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『フェイクドキュメンタリーQ』全作レビュー10・「Q10:来訪」

Q10:来訪 - The Visit
動画タイトル:東北地方に存在した幻の儀式・来訪の記録映像
プレミア公開前タイトル:レイホ

※この回からプレミア公開前にタイトル・動画用タイトルとは別のタイトルが付くようになった

 邪悪な映像のインパクトと今作特有の不信感を直球でぶつけて来る充実の内容に、他の回との重要なリンクが張られるという盛り沢山のエピソード。

 東北地方の___村で口伝によってその存在が語り継がれてきた儀式、「来訪(レイホ)」。
 今日に至るまで情報の漏洩が禁じられているこの儀式の模様を、ある人物が捉えた希少な記録映像。

 この回はプレミア公開で見たのだけれど、その時の印象がかなり強烈だった。何せプレミア公開のカウントダウンが終了した瞬間に映し出されるのが「和室に安置された遺体」なのだ。
(これをずっと見せられるのかよ…)と半ば後悔に近い感想を抱いたのをよく覚えている。

 このシリーズの中では珍しい、「死人を媒体として冥界と交信する儀式」という直球のホラー要素が登場する回。
 当然「不可解な現象」や「異様なもの」は各話のいろんなところに登場しているが、はっきりとしたホラー要素が話のメインを引っ張ったのはこれ以外だと「いわくつきの映像」が登場したQ1と「お祓い」が登場したQ4、ぎりぎりで「いわくつきの家」ともいえる家が登場したQ5ぐらいか。あとはQ7もこの範疇に入るか?…でもあれは…うーん…。

 そしてこの”レイホ”の模様が非常に怖い。
 まあ明らかに遺体と分かるものが画面中央にずっと鎮座しておられるのでその時点で「怖い」のは必然なのだが、映像が進むにつれて遺体の状況が異様なものに変わっていくとともに、その「怖さ」が知っている恐怖からどんどん未知なる恐怖に変わっていくのが何よりも怖い。
 そんな異様な映像を、カット編集を交えながら淡々と流す編集がまた絶妙。ナレーションや取材がなく、映像の他には”レイホ”について説明するテロップが淡々と出るだけなので、嫌でもこの映像と直面し続けなければならないのだ。
 また、今回は映像の大半…というか終盤以外の殆どを固定の画角で貫き通しているため、映像内の小さな動きや些細な変化、そして映像に走るノイズの類が全て目に入ってしまい、遺体の状況の変移や状況の異様さにより気付きやすくなっているのもポイント。

 動画の構成にも嫌な点があって、というのも今回の映像は”レイホ”の目的が単なる冥界との交信ではないことが、4分過ぎになってやっと明かされるのである。よく考えると、ここまで時間が経過し充分に映像を見せたところで、けっこう重要な事実をいきなり視聴者に伝えるこの編集はかなりの「道連れ」感がある。
 そしてその「道連れ」感が、映像の撮影者と思しき人物が最悪の展開を迎えるラストへと結実していく様は、とにかく…嫌すぎる。
 そして同時に、このラストは冒頭辺りでテロップで説明されていた、”レイホ”が「今でも口外が禁じられている儀式」であるという事実を嫌でも思い出させられるのだ。

 そもそも、映像の最後に収められている状況からして恐らく撮影者はタダでは済んでいないはずだし、「今でも口外が禁じられている」事実を勘案すれば、ビデオカメラやテープは恐らく世に出ることなく葬られているはずである。
 しかし現実には、私たち視聴者は儀式を記録した映像を見ている。それは、「この映像を視聴する」という状況のどこかで確実に「禁忌」が破られていることを意味する。
 この映像を今作の作り手はどこから入手したのか?口外が今でも禁じられている儀式の目的や詳しい手段をこの作り手は誰から訊いたのか?そして、それを私たちに見せ、語る意味は一体何なのか?
 これらの問いはQ1から連綿と続く今作の「不明感」と不気味な共振を見せ、結果として今回の映像は、Q7に近い「見てはいけないものを見てしまった」感覚を強く植え付ける。

 しかしこの回はそれだけでは終わらない。

 障子戸の枠の形や家の構造をよく見ると分かるのだが、実はこの回の映像が撮影されている家は、Q4「祓(はらえ)」に登場した家と同一なのである。

 この事実が映像内で説明されることはない。しかし、Q2とQ8の「4桁の数字を読み上げる音声」の共通にも何も説明が無かったし、そもそもこのシリーズの作り手が「これは○○の回に出てきたものと同じもののように思える…」などとわざわざ説明するはずもない。
 今作の各回を繋いでいる(ように見える)リンクはどれも不明瞭なものが多い。それだけにQ2とQ8の音声、そしてQ4と今回の家の二点は共通項としてあまりにもくっきりとし過ぎていて、なかなか異様だ。
 しかし、この事実を踏まえるとQ4は相当禍々しい内容の話になってしまうことになるが…。

 また、Q4では登場人物が全員関西弁で喋っているのに対して、今回の”レイホ”が東北地方の儀式であることのミスマッチがよく指摘されるけれども、よく考えたらQ4の映像の舞台が関西圏だとは映像の中では一切明言されていないし、なんだったら今回の映像もあくまで”レイホ”が東北地方の儀式であるというだけで、撮影場所が東北地方とは明言されていないことに注意すべきだろう。
 そもそもここまで禁忌によってガチガチに守られていたはずの儀式の映像を、それらの禁忌を破ってまで私たちに見せる作り手が、そしてここまでの回の様々なところで「フェイク」を仕掛けてきたこのシリーズが、視聴者に対して本当のことを言う保証もない、ということも思い出さねばならない。

余談。
 文章の冒頭で書いた通り、私はこの回をプレミア公開で視聴したのだけれど、その際にプレミア公開の「動画の長さが分からない」仕様によって動画の残り時間による推測ができないため、見ていて先の展開が全く読めず、先述した「嫌でも映像と直視しなければならない」構成と相まって大変怖い思いをした。
「プレミア公開で動画の再生時間を伏せる」という手法はインターネット時代における新しいホラーの手法として有効かもしれない、と思った次第。