書籍「岐阜発 イノベーション前夜」(生産性出版)執筆を通して考えたこと[1/2]
日本生産性本部 茗谷倶楽部会報 第78号(2020.12発刊)寄稿文 1/2
情報発信の重要性について考える
私が経営コンサルタント塾(2期)を修了したのは、2005年3月のことです。その後、経営コンサルタントとして積み重ねてきたキャリアにつきましては、茗谷倶楽部会報第76号「私のキャリアと事業のコンサルティングレビュー」をご参照ください。そしてこの度、本年2月28日に生産性出版より「岐阜発 イノベーション前夜-小さな会社を『収益体質に変える』事業のつくり方」(364頁/税込2530円)を出版させて戴きましたので、今回は著書の紹介を兼ねまして、企画段階における考察と内容構成について記述したいと思います。
そもそも私は、企業支援を事業としてスタートするにあたって、「たとえ優れた商品やサービスであったとしても、知名度や認知度が高くなければ潜在顧客に知れ渡ることなく、市場に浸透しない」という事実に強い興味関心がありました。そこで、情報発信やプレゼンテーションに関する啓蒙啓発をサービスメニューの根幹に据えることとしました。幸いなことに私は、大学時代にアメリカ(イリノイ州立大学)に交換留学し、日本人が学ぶ「起承転結」ではない文章構成や口述表現のスキルについて、学術的にアプローチする機会に恵まれていました。
日本人は常識的に「文章は起承転結で書きなさい」と先生から教えられ、書く本人も疑うことなく、そのように書いていると思い込んでいます。しかしながら、「起承転結」が内包する意味やその語源について、どれくらいの人が正確に認識しているでしょうか。実際のところ、周囲の先生に聞いてみても、的確に答えられる人は少ないのが現状です。「起承転結」とは、漢詩の4行で構成される絶句のパラグラフ(段落)であり、文学的に体裁が整っている、情緒的に風情がある、といった条件を満たしているに過ぎず、必ずしも論理的とは言えません。
「浮世舞台の花道は 表もあれば裏もある 花と咲く身に歌あれば 咲かぬ花にも唄ひとつ」-これはテレビ東京「演歌の花道」のナレーションの決め台詞ですが、まさに「起承転結」で構成されており、確かに私たちの心に響きます。このように、事象を情緒的に表現する際に用いられるのが「起承転結」でありますが、じつは「転」の箇所において文章の論理構成が分断されています。文学表現としては「いとをかし(趣がある)」ではあったとしても、聞き手を論理的に納得させたり説得するためには、十分な情報が含まれていないと言えるのです。
情報発信は起承転結が正しいのか?
私たち日本人が情緒的で、論理的思考が弱いと国外の人々から指摘される所以はここにあると永年信じてやみません。このことを私は、アメリカ留学時の英作文(ライティング)の授業で気づきました。それ以来、文章を書く上での企画構成やパラグラフ、そして口述して伝えるためのプレゼンテーションスキルについて、重要性を強く認識し続けてきました。会社員時代にはメーカー担当として、そして商社マンとして海外で外国人相手に情報を発信し、契約締結に至る経緯でそのスキルを向上しました。情緒的であっては、契約の締結には至りません。
地元で企業支援を開始する際には、情報発信の媒体となる新聞社や雑誌社、テレビ局などのメディア企業との関係構築を進めました。記事や番組に企業が取り上げてもらうには、何が必要かを深く知るためです。その経緯では、インターネットの普及によって次第に読まれなくなりつつある新聞の販売促進に関するコンサル案件にも関わり、当社の社名(東海クロスメディア株式会社)の「クロスメディア」の命名に至ります。新聞も紙媒体に限定されていては早晩終焉を迎えてしまうという危機感から、情報は媒体を横断的に発信すべしという意味です。
テレビ番組は、夕方のニュース番組で企業が取り上げられるように、番組企画やシナリオを書いてテレビ局のディレクターや制作会社に持ち込みました。のちに商品開発の支援で販売開始とともに10ヶ月待ちのヒット商品をプロデュースできたのも、メディア企業との関係構築があってのことです。また、この経緯では自社も取り上げてもらう機会が生まれ、知名度や信頼性が高まりました。さらには、地方局(岐阜放送)において三年間に渡って月一回の特集番組枠(15分)を預かり、合計36社の中小企業を紹介する機会を得ることができました。
ラジオ番組でも「教えて!三輪先生」という冠番組(30分の対話形式)を毎週担当する機会を得て、(雑誌でも取り上げられたことで)網羅的にクロスメディアで情報を発信し続けてきたのです。2018年に改めて生産性本部で地方創生を担当することとなりましたが、これらの実績が認められ、経営コンサルタント塾からのご縁である会員サービスセンター高松克弘部長からお声掛け戴き、生産性新聞での記事連載と書籍出版の機会を得ることができました。企業支援の手段として始めたメディア戦略が、当社の情報発信としても大いに役立ったのです。
書籍の企画構成を考える上での要点
日本人の情緒的な文章構成である「起承転結」とは全く異なり、論理的構成であり聴き手を短時間でその気にさせる(購買意欲をそそらせる)典型的なプレゼンテーションスキル(文章構成も同じ)に、「モンローの動機配列」と呼ばれるパラグラフ(配列=段落・構成)があるのをご存知でしょうか。アラン・モンローという心理学者が定説化した文章構成の配列で、アメリカ系企業のCMやショッピングチャンネルで多用されてきた手法です。短時間(15秒や30秒のCM枠)で購買に直結させる、効率の良い最も効果的な伝え方と言われています。
紙面の制約もあり、詳細については「アラン・モンローの動機配列/説得技法」で検索して戴くこととしますが、欧米系の人々は常識的に知識として習得し、実践の場で有効に活用しているのです。わが国の教育が従来「読み書き算盤」を重視し、先生の教えに忠実に、そして正確に記憶して試験で解答することが第一義とされてきたことが、弱みとして指摘される局面であると言えるでしょう。自ら考えて新たな価値を創出することを不得手とするだけでなく、教えられていないので、相手の心に訴えて行動変容を促すスキルを身につけていないのです。
著書では、これまで関わってきた岐阜県内の中小企業による経営革新(小さなイノベーション)の実践事例を紹介しています。執筆するに際して最も重要であると考えたのは、前述の「相手の心に訴えて行動変容を促す」ことです。学者や研究者の論文ではないのですから、中小企業論やイノベーション論における過去の研究との整合性や検証を第一義とするのではなく、実践事例を通して、読者が実際に経営革新や(阻害要因が多くてうまく進まない)イノベーションを実践していく先導役となることです。そのための「動機配列」に思案を重ねました。
永らく中小企業支援の現場に身を置いてきたことで、紹介する事例には数多く接することができました。一方で、どのように文章で伝えれば良いのか、これまでの経験としてはテレビ番組用にシナリオを執筆してきたことはありますが、書籍となると、映像が勝負となるテレビとは事情が異なります。参考とするべく、池井戸潤や江上剛の企業小説、話題作となった「トヨトミの野望」などを読み漁りました。さすがのベストセラー小説は表現力が豊で、差し迫った期日のある執筆に際して、とても追いつけそうにないと表現力での勝負はあきらめました。
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