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#イシナガキクエを探しています の感想ノート(※5月29日追記)

こちらは2024年4月から5月に3回にわたってテレビ東京で放映された「イシナガキクエを探しています」という番組についての個人的な感想を綴ったノートになります。
色々と背景を考察できる内容でしたが、あくまで番組そのものについての感想になります。
これから鑑賞される方にも向けたものにはなりますが、番組の構成上のネタバレも含みますので、ご留意ください。

※以下は第3話までを視聴しての感想です。第4話を視聴して追記した総括はこの記事の一番下にあります。以下の目次から飛べます。


第1話~第3話の感想

・番組公式サイト

「イシナガキクエを探しています」はここ数年の心霊系メディア、映画、YouTuberの間で流行っているいわゆるモキュメンタリーというジャンルの番組で(※フェイクドキュメンタリーとも)、番組の大枠はあくまでドキュメンタリーとして制作され、その一定のリアリティの中を少しずつ恐怖や不可思議な現象が侵食してくる様を描くというものであり、制作者の微妙なさじ加減、センス一つで面白さが増す部分が多く、まだまだ沢山の作品が作られそうなジャンルである。

僕がこの番組で最も注目したポイントは心霊系のYouTubeチャンネル「ゾゾゾ」のプロデューサー皆口大地氏が本番組のプロデューサーを務めた点である。

「ゾゾゾ」は初期から観ているが、チャンネル開始当初から大手TV局の心霊系番組やバラエティ番組を意識したテンポの良い演出と編集が素晴らしく、動画としてのクオリティの高さと突出したセンスがあった。

ゾゾゾは瞬く間に人気チャンネルになったが、それはパーソナリティを務める落合陽平氏の軽妙なトークと愛されるキャラクターも大きいが、やはりプロデューサーでカメラマンも務める皆口大地氏の企画・演出・編集力によるところが大きいだろう。

「ゾゾゾ」は基本的に落合氏と皆口氏、そしてそのときのゲストメンバーが廃墟や心霊スポットを訪問し、様々な怪異に出会うという形式の番組であるが、3年ほど前、普段は心霊スポット巡りのオフショットを配信していたサブチャンネルに突如アップされた動画がある。

【閲覧注意】拾ったら死ぬ…心霊スポットに捨てられた噂の写真を追え!謎の一軒家を巡る恐怖の全記録

こちらは「ゾゾゾ」のメンバーがある心霊スポットで拾った不可解な写真から、その写真の持ち主や背景を取材していくにつれ、さらに恐ろしく不可解な真実に迫っていくという内容で、こちらはモキュメンタリーと銘打たれているわけではないので内容についての真偽は謎であるが、番組の作りとしては非常に巧妙で、恐ろしく、面白い。

「イシナガキクエを探しています」をご覧になった方で、この番組の空気感が好きな方は、是非上記の動画もご覧いただきたい。
何年経っても色褪せない恐怖が味わえる動画だと思っている。

というわけで、そんな皆口氏が主導で制作した「イシナガキクエを探しています」である。

全3回の内容であったが、個人的には物足りなさを感じてしまった。
決して面白くなかったわけではない。
演出や画作りの妙、気味の悪い読後感に関しては素直に「面白かった!」と拍手できるものだった。

ただ上記の「捨てられた心霊写真」という完成された作品を知っているだけに、「惜しい!」という印象である。

「イシナガキクエを探しています」はまず冒頭、特別報道番組として前面には司会であるアナウンサー、警察関係者、タレントというコメンテーターが座り、背景にはたくさんの電話番のスタッフが映し出され、昭和~平成初期に折を見て放送されていた行方不明者を捜索する番組の形で始まる。
十代~二十代の方には馴染みがないかもしれないが、こういった番組は失踪者の家族などから依頼を受け、TV局が独自に取材し、ある程度の個人情報を公開して視聴者からも情報を募り、生放送中に実際に情報提供者と電話を繋いだりしていた。
いまにして思えば色んなコンプライアンスに触れそうな内容だが、本作はまさにそのオマージュである。

番組内で提示された情報提供用の電話番号には実際にかけることができ、ランダムでスタッフから折り返しの電話もあったそうで(Xのポストで見かけただけなので真偽不明ですが)、そういう面でのリアリティの保持も素晴らしい。

第1回目の放送は50年以上もの間「イシナガキクエ」という女性を探しているという高齢の男性の取材場面や個人の情報などが放送され、やや不可解な点はあるが、前述の、よくある人捜し番組のテイを保ったまま終わる。
いわゆる起承転結の“起”である。

