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Solana完全レビュー(2024年上半期時点)


Solanaのユニークさはどこにあるでしょう?多くのブロックチェーンプロジェクトが存在する中、様々なアプローチでSolanaはブロックチェーンの基本的な要素にフォーカスしていますが、そのアプローチは非常に独特です。特にSolanaが焦点を当てているのは時間です。結局のところ、ブロックチェーンに分散型クロックを導入すると、誰も想像できなかったほど効率的になるということSolanaは証明しました。

1. Solana誕生の歴史

アナトリー・ヤコヴェンコは、Solanaブロックチェーンの創設者であり、技術者としての経歴がそのSolanaの立ち上げにも大きく寄与しています。

ウクライナ出身のヤコヴェンコは、アメリカのイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校でコンピュータサイエンスの学位を取得した後、Qualcommをはじめとする複数のテクノロジー企業で働きました。Qualcommでは、12年間にわたりスマートフォンの基本技術開発に携わり、その後、分散システムを扱うメソスフィアやクラウドストレージのDropboxで技術革新に貢献しました。これらの経験は、後にブロックチェーン技術への転身を促す重要な基盤となっています。

画像:Anatoly Yakovenko(Medium)

ヤコヴェンコのブロックチェーンに対する関心は、当初はそれほどありませんでしたが、ディープラーニング技術の研究と並行してBitcoinのマイニングを経験する中で、ブロックチェーンの潜在能力に気づき始めました。特に2017年、彼はビットコインのハッシュ関数SHA256を用いて、暗号通貨ブロックチェーン上で分散型の時計、つまり「Proof of History」というSolanaの核となる概念を思いつき、これがセキュリティや分散性を犠牲にすることなく実現できると確信しました。

画像:iStock

2017年末にヤコヴェンコはQualcommの当時の同僚だったグレッグ・フィッツジェラルド、スティーブン・アクリッジ、ラージ・ゴカルと共に、正式にプロジェクトを立ち上げました。カリフォルニアのソラナビーチにちなんで名付けられたそのブロックチェーンのホワイトペーパーは2017年11月にひっそりと公開されたのです。

2. Solana基本概要

画像:Chainalysis

Solanaは、スマートコントラクトを実装する分散型アプリケーション開発向けに設計された高性能ブロックチェーンです。Ethereumの弱点とも言われるスケーラビリティ問題を解決しようとしていることから「Ethereumキラー」とも称されることがあります。Solanaは、開発当初から長期的なビジョンを持ってブロックチェーンを設計しました。これは、ヤコヴェンコが Qualcomm 在籍中に通信技術の能力が毎年ほぼ 2 倍に成長するのを見てきた経験から生まれたものです。そのため進化の早いブロックチェーンの中において現在も超高速な取引処理能力と低コストのトランザクション手数料で知られています。

その基盤となる技術は、前述した「Proof of History(PoH)」という技術です。後ほど詳しく解説しますが、これはブロックチェーン上の各トランザクションにタイムスタンプを付け、ネットワーク全体の同期効率を大幅に改善します。この方式は従来のブロックチェーンと比べて、高速でエネルギー効率が良いという利点があります。これによりSolanaは、秒間最大65,000トランザクション(TPS)を処理することができます。また、後述するFiredancerの実装により、さらに速度が向上する予定です。このようにSolanaは高い処理性能を備えて低料金と400ミリ秒のブロックタイムを提供することで、ユーザーフレンドリーなアプリケーション開発を促進します。

ちなみに、Proof of Historyは、コンセンサスプロセスの一部ではあるものの、核となるブロック生成権利者を決める仕組みはProof of Stake(PoS)を採用しています。様々な情報源で「コンセンサスメカニズムにはProof of Historyを採用している」と書かれているため勘違いしやすいポイントですが、Proof of Historyはあくまでもコンセンサスを効率化するためのコア機能と考えると、より正確でしょう。基本的なProof of Stakeの枠組みを使用しつつも、Proof of Historyとの組み合わせによって、より強化された処理性能を提供しているということです。

このようなSolanaのアーキテクチャはGoogleやMicrosoftが使用するデータベース技術に触発されたものとしており、分散型データストレージプロジェクトであるFilecoinからの影響も受けています。これらのユニークなアイディアにより、SolanaはEthereumやCardanoなどの競合チェーンと比較して、はるかに高速なトランザクション速度を実現しています。特に、Proof of HistoryとProof of Stakeの組み合わせは、ブロックチェーン上のバリデーターがチェーン内の異なるブロックのタイムスタンプに対して投票することを可能にし、チェーンをある程度分散化した状態で、より高速で、よりセキュアな処理を実現しています。

3. Proof of History

SolanaのProof of History (PoH) は、分散型システムにおける時間の同期問題を解決するための技術です。通常、ブロックチェーン技術では、異なるノード間で正確な時間を同期することが困難です。たとえばビットコインの場合、新しいブロックの承認には時間を要するマイニングが必要ですが、これはネットワーク全体での時間の合意を間接的に行う方法です。一方、Proof of Historyはこの問題に対して直接的なアプローチを提供します。トランザクションが発生した正確な時刻を記録し、その情報を用いてトランザクションの順序を確定しています。

PoHは、基本的に「時間の記録者」として機能します。このプロセスは、あるデータから次のデータへと継続的に時間の証拠を生成する「デジタルタイムスタンプ生成機」と考えることができます。具体的には、初期のデータ(または状態)から始め、そのデータを元に次々と新しいデータ(ハッシュ値)を生成していきます。この生成されたハッシュは、それぞれが一連の繋がりを持ち、前のデータを基に次のデータが作られるため、それぞれのハッシュはチェーンのように連鎖しているのです。

画像:Solana

この「連鎖的なデータ生成プロセス」の特徴として並列処理が不可能な点が挙げられます。その理由は、各ハッシュの生成が前のハッシュに依存しているためです。新しいハッシュを生成するためには、直前のハッシュが必要となり、その過程は一つ一つ順番に処理する必要があります。このため、全体の計算速度は非常に高速ですが、並行して複数の計算を行うことはできません。

この連鎖的なハッシュ生成によって、Solanaはトランザクションの正確な時間を記録し、それに基づいて迅速かつ効率的にトランザクションを処理することが可能です。このシステムは改ざんが困難で、一度データがブロックチェーンに追加されると、その後のデータに影響を与えることなく過去のデータを変更することは事実上不可能です。また、PoHによって生成されたタイムスタンプは、トランザクションが確実に行われた時間を証明するため、分散型ネットワーク全体でのデータの整合性と透明性が保たれます。つまり、PoHはコンセンサスを得る前の段階の仕組みであり、その後のコンセンサスプロセスを効率化する役割を果たしているということです。

4. その他のSolanaの革新的な技術

Solanaでは、PoHを含む8つのコア機能が存在します。PoHについてはすでに説明した通りですが、それ以外に特に注目するべき3つの技術を紹介します。(各機能について詳細に知りたい方はこちらのサイトを確認してください。)それは、Turbine、Gulf Stream、Sealevelです。これらはProof of History(PoH)と組み合わせて使用され、Solanaのパフォーマンスとスケーラビリティを大幅に向上させています。

前提知識として、Solanaには「リーダーノード」が存在します。リーダーは新しいブロックを生成する役割を担っていて4 ブロック(1.6 秒) ごとにその役割が交代します。ノードはリーダーでいる間、生成している 4 つのブロックにできるだけ多くのトランザクションを詰め込み、トランザクションを含むこれらのブロックをSolana クラスターと呼ばれる関連ノードグループに提示します。これらのノードは、PoHにより付けられたタイムスタンプを参照してトランザクションを検証し、ネットワーク上の他の関連ノードにデータを迅速に渡します。リーダーの選択は疑似ランダムですが、ステークした SOL の量はリーダーになる確率に影響します。不正行為をしたノードはステークが削減され、削減された資金がブロック生成報酬に追加されます。

Turbine

TurbineはSolanaのブロック伝播プロトコルで、大量のデータを効率的に分散させるために設計されています。このプロトコルでは、リーダー(ブロックを生成するノード)がブロックを小さなパケットに分割し、最初のグループのバリデーターに送信します。これらのバリデーターは、受け取ったパケットを自分の「近隣」グループに再配布します。このネットワークは階層的なツリー状に構成されており、データは階層を下るごとに迅速に伝播していきます。これにより、全バリデーターへのデータ配布が効率的に行われ、大幅な帯域幅削減が可能となります。

Gulf Stream

Gulf Streamは、トランザクションの前処理と転送を効率化する技術です。Solanaネットワークでは、各バリデーターが次にブロックを生成する「予定されたリーダー」の情報を知っています。この情報を基に、クライアントやバリデーターはトランザクションを事前にこれら予定されたリーダーに直接送信します。これにより、トランザクションの確認時間が短縮され、システムの全体的なレイテンシーが低減します。

Sealevel

Sealevelは、多数のスマートコントラクトを並列に実行できるランタイム環境を提供します。ランタイム環境とは、プログラム(この場合はスマートコントラクト)が実行されるための基盤です。Sealevelでは、トランザクションが読み書きするデータの状態を事前に定義することで、依存関係にないトランザクションを抜き出し、それらは並列実行されることを可能にします。これは、Proof of Historyが各トランザクションのタイムスタンプを提供することで実現されます。PoHはトランザクションの順序を確定する役割を持ち、Sealevelはこの確定された順序に基づいて依存関係にないトランザクションの並列処理を行います。

これらの技術は、PoHと連携してSolanaのパフォーマンスを最適化します。TurbineとGulf Streamは効率的なデータ伝播とトランザクションの転送を実現し、Sealevelはこの堅牢な基盤の上で複数のトランザクションを同時に処理します。Solanaは一つ一つのプロセスを徹底的に効率化することで高速処理を実現しているブロックチェーンであると言えるでしょう。

頭を悩ませている方のために、Solana の仕組みを理解するために簡単な例え話を作ってみました。

画像:iStock

従業員が 180 人いる小さな会社を想像してください。この会社にはさまざまな部署 (経理、営業、マーケティング、カスタマーサービスなど) があります。すべての従業員は他のすべての部署の仕事のやり方を知っています。さらに、各従業員は1.6 時間ごとにランダムでリーダーの役を担わなければいけません。リーダーは、その間、さまざまな部署から送られてくる書類に署名する必要があります。

どの従業員がリーダーに選ばれるかは基本的にランダムですが、各従業員のコンピューター画面には、リーダーの役割を担う次の10人の人物が表示される小さなウィンドウがあります。これにより、従業員は事前にリーダー予定の従業員に書類を渡し、仕事をより早く終わらせることができます (Gulf Stream)。

画像:iStock

リーダーは書類に署名するたびに、タイムスタンプを付けて(PoH)、二重チェックのために適切な部署 (ノードクラスター) に効率的に送り返します(Turbine)。二重チェックが完了すると書類は会社のデータベースに追加されます。各部署の作業は重複しないように連携をとりつつ、同時に複数の書類処理を行うことができるように高度に仕組み化されています (Sealevel)。

これがSolanaで行われている基本的な仕組みです。重要なポイントは必要に応じてネットワーク上の異なるノードに異なるタスクを割り当て、すべてのトランザクションにタイムスタンプを付けて正確性を確保することです。それをベースに、様々な効率化のための仕組みがコンセンサスプロセスに組み込まれているのがSolanaなのです。

5. Solanaが抱える課題

Solanaはその高い処理能力で知られていますが、いくつかの重要な課題に直面しています。

まず一つに、度重なるネットワーク障害が挙げられます。ご存知の方も多いと思いますが、Solanaは2020年のメインネットローンチ以降何度もネットワーク停止に見舞われました。その原因は主に輻輳とBot活動の増加です。このような障害が起きるたびにネットワークを改善しているものの、2024年現在もこの問題は解決しておらず、ネットワークの信頼性に対する大きな懸念は続いています。

画像Cointelegraph Japan

なぜSolanaではこのようなネットワーク障害が度々起きるのでしょうか?それはSolanaのスケーラビリティは決して低くはないものの、ブル相場で加熱する投機需要に追いついていないためです。そして、処理能力を拡張させるための様々な対策はほどこされてるものの、根本的なアーキテクチャには限界あるようです。Solanaは高頻度取引のような高負荷なトランザクションを処理する能力を持っていますが、そのコンセンサスプロセスは非常に複雑な仕組みになっており、トランザクションが集中するとネットワーク全体に遅延が生じやすいという構造上の問題があります。このような問題はSolanaなチームでも共有されていて、2024年4月ににヤコヴェンコは「バグの修正は一時的な救済として機能しますが、より根本的なネットワークのアップデートに関しては困難なタスクになる」とコミュニティ向けにコメントをしました。

そして、SolanaがEthereumをライバルと見なすのであれば、クライアントの多様性の欠如は重要な課題と言えます。現在、Solanaネットワークのバリデータークライアントは主にSolana Labsによって開発されたものに依存しています。これはSolanaに限らずほとんどのブロックチェーンに同様の指摘ができます。この状況では、クライアントにもしバグや脆弱性が発見された場合、ネットワーク全体に大きな影響を与えるリスクが高まります。複数の独立したクライアントが存在できれば、ネットワークの耐障害性が向上し、セキュリティがより強固になります。しかし、この点は来年以降、改善していくでしょう。この後詳しく解説します。

最後に、運用コストとハードウェア要件の増大が挙げられます。Solanaのバリデーターは高性能なハードウェアを必要とするため、運用コストが高くなりがちです。特にネットワークのスケールに伴い、バリデーターに要求されるハードウェアの性能も高まり、それに伴ってコストも増大します。一般論で言うと、これは新規参加者の参入障壁となり、ネットワークの分散性が低下するリスクがあります。(現在のところは、高いハードウェア要件をものともせずバリデーターは順調に増えています。)

6. Firedancer

Solanaは度重なるネットワーク障害とその背景にあるスケーラビリティの限界、クライアントの多様性の欠如、および運用コストとハードウェア要件の増大という課題に直面していると説明しました。そして、その解決策として現在期待されているのが、新しいバリデータークライアントとして開発がされているFiredancerです。Firedancerは、Jump Cryptoによって開発が進められており、2025年にメインネットに実装が予定されています。

Firedancerの構想は、Solanaが直面する度重なるネットワーク停止やスケーラビリティの限界などの課題を解決する必要性から生まれました。特に、2021年と2022年に発生した大規模なネットワーク障害は、Solanaの信頼性に対する懸念を高めました。これに対し、Jump Cryptoは、高頻度取引での経験を活かし、Solanaのパフォーマンスと信頼性を向上させるための新しいバリデータークライアントの開発に着手しました。

理想的なブロックチェーンを目指す上でどこにも単一障害点があってはなりません。Solana は、複数の冗長性を構築するために4つの別々のチームが4つの別々のプログラミング言語で記述した4つの別々のバリデータを持つことを目指しています。その一つがFiredancerです。Firedancer は、次のことを目指して開発が進められました。

  • Solanaバリデーターコードの全面的な書き直し

  • 既存のプロトコルおよびバリデータと互換性を確保する

  • 高性能化のためにC言語で書かれている

  • スケーラビリティの向上(初期テストでは10倍から100倍の改善が見られる)

画像:Messari

Firedancerは、現行のSolana Labsのクライアントとは異なるモジュール化されたアーキテクチャを採用しており、各コンポーネントが独立して動作することで、システム全体の安定性を高めています。

1.モジュラーアーキテクチャ: Firedancerは、独立したLinuxプロセス(タイル)で構成されており、各タイルが特定の役割を担います。これにより、特定のタイルで問題が発生しても他のタイルに影響を与えず、システム全体の安定性を保ちます。また、各タイルは独立してアップグレードや置換が可能であり、ダウンタイムを最小限に抑えることができます。

2.データ並列処理: Firedancerは複数のデータ要素を同時に処理することで、トランザクションの検証速度を向上させます。これにより、署名検証のスループットが大幅に改善されます。

3.高性能なネットワーキングスタック: Firedancerはネットワークトラフィックを効率的に分散させることで、従来の負荷分散方法を超えるパフォーマンスを実現します。これにより、高負荷時でも安定したネットワーク性能が保たれます。

4.FPGAの活用: Firedancerは、低消費電力で高スループットを実現するためにFPGA(Field Programmable Gate Array)を使用します。これにより、リアルタイム処理が大幅に改善されます。

5.シャーディングのサポート: Firedancerはトランザクションを複数の部分に分割して並行処理することで、全体の処理能力を向上させます。

Firedancerは、まだ初期段階ですが、パフォーマンステストでは、Solana は1秒あたりのトランザクション数 (TPS) に関してVisaや他のブロックチェーンを一貫して上回ることができる可能性があることが示されています。実際、「Firedancer」は技術的な偉業であり、技術専門家のポール・バロン氏は次のように語っています。

「過去 20 ~ 30 年間にコンピューティング能力においてどのような技術的進歩があったかを考えれば、この技術は間違いなくトップ 10 に入るでしょう。彼らが成し遂げたことは実に驚くべきことです。」

画像:Messari
画像:Messari

7. Firedancerは本当にSolanaの課題を解決できるのか?

Firedancerは、Solanaのスケーラビリティと信頼性を大幅に向上させる可能性を秘めていますが、いくつかの懸念点も存在します。まず、FiredancerはC言語で開発されており、Rustが提供するメモリ安全性の保証がありません。当然開発者もこれを認識しているでしょうから細心の注意を払って開発が進められていると思いますが、メモリ管理の脆弱性が生じる可能性は一定数あるでしょう。また、既存のSolana Labsクライアントとは異なる設計であるため、互換性を保つためにその動作を忠実に再現する必要があります。これに失敗すると、非互換性によるコンセンサスバグが発生しセキュリティ上のリスクに繋がる恐れがあります。

さらに、Firedancerが実装されたとしても、どれほどのバリデーターが即時的にFiredancerに切り替えるかは不透明です。Firedancerの性能向上は魅力的ですが、説明したようなリスクを考慮すると、多くのバリデーターが慎重な姿勢を取る可能性があります。

また、様々な情報源でFiredancerがシャーディングをサポートしていると宣伝していますが、ブロックチェーンの仕組みを考えると、本格的に利用するためにはネットワーク自体にシャーディング機能を実装する必要があるはずです。これはSolanaのようなモノリシックブロックチェーンにとっては技術的に非常に複雑であり、ネットワーク全体の設計変更を伴うため、実現には時間とリソースが必要です。さらに、シャーディングの導入に伴う新たな課題(例えば、データの一貫性の維持やシャード間の通信の最適化)も考慮する必要があります。

Firedancerは、Solanaのバリデータークライアントの新しいアーキテクチャとして、スケーラビリティと信頼性の向上に大きく貢献する可能性を持っています。しかし、このような懸念点があるのも事実で、FiredancerがSolanaの課題解決にどこまで貢献できるかは実装してみないと見えてこない部分があります。

8. 分散性への改善

初期のSolana は、Solana Labs チームがバリデーターに関するすべての権限とVC資金を握っていることから、その集中化について多くの批判を受けていました。
ブロックチェーンのトリレンマでは、プロジェクトは分散化、セキュリティ、スケーラビリティのいずれかを実現できるが、そのうちの 2 つを達成するには 3 つ目を犠牲にする必要があると主張しており、Solana
は分散化を犠牲にしました。
Solana はこの懸念を理解しただけでなく、驚くほど迅速に行動し、Sig、JITO、Firedancer という3つの追加のバリデータクライアントを導入を進めています。これにより、Solana は Ethereum と並んで、複数のライブバリデータクライアントを持つ主要ブロックチェーンとなります。

画像:SolanaBeach

本稿執筆時点では、Solana には 約1500のブロック生成バリデーターが稼働しており、その数は着実に増加していて、ナカモト係数も増加しています。実際、Solana はすべてのPoSブロックチェーンの中で最も高いナカモト係数の 1 つを誇り、ノードオペレーターがネットワーク上の全ステークの 33.33% 以上を制御するリスクに対して耐性があります。
以下は、国別のSolanaのステーク配分です。2023年9月のデータなので少し古いですが参考にしてください。

画像:BreakPoint Solana 2023

バリデータノードのホスティング分散も改善されています。これは、Solana が AWS ホスティングなどの単一のデータセンターに過度に依存していないことを意味するため重要です。

画像:BreakPoint Solana 2023

上の画像を見ると、Solana は単一のデータセンターに33%近く依存していないため、単一障害点の問題が軽減されていることがわかります。初期のSolanaは集中化が懸念事項でしたが現在は着実に分散化が進んでいます。これらの改善は素晴らしいことであり、Solana は着実に持続可能な分散化エコシステムの道を進んでいると言えるでしょう。

9. 現在のSolanaエコシステムの動向

2022年、Solanaエコシステムに巨額の投資をしていたFTXとAlamedaが破綻し、市場にはSolanaがこのまま衰退してしまうのではという空気が流れましたが、Solanaは2023年にそれを乗り越え、劇的な復活を遂げました。SOLトークンの価格は2023年の1年で658%増加し、開発者コミュニティが活発化し、新しいプロジェクトの立ち上げが増加しました。この背景には、新たな投資家を呼び込み開発者への助成金プログラムやSolana Hacker House TourやBreakpointなどのリアルイベントが開催され、コミュニティ全体でSolanaをサポートしたことが大きな要因です。

それによりSolanaは2023年を通じて劇的な復活を遂げ、2024年にエコシステム全体が新たな成長段階に入りました。Solanaの復活は、市場の信頼を回復し、持続的な成長の基盤を築く上で重要な役割を果たしました。以下は現在のSolanaエコシステムの動向がイメージできるように各セクターをまとめたものです。

DeFi

DeFiは現在、Solanaのエコシステムで最も規模が大きく、重要なセクターです。DeFiLlamaによると2024年現在のTVLは50億ドルに達しています。Marinade FinanceやJitoといった主要プロジェクトは、流動性と利便性を提供し、DeFi市場の拡大に寄与しています。特にリキッドステーキングはSolanaの重要な要素です。JitoとMarinadeがこの分野をリードしており、Sanctumも注目されています。これらのプロジェクトは、ステーキングによるリワードを得ながらも資産の流動性を維持することを可能にしています。リキッドステーキングは、ユーザーにとって資産の利用可能性を高める重要な仕組みです。

画像:DeFiLlama
画像:DeFiLlama

Memecoin

Memecoinは2023年後半から現在にかけて特に成長が著しいセクターです。BONK、WIF、POPCATなどが注目されています。BONKはコミュニティ主導のプロジェクトとして、NFTエコシステムとDeFiトレーダーに大きな影響を与えました。POPCATは最近のDEXでの大規模な取引により価格が急騰し、投資家(ギャンブラー?)の高い関心を集めています。現在のSolanaの成長を支えているのはこのセクターであると言っても過言ではなく、いかに投機熱を加熱させて取引料を増やすかがプラットフォームの成長にとって重要かがわかります。

画像:X.com(@CoinBeatsxyz)

NFTとデジタルアート

NFTとデジタルアートは、正直2022年ほどは盛り上がっていないようです。それでもMagic Edenはその豊富なコレクションと使いやすさで人気を博してNFTコレクターに支持されています。NFT市場の成長は、ゲーム領域とも深く関係しているため、今後盛り上がる可能性は十分にあります。

ゲーミング

ゲーミングセクターは、Solanaエコシステムでも急速に成長しており今後が期待できそうです。STEPNは「Move to Earn」のコンセプトでユーザーにフィットネスと報酬を提供し、大きな成功を収めました。一時期ほどの盛り上がりはありませんが、それでも根強いファンがいることでSolanaのゲーミングセクターを牽引する存在です。先日、新作STEPN GOが発表され話題になりました。

画像:STEPN GO

STEPN以外ではStar Atlasも注目に値するでしょう。Star Atlasは壮大な宇宙探索ゲームとして注目されています。これらのゲームはSolanaならではの高性能なブロックチェーン技術を活用し、ユーザーに新しい体験を提供しています。ゲーミングセクターについては継続的に新規顧客を参加させ、また既存ユーザーをいかに飽きさせずにゲームに止まらせるかがWeb3全体の大きなテーマになっています。

DePIN

DePINは、2024年に入って注目を集めていますが全体の規模から見ると、まだこれから徐々に盛り上がる段階のセクターです。Heliumは分散型ワイヤレスネットワークを提供し、HivemapperはダッシュカムとAIを使って最新の地図データを収集しています。RenderはGPUコンピューティングパワーの共有に注力しており、これらのプロジェクトは実世界のインフラとブロックチェーンを結び付けています。

ブリッジとクロスチェーン互換性

画像:Wealth Mastery

Solanaエコシステムを語る際にSolanaを支える重要なインフラとしてWormholeについても触れておかなければいけません。はSolanaの主要なクロスチェーンブリッジとして、異なるブロックチェーン間の資産移動を容易にしています。新機能や他チェーンとの連携が進む中で、WormholeはSolanaエコシステムの拡張に重要な役割を果たしています。クロスチェーン互換性は、異なるブロックチェーンエコシステム間のシームレスな統合を可能にします。

パートナーシップと企業連携

Solanaはここ最近、多くの大企業とのパートナーシップを形成しています。MastercardやVisaとの協力、Google CloudやAmazon Web Servicesのサポート、ShopifyとのSolana Pay統合など、これらの連携はSolanaの成長と普及を加速させています。企業連携は、Solanaのエコシステムをさらに拡大し、実用的な利用ケースを増やしています。

これらの要素が2024年のSolanaエコシステムを形作り、ブロックチェーン技術の未来を切り開いています。各セクターの成長と発展が、Solanaの持続的な成長と普及に寄与しています。

10. Filecoinとのパートナーシップ

画像:X.com(Filecoin)

SolanaとFilecoinは、2024年2月にブロックチェーンにおけるデータのスケーラビリティとアクセシビリティを強化することを目的とした戦略的パートナーシップを発表しました。これはFilecoinの分散型ストレージ機能をSolanaの高性能ブロックチェーンに統合することで、実質的にSolanaのブロックサイズが大幅に拡張されるということです。

Solanaのブロックサイズが大幅に拡張されるとどのようなことが期待できるでしょう?まず、Solanaは履歴データの冗長性を確保できます。これによりネットワーク障害が発生した場合でも、データが失われることなくアクセス可能となり、データ可用性が高まります。また、Solanaはより大規模なデータセットを効率的に保存できるようになるため、トランザクション数やデータサイズが増加しても、スケーラビリティが低下しにくくなることにも繋がるはずです。

さらにアプリケーション開発においてもできることが増える可能性があります。Solanaに統合されたIPFSにデータを保存できるようになると、中央集権ストレージに頼らずとも複雑なdAppsを構築できるようになることが予想されます。まとめるとSolanaにとってのメリットは、データの冗長性とセキュリティが向上すること、スケーラビリティが強化されること、そして開発者にとっての選択肢が増すことです。

一方で、課題や懸念点としては、分散型ストレージの導入に伴う技術的な複雑さや、運用におけるコストが考えられます。特に、コストに関しては既存のWeb2クラウドストレージと比べた時に少なくとも同程度の運用コストに抑えられないと、なかなか採用は増えていかないでしょう。

11. Solanaスマートフォン Saga2

画像:區塊客

Solanaは、2025年に最新のスマートフォン「Saga 2」を販売予定です。このスマートフォンは、OSOMとの共同開発で純粋なAndroidと統合されたWeb3機能を提供する高性能なスマートフォンです。
特に注目すべきは、シードフレーズをAES暗号化で保護するセキュリティ機能「Seed Vault」であり、ユーザーは安全かつ迅速にトランザクションを承認できます。Solana Mobile Stackを搭載し、分散型アプリケーション(dApps)の開発を支援するための高度なフレームワークも提供します。

