている。