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書籍「岐阜発 イノベーション前夜」(生産性出版)執筆を通して考えたこと[2/2]

日本生産性本部 茗谷倶楽部会報 第78号(2020.12発刊)寄稿文 2/2

執筆を進めるにあたって考えたこと

そこで改めて、情景の豊かな描写による表現力ではなく、文章構成力で読者に訴求しようと考えました。参考としたのは、映画のシナリオなどで多用されている、物語(ストーリー性)のパラグラフです。それは「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」と呼ばれる段落構成で、的確にパターン化されたステップを踏み進めることで次第に読み手は引き込まれ、主役に感情移入して、共に艱難辛苦を乗り越えて…というものです(こちらも詳しくは、検索してお調べください)。この黄金パターンを参考に、自著に用いる文章構造を次のように決めました。

執筆にあたっては、はじめに生産性出版の村上直子副編集長から、「一冊の本として完成させるには、12万文字を書く必要がある」との指令がきました。書く習慣があったこともあり、その文字数に特段驚くことはありませんでした。まずは取り上げる事例を業種別分類で10事業者と決め、事例の紹介だけでは自論が展開できないので、1事業者あたり1万文字として、2万文字を自論の展開にあてようと、何の根拠もなく数値定量的に仮決定しました。事例の紹介については、物語(ストーリー性)を最も重要な必要条件として、構成を練りました。

10事業者の事例紹介の10万文字のパラグラフは、以下の内容構成となっています。

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2019年4月より村上副編集長と企画会議を重ね、参考となる書籍の紹介を受けるなどして書籍のアイデアを固めていきました。「企業支援」に関わり、「地方創生」に関わり(茗谷倶楽部会報第77号「地方創生カレッジ:地方創生リーダーの人材育成・普及事業」参照)、大学院での研究テーマであった「イノベーション」のキーワードも盛り込みたいと考えました。そうした想いと共に、書店に並べて売れる本となることを意識して、タイトルは「岐阜発 イノベーション前夜-小さな会社を『収益体質に変える』事業のつくり方」と決まりました。

書籍のターゲット・コンセプト・内容の紹介

書籍の企画書が確定したのは、企画会議のスタートから4ヶ月経過した7月末でした。主たる読者ターゲット層を「地方で事業をする二代目、三代目の中小企業の前向きな経営者」に設定しました。また、「その背中を押したいと支援しているが、過去の経験から判断してしまい、明るい未来への方策が見出しきれていない金融機関や行政の人たち」をサブターゲットとしました。さらに、「イノベーションを先導しているかに見える大企業も、小さいながらも小さいなりに努力を重ねる中小企業に学んで欲しい」とのメッセージも込めることとしました。

10事業者の事例紹介については、前述のテレビ特番で紹介した中小企業36社のうち8社(飲食業・小売業・卸売業・製造業の各2社)を選定し、外部環境の変化などにより苦境に立たされながらも、新たな商品・サービスの創出に成功した先行事例として紹介しています。また、地方創生をテーマとした2事業者(DMO・まちづくり会社)の取り組みを新たに取り上げることとしました。国が主導して民間活力で推進している地方創生ですが、そこにはどのような苦悩があり、どのように克服して解決策を導き出しているのかについて言及しています。

自論の展開となる第1章と第2章については、事例紹介の10事業者を全て書き終えてから、それらとの整合性がつくように、そして総括となるように執筆することとしました。その内容は、企業支援を進める中で実施してきた研修やセミナー、ワークショップで伝えてきたことを改めて俯瞰して、包括的に取りまとめて書き綴ったものです。根幹を成すメッセージは、誰もが「イノベーション」の意味は漠然と知っていても、その実現はうまくいかないもの。どのように阻害要因を排除して実現していくのかについてヒントを示したい、というものです。

仕事を終えた後に、スターバックスコーヒーやコメダ珈琲店などで執筆を進め、脱稿まで約4ヶ月を要しました。表紙のデザインには、「岐阜」「前夜」のキーワードから岐阜の夜景が良いと決まり、自分で撮影した写真を採用してもらうこととしました。本書は人に焦点を当て、その取り組みをストーリーで詳述しています。読み手の共感を得て手本となるように、また、地方創生やイノベーションのガイドラインとなり、啓発書となることを趣旨として執筆しました。では、文末となりましたが、書籍の章構成ならびに概要をご紹介したいと思います。

書籍カバー

○ タイトル 岐阜発 イノベーション前夜
-小さな会社を『収益体質に変える』事業のつくり方
生産性出版/ISDN 978-4-8201-2098-8/2020年2月28日発刊

○ プロローグ なぜ、あの事業がイノベーションを創出できたのか?
本書を執筆しようと、なぜ考えたのか。その動機や伝えたいメッセージをエピソードと合わせて記述し、そもそも「イノベーションとは何か」について読者に問い掛ける、本書のイントロダクションとなっています。