初代「Saga」は2023年12月に発売され、付属のミームコイン「BONK」の急騰により即完売しました。これにより、スマートフォン自体の価格を相殺するほどの価値が提供され、多くの関心を集めました。続いて発売された「Saga 2」では、猫をテーマにした「MEW」や「MANEKI」などのトークンが事前予約購入者にエアドロップされ、同様に購入者の経済的負担を軽減する仕組みが話題となっています。これらのトークンの価値上昇も、製品への注目度を高めています。

このようにSolanaがスマートフォンをリリースする背景には、Web3技術の普及とユーザーエクスペリエンスの向上があります。Solanaは、従来のインターネットサービスに依存しない分散型アプリケーションの普及を目指しており、ユーザーが日常的にWeb3機能を利用できる環境を整備する意向があるようです。特に、スマートフォンという日常的なデバイスを通じて、ブロックチェーン技術と暗号通貨の利便性を高めることで、新たなユーザー層の獲得とエコシステムの拡大を図っています。今後、分散型アプリケーションの普及に伴い、Solanaの技術とインフラを活用した新しいビジネスモデルが登場するのを期待してしまいますね。

12. SOLのトークノミクス

SolanaのネイティブトークンSOLについて詳しく解説します。トークンの供給と配分、ステーキングの仕組み、取引手数料とBurnメカニズム、そして、バリデーターの課題を理解することは、Solanaのトークノミクスを深く理解するために重要です。

SolanaのネイティブトークンであるSOLの総供給量は4億8900万トークンに制限されています。この制限された供給量は、長期的な希少性と価値の向上を目的としています。初期のトークン配分は、以下のように行われました。

  • シードセールに25.6%

  • 創業セールに20.4%

  • Solana財団20.2%

  • チーム20.2%

  • バリデーターセールに8.2%

  • パブリックセール2.6%

  • 戦略的セール3%

画像:CoinGecke

これらの配分は、Solanaの開発と成長をサポートするための資金調達ラウンドを通じて行われました。供給スケジュールは、初期配分後に一般公開され、2020年12月にステーキング報酬が利用可能になりました。創業者、バリデーター、その他の初期配分の供給は2022年12月から2023年1月初旬にかけてすべて分配され、その後は新しいSOLを作成する唯一の方法はステーキングのみとなります。

画像:CoinGecko

SolanaはProof of Stake(PoS)コンセンサスメカニズムを採用しており、トークンホルダーはSOLトークンをステークしてネットワークを保護し、取引を検証できます。ステーキング報酬は新たに発行されたSOLトークンの形で支払われ、現在のステーキング報酬は5%-6%程です。バリデーターは新たに供給されるSOLをステーキング報酬として受け取る一方で、ユーザーの取引手数料の一部を収益として得ることができます。具体的には、バリデーターは取引手数料の半分を受け取り、半分はBurn(燃焼)されます。さらに、2024年にSolanaコミュニティは優先手数料をバリデーターに与えることを投票で決定しました。これにより、バリデーターは取引手数料に加えて、優先手数料も受け取ることができ、さらにインセンティブを強化することになります。

バリデーターになるためには、少量のSOLが必要で、投票アカウントの維持に0.02685864 SOLの準備金が必要です。投票には、バリデータが同意するブロックごとに投票トランザクションを送信する必要があり、1 日あたり最大 1.1 SOL のコストがかかる場合があります。

ハードウェア要件はこちらをご覧ください。

SOLの供給量は時間とともに減少し、インフレーションとデフレーションのバランスが取られるようにデザインされています。Solanaのインフレ率は初年度8%で、毎年15%ずつ減少し、最終的に1.5%に安定する予定です。このインフレ率の調整は、ステーキングを奨励しつつ、トークン供給の成長率を時間とともに制御するためのものですが、これはネットワークの持続可能性を考える上で重要な考慮事項になります。インフレ率が最終値に近づくと、バリデーター報酬が減少し、バリデーターはネットワークに参加する動機が薄れます。このためバリデーターは、運用効率の最適化、収益源の多様化などを考えていく必要があるでしょう。また、バリデーターはガバナンスに積極的に参加し、自らの利益を主張し、ネットワークの持続可能性に貢献することが重要になるでしょう。

