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バットマンを聴き直す(Scandalous)

当時もプリンスは大好きだったけれども、活動としてはあまり熱心なファンをしていたわけではなく、アルバム等もきちんと揃えていませんでした。でも、バットマンは黒い缶に入ったCDを買いました。保管状態が最悪で、もう傷だらけです。

その頃持った感想は、私が求めるプリンスじゃない。他の人の映画用に作ったものだからしょうがないか、というものでした。その後も何十年も同じような感覚でいて、バットマンは常にどこか遠い存在と感じていました。

これを聴き直し始めたきっかけは、“The Arms of Orion”です。WDPDTW読書会で、好き嫌いがはっきり分かれる曲だったので。

まずは、KIDさんのガイドでアルバムについて基礎を確認。

ブックレットには曲ごとに「lead vocal BATMAN」などとテーマとなるキャラクター名がクレジットされているのが特徴で……

KID『プリンス オフィシャルディスク・コンプリートガイド』

そうだったのか。ヴォーカルはプリンスではないのか、と35年経って知りました。

一番驚いているのは、“Scandalous”のリードヴォーカルです。“The Future”と“Scandalous”のリードヴォーカルはBATMANでした。

“Scandalous”という曲はBATMANとキム・ベイシンガーのロマンスとして作られた曲ということですか!

よくよく聴くと“Scandalous”はプリンスのバラードにしては直線的な気がします(アルバム『Batman』の感触が全体的にそう感じます)。この曲ではとくにスキャーンダラス!やマーヴェラス!が、スカーンと空に飛んでいくような声になっていて、それは、とてもすてきなのですが、いつものプリンス柔らかさやねちねち感が少なめだと思います。

歌詞も冒頭から「近くに来て、触れて、感じて」と始まり、「待てません」と歌ったあとは、「前戯は飛ばして倒れ込もう」と一直線に進みます。

やや前のめりのまっすぐな感じはBATMANから来るのかと思いきや、“Scandalous”のトラッキングは1988年10月17日で、BATMANの映画の話が来る12月より前です(各書籍、サイト参照)。作詞作曲時点ではBATMANを意識していなかったということになります。さらに、共作者は父のJohn L. Nelson氏。

アルバム『Batman』の中には、映画にインスパイアされて作った曲と、過去曲を使ってアルバムに合うように仕上げていったものが含まれているということになりそうです。

ジェイク・ブラウンの『プリンス録音術』に、エンジニアのチャック・ツウィッキーの言葉が書いてありました。

『Batman』のレコーディングを終えて、最終的な曲順を決めていると……(中略)……こんなにも大きな決断についてプリンスが僕に意見を求めたことなんて滅多になかったんだけど、『この曲とこの曲、二曲を聴き比べて、どっちの曲が『Batman』にふさわしいか教えてくれ』って言ってきたんだ。

ジェイク・ブラウン『プリンス録音術』

この2曲というのが、“Scandalous”と、『Graffitti Bridge』に入った“Still Would Stand All Time”です。

プリンスがエンジニアさんに意見を求めたことにも驚きました。ともかく、ここで“Scandalous”と答えたツウィッキーさん、ナイスです。なお、質問された時点で、“Still Would Stand All Time”にはまだスティールズのコーラスなどは入っていなかったようです。

結果としてどちらの曲も良い収まり方をしたと思います。

MVが撮影されたのは1989年後半。くねくね踊る部分もありますが、軽やかさや流れるような動きがなく、妙に力強く、体操選手のようです。腕をグルングルン回したり、大開脚で力強い姿勢をしているからか、そう感じます。BATMANを意識して強さを出しているのでしょうか。撮影ではキム・ベイシンガーがVideo Treatmentという役割だったようです。ビデオの原案を作ったということかと思います。

“The Future”の踊りもそうですが、イメージの問題として、肘や膝がピンと伸びきった踊りのような気がします。その硬いイメージは、BATMANから来ているのだとすると、曲のアレンジとも合わせてとても納得できます。


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