○ 第1章 小さくはじめるイノベーション
-競争優位性を発揮するにはどうするか
イノベーションの必要性が広く喧伝されている。しかし、必ずしも順調に進捗しているとは言えない現状への問題提起として、「前提条件の大転換」と「発想の転換」が本書のメッセージの根幹であることを示します。

○ 第2章 「摩擦」「軋轢」といかに向き合うのか
-「見えない壁」を壊した先にこそ成功がある
人と組織が変われない根源的な理由とは何か。イノベーションの創出を妨げる阻害要因=制約条件の解消に向けて、これから何に心掛け、何をしなければならないかについて、具体的な事例をあげて説明しています。

○ 第3章 飲食業の小さなイノベーション
CASE 1 株式会社Tri-win(岐阜県高山市) -高山まちなか屋台村 でこなる横丁
スーパーマーケットの廃業に直面した三代目社長が、いかに新規事業に乗り出したのか。立ちはだかる壁をどのように乗り越えたのか。当時、何を考え、そこから何を学んでいったのかについてお伝えします。

CASE 2 中国風食事処 平安楽(岐阜県高山市)-外国人観光客への「おもてなし」
代替わりの頃から飲食店の数も増え客数減に苦悩する中、いかに外国人観光客が殺到する飲食店に変身する事が出来たのか。家族経営で賄う小さな飲食店の成功の舞台裏を明らかにして、「おもてなし」の真髄を探ります。

○ 第4章 小売業の小さなイノベーション
CASE 3 有限会社夢幸望(岐阜県美濃加茂市)-寝具店 夢幸望ハヤカワ
ショッピングモールや大型量販店、さらにはインターネット通販に押されて縮小や撤退を余儀なくされている街の寝具店。歴史を紐解きながらその逆転劇を俯瞰し、経営者に求められる勇気と決断の重要性をお伝えします。

CASE 4 株式会社山本呉服店(岐阜県揖斐郡揖斐川町)-店はお客様のためにある
日本人の生活様式の変化から和装の機会は激減し、どの街にもあった呉服店は閉店が相次いでいる。そうした中、多店舗展開での運営を可能としている元気な呉服店の成功の秘訣を探り、経営者の要件を明らかにします。

○ 第5章 卸売業の小さなイノベーション
CASE 5 合名会社山本佐太郎商店(岐阜県岐阜市)-大地のかりんとう
四代続く飲食店向け調味料(油や醤油)の卸売問屋。大手飲食店のロードサイド出店や、ショッピングモールのフードコートの大規模展開によって、地元飲食店が閉店を余儀なくされて取引先が激減する中での逆転劇とは?

CASE 6 家田紙工株式会社(岐阜県岐阜市)-カミノシゴト
生活様式の西洋化や電化製品の普及で用途が減り、販路開拓に苦悩する美濃和紙の卸売問屋。いかに自社のヒット商品を生み出し、海外展開にも成功したのかについて、社長の血と汗と涙の結晶とその舞台裏を紐解きます。

○ 第6章 製造業の小さなイノベーション
CASE 7 鈴木工業株式会社(岐阜県中津川市)-ウォームテックスプーン
取引先が海外に進出し仕事量の減少に悩むプレス部品メーカー。新規事業に取り組もうと四苦八苦するものの、なかなか芽が出ない。そうした苦悩からいかに脱却したのか、思考の呪縛に何があるのかについて言及します。

CASE 8 有限会社一山製陶所(岐阜県土岐市)-無水調理鍋「セラキュート」
生活食器の7割を生産する美濃焼の陶磁器メーカー。メーカーといえども卸売商社に依存する下請け企業的な位置にあり、安い海外製食器に市場を席巻される中、オリジナル商品をメガヒットに導いたその過程を追います。

○ 第7章 地方創生の小さなイノベーション
CASE 9 NPO法人ORGAN(岐阜県岐阜市)-地域連携「長良川DMO」
長良川DMOの運営母体のNPO法人。地方創生の鍵は観光が握ると言われるものの、DMOは観光協会の看板書き換えではないかとの指摘もされる中、若い力で着実な成果を上げつつあるその精力的な活動に着目します。

CASE10 多治見まちづくり株式会社(岐阜県多治見市)-「ながせ商店街」の復興
地方創生は「よそ者、若者、バカ者」が担うと言われ、その体現者であることを自認する商店街振興の第一人者の苦労と熱い想いを紹介し、地方創生の担い手や二代目三代目社長が学ぶべき要素を抽出して要点を示します。

○エピローグ 地方の「若い担い手の育成」が「活力ある場」をつくる
本書の帰結は、「将来を担う若い人々の活躍がなければ、地域の活性化はない」というメッセージ。これは筆者が考える、分野を越えた広範な領域における現世の実態・実状に向けての直言・箴言でもあるのです。

お近くの図書館にもきっと蔵書されていますでしょうし、紀伊国屋書店、丸善、ジュンク堂、三省堂など全国の大手書店での取り扱いもございますので、どうぞ一度お手にとって、これからの皆さまの中小企業支援活動のお役に立てて戴ければ幸いです。

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