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受賞に際してのコメント:立原透耶

 最終候補に残ったという連絡をいただいた時、びっくりして声が出なかったのを覚えています。それも本と自分とで二つも残った、というのはさすがに厚かましいのではないかと慌てたのも事実です。それでも大賞には林譲治先生の作品がとるに決まっていると確信していたので、心は穏やかでした。間違っても受賞することはない、と。

 当日になって電話が鳴った瞬間、やはり急いで受話器を取りました。あまりに速かったので「はやっ」と電話先の事務局長が驚いたほどです。

 そして予想外の言葉。「おめでとうございます。特別賞……」そこまで聞いて、あとは覚えていません。あまりのことにポカンとしてしまい、言葉が出てきませんでした。しばらくしてようやく、「ありがとうございます」と呟くように答えたのが精一杯。

 何かの賞とかお褒めに預かるとか、そういったこととはとんと縁遠く過ごしてきました。人生のクライマックスがここにきて訪れました。今後はもう何も起こらないので、安堵してゆるゆると暮らしていきたいと思います。後にも先にもこんな緊張は、新人賞受賞( cobalt読者大賞)とこのSF大賞特別賞以外ではないことでしょう。

 小心者にとって立派すぎる賞をいただいてしまいましたが、これはわたし一人にではなく、関わった全ての人たちへの賞だと思っていますので、みんなで喜びを分かち合えたらと願っています。そして今後も頑張れと背中を押していただいたのだと思って、たゆまず歩んでいくつもりです。

スペーサー

立原透耶(たちはら・とうや)
一九九一年『夢売りのたまご』で下期コバルト読者大賞受賞、翌年『シャドウ・サークル 後継者の鈴』で文庫デビュー。日本SF作家クラブ会員。SF、ファンタジー、ホラー、実話系怪談など、作品は多ジャンルにわたる。『立原透耶著作集』全5巻(彩流社)など、著書多数。華文SF紹介の仕事に、劉慈欣『三体』(早川書房)監修、『時のきざはし 現代中華SF傑作選』(新紀元社)など。

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