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没小説 メサイアコンプレックス

※シャアム
※性行為を連想させる描写あり

この人が欲しいのは愛情(ぼく)じゃない。僕を振った事実が欲しいのだ。
宿敵(恋敵)を負かした事実。

「あなたはとうに勝っている」
「僕はあなたと出会ったあの日から」
「赤い彗星を追いかけたあの時から」
「僕はずっとあなたに追い付き、あなたの隣にいたかった」(友人になりたかった)
「僕はあなたに憧れて、あなたを撃ち落とすことが、一年戦争を生きる僕の拠り所だった」

「(僕に勝ちたいと)それならば、このまま永遠に愛さなければいい。僕を、このまま飼い殺して、そのまま否定すればいい」

「僕はあなたに愛されることはきっとない」

「僕はシャアには勝てない」

「だってあなたは僕を愛せないから」

もし僕にもっと可愛げさえあれば。シャアの手向けた掌を無邪気に手に取って、シャアの懐に泣きついて腕にしがみつくだけの脆く弱い「女」だとしたら、形だけでも愛してもらえただろうか
でもそれは僕にはできなかった
悲劇のヒロインは嫌なんだ
だって僕は男だったから。
あなたとは対等でありたかった。互いを慰め、共に戦う、そんな気心知れた戦友に。できれば、ずっとそんな友人でいたかった。ただ待ってるだけは嫌なんだ
その気もないのに縛られるのも、足手纏いになるのも嫌なんだ。
彼女を連れた、去り際の冷ややかな顔、切れ目で細く笑ったあなたには、いつも嫌味、皮肉でもでも言われてるようで。
しかし夜のあなたは僕を求める。僕の身体を好きに弄んで。身体が火照る度に僕はあなたが恋しくなる。あなた無しに生きられない。あなたの厚い身体と昂る吐息を感じて、高揚していく感情と波のようの繰り返す絶頂に合わせて。あなたはいつもあの子の名を呼ぶ。僕では無い女の子の名前。
 きっといつかは愛してくれる。やっとあなたの恋人になれた、そんな思い上がり。僕の縋る心を見透かすように、一瞬で消し飛ばして。顔を苦悩で歪ませる。目の奥が熱くなって、泣き出すのを堪えれば、あなたは決まって僕の頬に手を添えて、意地悪く口付けをするのだ。妖しい目の色。そうやってあなたは僕を上から嘲笑い、舌で涙を浚っていく。まるで呪いだ。

 あなたの前では僕は役立たずみたいで。だから、ただ待つだけは、もうごめんだったんだ
もし僕が気立てよく、優しいだけの女だったら?僕のこの股座に何もなければ、この関係も少しは違っていただろうか
それともあなたは、やはり僕を疎んじるのでしょうか。あなたの血を知らぬ故。
僕はあなたではないからと。
1人では生きていけないだなんて言葉。意地張りの僕らは口が裂けても詠めないでしょう。

僕はいつも何処でも、そう言う役回りだった。

「やっぱり、僕の居場所はここしかなかったよ、(ν)ガンダム」
「一度でも戦場を知った男は、死ぬまで孤独(ひとり)に怯える事になる」
「あそこでは人が壊れていく。誰もが互いを疑って、誰もが互いを化かし合う。誰も人を愛さない。僕も、シャアも、誰も、誰一人。僕の本当の心音を知らない。みなが心を失って、その光を消していく。人が死んでいくのに、このまま生き残るのが、僕は少し怖いんだ。シャア、きっと究極の孤独は、世捨ての事なんかじゃない。浮世を離れて夢や現と、自意識を見つめて満たされる。そんな感慨に浸っていられる陸の孤島に暮らすより、殺し合う戦地の方がよほど孤独だ。」
「そして人は、死ぬ時であろうとも、ずっと一人だよ、そうだろう。もう一人の僕…」
「僕には君しかいなかったよ、ガンダム…」

僕にとって、この戦いは勝っても負けても同じ事なんだ。
どう転んでも結果は同じ。
あの人に愛されたかったなんて。
叶う筈も無い願い。
甘く残酷なだけのあなたの嘘。
ただ悪夢が終わるだけ。
勝っても負けても僕には同じ。
僕の恋が終わるだけ。
この見果てぬ宇宙に。
連邦か、ネオ・ジオンか。
僕か、シャアか。
男の死体が上がるだけ。
あなたが勝っても僕が勝っても。
あなたが生きても僕が生きても。
きっとあなたは僕を愛さないでしょう。

だからせめて、あの人が僕を殺して欲しい。
早く悪夢を終わらせて。
どうぞあなた。
シャア僕は
僕はあなたに。
あなたに。
僕を振って欲しかった。

「でも、アムロ大尉にシャア総帥の相手を一人任せるなんて。いくらなんでも横暴ですよ」
「僕がシャア以上のニュータイプだからさ、チェーン」

「ヤツに真正面からぶつかって勝てる相手など、僕以外にはいない。それをわかっているんだ、ブライトも」

「僕ならば、シャアを止められる」
「それに、向こうの事情も似たようなものだろう。(若いMSパイロットの育成は間に合っていないのだから)」

「…あ、そうですよね。アムロ大尉程のパイロットを相手にできるのは、きっとシャア総帥しか居ないですね」
「そう言うことさ。これでも僕は一年戦争でそれなりの戦果を上げた。それはシャアが一番に知っている筈なんだ。ロンド・ベルに僕がいる事で、ヤツを戦場に引っ張り出せさえすれば、ネオ・ジオン艦艇総指揮の席は空(不在)となる。その隙を叩けば」
「ヤツは絶対に来るさ。自ら手を下さないと、気が済まない男だ。僕の知るシャアは」

「連邦軍に勝算があるとすれば、アクシズ投下まで、どれぐらいの時間稼ぎができるか。ロンド・ベル隊はその足止め。シャアの動きを封じさえすれば、僕の隊も少しは動き易くなる。ラー・カイラムの主砲と艦艇の核ミサイルで、アクシズごと粉砕して、軌道を逸らすことができれば」

「アクシズにいたジオン残党とダイクン派の遺恨を背負ったシャアの煽動で集まったのが、あの艦艇の人員だからな。もし僕が落とされても、総帥を道連れにさえできれば、ネオ・ジオンの機能は幾分か停止する。(空中分解するとは思えないが、)それ程に『シャア総帥』の持つ名前の意味は大きいよ」
「ジオン・ダイクンの息子。偶像(象徴)としての総帥ですか…」
「うん、そうだな」

「でも、道連れだなんて怖い事言わないでくださいね」
「ヤツには因縁があるんだ。それに、それぐらいの気構えでないと、シャアの目論見は止められないよ、チェーン。シャアは、僕よりずっと頭の良い男だ。こちらが手を拱いていれば、シャアを出し抜いて、策略を潰す事など」
「アクシズの他にも、総帥は何か仕掛けてくるでしょうか…」
「まだ何かある筈なんだ。シャアが決戦前に最新型MSを設計した事に、何か、もっと裏の事情が」
「サザビーですか?」
「ああ、それに新兵器ファンネルの存在もある。強化人間の話があったろう」
「ええ」
「人の神経を改造するだなどと、やり方は気に入らないが、即戦力としては申し分ない筈だ。なのに、今更、ニュータイプ特化のサイコミュ兵器を出すなんて…」
「でも…。だから、アムロ大尉も対抗して、MSを設計してるじゃないですか。νガンダム」

「そうだね、νガンダム。シャアと戦う為に必要な、サイコミュ機能に特化した新型ガンダム。ニュータイプの僕なら。ガンダムパイロットの僕ならば、シャアに追いつける筈なんだ。ロンド・ベル隊も、ブライトもそこに賭けている」

「謂わばシャアと僕の、男の意地を賭けた戦いなのさ」

「こんな事言うと子供みたいだ。はは、隊長にしては、少し安っぽいかな」
「アムロ大尉は、ちゃんとした大人ですよ」
「そうだと良いが」
アムロはチェーンに笑いかけそっと口付ける。

(これで終わる恋ならば、この戦いが永遠に続けばいいとさえ思った)

「僕と、このνガンダムなら、あなたと互角に戦える。せめて僕の命ある限り。僕はあなたのアクシズ落としを、世紀の虐殺を止めてみせる。喩え刺し違えてでも、貴方を…。シャア、僕は貴様を殺す!」

サイコフレームの共振

「どうしたんだガンダム、なんで…。サイコミュが効かない…?」
「ファンネルの誤作動…、いや、」
「なんだ…この光…、まさかサイコフレームの共振…?」
「くそっ、照準が、ダメだ。そっちはいけない、ガンダム。このままでは、シャアに逃げられる。そっちにはあの人が…!」(※連邦軍の戦艦)

「命が惜しかったら、サイコフレームの情報を、貴様に横流しするものか」

「なんだって…!?」
「あの構造部材は…だって、アナハイムが…」

「まさか…!チェーンも、あなたの差金だというつもりか、応えろ、シャアっ!!」
応えないシャア。

「チェーンは、だって、僕の…そんな、いやだ、いやだ!」
「シャアッ!」
「アムロ…」
「あなたはそうやって、いつも人を見下す事しかしないんだ!」

「やめろ、ガンダム!シャアと…、ヤツに共感するな!やめろガンダム!!攻撃を、早く…!」
「なに…光が…漏れて…」
「そんな…νガンダム。君まで、僕を裏切るつもりなの…?」
「やめろ、やめてくれ。あそこにはあの人が…、連邦軍の仲間がいるんだ!」
「止まれっガンダム!シャアの言うことなんて聞くな!」
「いやだ!あの人を、あの人を殺さないでくれ!」
「君は!君だけは!いやだ!君は、僕を、僕を、いやだ、やめて、お願い、僕は、僕を、僕を独りにしないでくれッ!!」

『行けるな、νガンダム』
「ダメだ、ガンダム、やめて、やめてよ。シャア、撃つな、撃つなよ。お願い、いやだ、撃たないでくれ…っ!!」

(沈めブライト、ラー・カイラムと共に!)
「シャアッ!撃つなアアアアアアア!!」

「うわあ“あ”ああああ!!!」
ガンガンとモニターを叩く音(?)と、感応波の振音を激しく揺らすアムロの絶叫が、シャアのヘルメット(ヘッドセット)、コックピット内を同時に反響する。
シャアは緩くヘルメットを外す。
「人の心を感ずる力が仇になったな、アムロ」

(やはり私を殺せなかったな)
通話
「ナナイか?」
「これで、アムロ・レイは戦えませんね。彼は再び連邦軍の敷地を踏むことも、MSに乗ることも許されない。『νガンダム』で、ロンド・ベルの艦長ごと船を落とした、裏切り者の戦犯なんですから」
「フン、これが敵兵の心を挫くと言う事だよ、ナナイ。戦争に無益な殺戮は無用だ。新機体鹵獲と敵戦力に決定的な損害を与える。まともに動く部隊にも限りがある。」
「(※舟を墜とすことについて)本当に必要だったのですか。」
「あれは生贄だ。腐敗した連邦政府の、見せしめにでもしてやろうか。なに、私はこれで彼とは個人的に親しいのでね、ヤツの弱味なら幾らでもある。何より、世間は英雄の転落が好物だからなぁ」
「最悪のタイミング。正に鬼畜の所業ですね、大佐。これから、宇宙世紀の情勢は一転します。地上に我々の軍旗が昇るのも、そう遠くはない。あの悪魔も、もう二度と我々の宇宙を飛べません。総帥の行手を阻む障害は、無くなったのですから」
「フ…」
「きっと後世にも伝わりますわ。血も涙もない悪の総帥と。建国の父、ジオン・ダイクンもお喜びになる事でしょう」
「…我々は既にその舵を切っている。これから更なる虐殺に手を染めるのだからな。νガンダムは血に染まり、ノアの方舟は堕ちた。あれこそ連邦敗北の政治宣伝なのだ。違うかナナイ」
「大いに、期待できるかと」

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「同志になれ、アムロ。私と共にあるなら、ここで忠誠を示してみろ。君がこのままネオ・ジオンの軍門に下るならば、私の右腕にしてやってもいい。生涯傍に仕えさせてやろう。ララァを奪ったあの日から、貴様の運命は決まっていた。いやサイド7でガンダムに乗ったあの日から、貴様は私の宿敵だった。しかし実に惜しいものがある。NTとしての君の能力を我が軍で活かさない手はない。私のネオ・ジオンに来たまえ。ロンド・ベルの腕章を、貴様が捨て去る気概があるなら」

「許しを乞え、命乞いをしろ。アムロ。ここに来て、私の足元に這いつくばって見せろ」
「そうすれば、貴様を救ってやる」

嘘つき。
不意にそんな事を口にしそうになる。
僕にはわかる。
ああ、あれはきっと嘘だ。
嘘つきのシャアの顔だ。
あなたは僕を負かした事実が欲しいだけ。あなたの足蹴で、僕を辱めたいだけだ。

薄く笑ったアムロ
「それは断らせてもらうよ、シャア…。だって僕はあなたの…、あなたの、永遠の宿敵(ライバル)だから」

アムロ死亡アクシズ投下成功

シャアに直接手を下されて少し嬉しいアムロ。

ようやく僕の生きる意味が終わった。

やっと僕は捨てられる。心も、この命も。
でも、やっぱり貴方はくれはしなかった。
僕の欲しいもの、欲しい言葉を何一つ。
あなたはスウィート・ウォーターの地に降りた。地球連邦政府が見捨てた、コロニー難民に手を向ける事で、あなたはスペースノイドの命運を一身に背負う。ダイクンの名を継いだ、貴方の威光は確固たる。
背中に外套を翻し、貴方の姿はまるで、ネオ・ジオンの救世主だった。

だけどシャア。
あなたは絶対に、僕の救世主にはなれないよ。

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