次に、SOLトークンのユーティリティについてですが、これは多岐にわたります。主に、トランザクション手数料の支払い、ステーキング、ネットワークのガバナンスに使用されます。SOLを保有することで、ユーザーはSolanaネットワーク上のdApps(分散型アプリケーション)を利用し、トランザクション手数料を支払うことができます。ステーキングを通じて、ユーザーはネットワークのセキュリティに貢献し、報酬を得ることができます。さらに、SOLトークンはガバナンスにおいても重要な役割を果たし、ホルダーはネットワークの将来に関する意思決定に参加することができます。

Solanaのトークン配分には、VCや初期投資家が供給の大部分を所有しているため、トークンの分散化に関する懸念があります。この集中度は、ネットワークのセキュリティと分散化の維持に対する課題となりますが、将来的には、これらのトークンは徐々に一般投資家に行き渡ることで、この懸念が軽減されることが予想されます。

13. SOL現物ETFへの期待と懸念

米国で2024年1月にBTC現物ETFが承認されてから約6ヶ月、今月にはETH現物ETFの取引が承認され、7月23日より取引が開始されました。

ETHのETFが承認されたことにより、SOLのETFにも期待が高まっています。2024年6月27日に大手資産運用会社VanEckが米国初のSOL現物ETFを申請しました。

しかし、これには考慮するべき課題もあります。米証券取引委員会(SEC)は、2023年6月よりSOLを含む複数の暗号資産を証券であるとして暗号資産取引所のBinanceを相手取り訴訟を行っています。これに対し、Solana FoundationはSOLが証券として位置づけることに異議を唱えていますが、現時点では具体的な結論が出ていません。VanEckは、SOLが証券ではなくコモディティであるとして申請を出していますが、SOLはSECが提訴した訴訟の中で明確に証券に該当するという主張が行われているため、VanEckの申請が何事もなくスムーズに通ることは考えにくいです。
このため、SOL現物ETFの承認可否は訴訟の結果次第と言えるでしょう。

画像:BITTIMES

もちろん、もしSOL現物ETFが承認されたら長期的にSOLの価格に対してポジティブな影響があることは間違いないでしょう。暗号資産マーケットメーカーのGSRマーケッツのレポートによれば、もしSOL現物ETFの承認が暗号資産全体のブル相場とタイミングが重なればSOLの価格を8.9倍に急騰させる可能性があるとされています。このレポートの執筆時点のSOL価格が149ドルだったため、それを元に計算すると1320ドル以上に押し上げ、SOLの時価総額は6140億ドルに達するとのことです。

これは言うまでもなくあくまでも可能性の話でしかありません。将来のことは誰もわからないので、参考程度にしてください。

14. Solanaの評価と考察

全体的に見て、Solana は多くの投資家、デベロッパー、コミュニティに支えられ、信頼を寄せている有望なプロジェクトであることは間違い無いです。第一に、エコシステムの発展がそれを物語っており、様々なセクターがバランスよく成長していっています。第二に、このネットワークは実際に使われています。現在、50億ドル以上の資産がSolanaに預けられており、一日の取引量も20億ドルを超えています。第三に、このプロジェクトはローンチ当初から巨額の投資を集めていたわけでなく徐々に今の地位を築いてきたということです。これはとんでもないことで、Solanaチームが選択を間違えずにここまで来た何よりの証拠でしょう。

過去にヤコヴェンコは「分散型取引所が中央集権型取引所よりも効率的になったらどうなるか?」を話したことがあります。(日本語の自動翻訳ができるので是非ご覧になってください。)これはWeb3の発展を考える上で重要な問いです。その答えは、中央集権型取引所は自分たちのビジネスをブロックチェーンに切り替えるだろうということです。Solanaが目指すのは、まさにそれなのだろうと思います。それは、つまり既存のWeb2ビジネスにWeb3技術をどう組み込むかではなく、Web2に変わるポジションをいずれWeb3が担うことを目指しているようです。現在のSolanaの勢いを見ていると、近い将来その地位を獲得チャンスが十分あると感じさせます。おそらくSolanaはさらに多くのユーザーを引き寄せるプラットフォームになるでしょう。

一方で、急激なトランザクションの増加はSolanaの首を絞めることにもなるかもしれません。Solanaの度重なるネットワーク障害は、現在に至るまで解決していません。もちろん問題が起きるたびにチームは原因に対処し、少しずつ改善はしているものの、根本的なアーキテクチャに構造的な限界があることはヤコヴェンコも認めています。そして、その根本的なアップデートは非常に困難な道のりであることを考えると、もし今後より多くの人がWeb3を利用する世界になったときにSolanaがどれだけのユーザーをカバーできるかは未知数です。その一つのポイントになるのが、2025年にメインネットへの統合が予定されているFiredancerになるのではないかと思います。

このような課題はあるものの、このブロックチェーンは何億人ものユーザーを処理するためのトップ候補の1つとしての地位を確立しつつあることは間違いありません。

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