第2回目の放送では、前回の情報を整理しつつも視聴者から提供された目撃情報、不穏な写真、謎のビデオテープといったものが次々登場し、よくある人捜し番組であったものが徐々に非日常に蝕まれていく。
とても引き込まれる演出だった。
起承転結の“承”である。

そして第3回目で新たな情報や映像、音声が見つかり、一人の人間として捜索されていたはずの「イシナガキクエ」という存在がどんどん黒く滲んでいき、人の形を失っていくという急展開を見せ、終わる。
起承転結の“転”だ。
個人的にはこういった趣のホラー作品には“結”はあまり重要ではないと思っていて、一定の結末を用意して視聴者が留飲を下げられるようにするのもすっきりして良いし、想像の余地を残して終わった方がより恐怖を感じられるということもある。
「イシナガキクエを探しています」は後者である。

ただ、先に述べたように、個人的に物足りなさを感じたのは第2回目の“承”の部分で、こういったモキュメンタリーは、我々の日常やリアルが不可解なものや理不尽なものに徐々に浸食されていく恐怖、嫌悪感が一番の魅力であると思っていて、もう少し時間をかけてじわじわとその違和感を広げていくような展開であれば、ラストの急展開の切れ味が増したのではないかな、と思う。
少し駆け足が過ぎたように感じた。

ただその駆け足を逆手にとって、最終話はコメンテーターなどが同席せず、外野からのコメントや解説が全くないまま、アナウンサーの進行とVTRだけで淡々と進んでいくというスピード感と視聴者への突き放し方はとても良かったように思う。

少しネガティブな感想を述べてしまったが、報道特番の形をとったモキュメンタリーというのは大手テレビ局ならではだと思うし、今後もこういった形で心霊系YouTuberとテレビ局のコラボレーションがあればいいなと思う。

視聴されたみなさんはどう感じられたでしょうか。
色んな人の感想が見たいなと思う今日この頃です。
「イシナガキクエを探しています」のアーカイブはTVer他、U-NEXTなどでも配信しています。

また、本作とは毛色が違いますが、心霊系のビデオ・映画制作者や心霊系YouTuberが多数登場するモキュメンタリー「心霊マスターテープ」も好きなのでおすすめしておきます。

↓「心霊マスターテープ」プライムビデオのリンク

https://watch.amazon.co.jp/detail?gti=amzn1.dv.gti.2ab7db38-ba85-99a4-d462-879d3d9364e2&ref_=atv_dp_share_seas&r=web

第4話を視聴して~総括

というわけで、以上が第3話で完結とされていた時点に書いた感想noteである。
その後、TVerなどの配信のみで最終話となる第4話が放送されると知り、「ずるいな~」と思いながらも心躍らせながら第4話を視聴した。

結果として、上記の僕の感想が大きく変わることはないが、謎を残して終わるにしてもやや急展開で投げっぱなしが過ぎると感じていた部分が補完され、「イシナガキクエを探しています」が一つの作品としてしっかり完結したように感じた。
“起承転”に、ゆるやかにぼやかした“結”が加わったという印象だ。
読後感は非常に良いものとなった。

第4話はほぼドキュメンタリー仕立てで進み、これまで我々視聴者と共に傍観者として存在していたアナウンサーもコメンテーターもいない。
この演出は非常に奏功していて、VTRが途切れることなく制作側のペースで進んでいくため、視聴する側の集中が途切れることなく、また思考する余地もない。
視聴者にいろいろと思考させるのはすべて終わってから、という流れにもっていきたい制作側の意図が感じ取れた。

また、第4話になり、ただただ不気味で不条理な情報・映像・音声が提示され、それを視聴者に無慈悲につきつけるようにして進んでいった「イシナガキクエ」の捜索番組から、55年間イシナガキクエを探し続けた米原実次氏の人生の物語へと自然にシフトしている。

登場するVTRの不気味さや理不尽さは増していくが、米原氏の重ねた年月や内面を感じ取れるようなウェットな演出も加わってくる。
画面上には、「イシナガキクエ」という、人か、人ならざるものか、そのようなものに対しての米原氏の愛憎、そしてどこか空虚な、もの悲しさのようなものがずっと漂い続けている。

モキュメンタリーとしては少し感情面への訴えに拠りすぎな気はしたが、映像作品としてはそちらの方がまとまりが良いと思ったし、僕は好きな演出だった。

第3話放映時に書いた感想と被ってしまうが、クリエイティブ方面に尖りがちなYouTubeとはまた違う、こういったTVならではの大衆性・演出が観られるモキュメンタリー作品が今後も放映されると良いなと思う。

「イシナガキクエを探しています」現在YouTubeにて第1話~4話まで配信されています。
興味のある方、もう一度観たいなという方は是非ご覧ください。


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