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柄刀一「午後二時三十分のストレンジャー」

Photo : Photo AC /  fragmentsofhokkaido

「失礼なこともしてしまいましたが、緊急事態と感じたものですから……」
 美希風みきかぜは慎重に切りだした。
「ここにはもう一人、私たちの目に見えない誰かがいますね?」

 桜の花びらに視界を乱されそうになりながら、さかき玲奈れなはハンドルを握り直した。細い山道を、いつになくゆっくりと右に曲がる。
「うわっ……」
 一陣の風が、大量の花びらをフロントガラスにき散らしてきた。視界がさえぎられる。しかも、雨模様でもあったため湿っている花びらは、張りついて離れない。ワイパーを動かすが、液体相手とは違い、効果が薄い。
 首を斜めにのばして、前方を確認しようとした時だ――
 あっ、という叫びと同時に玲奈はブレーキを慌てて踏んだ。
 二人の人影。ぶつかりそうになった。三十歳代らしい男女の一組。ぶつからなかったはずだが、車を避けようとした二人は道端に転倒した。
 噴き出す冷や汗と、急上昇する鼓動と共に、玲奈は車を飛び出した。

 ピンク色の花吹雪の向こうから、ウェハース色の小型車が急に現われたかのようだった。南美希風も姉の美貴子みきこも、咄嗟に身をかわした。そして尻もちをつく。不格好な仕儀だったが、衝突は回避された。車は三メートルほど手前でまっている。
 姉は、「つっ……」と声を漏らして、少し顔をしかめている。尻を打った程度で、大事だいじはなさそうだった。岩にぶつかったカメラを美希風が点検しようとしていると、運転席から飛び出した若い女性が声をかけてきていた。
「す、すみません! 大丈夫ですか!?」
 顔面蒼白だった。栗色のカラーの長い髪を、風が横にはじく。細身の体をシックなグレーのパンツスーツが包んでいる。
「ぶつかってはいませんから」
 安心させようと美希風は言い、美貴子も表情をどうにか和らげた。
「腰を打っただけです」と、土を払いながら立ちあがる。
 それでも運転手は、美貴子が少し歩きにくそうにしたのを見逃さなかったようだ。
「病院へ行きましょうか?」
「いえいえ、本当に大丈夫。転んだだけです」美貴子は手のひらに目を向ける。「傷もありません」
 相手は、立ちあがって帽子をかぶり直した美希風の、カメラに心配そうな視線を送った。
「壊れませんでしたか? ぶつかったのでは?」
 これには、問題ない、とは即答できなかった。商売道具に傷みが生じていないか、かなり気になるのが本心だったからだ。細かく調べたいところだ。
「では、うちにいらしてください。帰宅するところだったのです」相手は真剣に提案した。「打撲の痛みが出てこないか、様子を見てみましょう。カメラも、じっくり腰を据えて調べてください」
 彼女は、後部座席のドアをあけて、どうぞとうぞという仕草をする。
「放ってはいけません。家は、すぐ近くですから、どうぞ」
 顔を見合わせてから、姉弟きようだいは相手の意向に従った。
 桜の花びらを払い落としながら二人は後部座席に潜り込んだが、それでもシートには二、三枚の花びらが舞い込んできた。運転席に流れるように体を入れたところで、相手は名乗った。
「申し遅れました。わたし、榊玲奈という者でして、近くで――」
 彼女の自己紹介は、姉弟の「えっ」という反応で中断された。
「あなたが」美貴子は笑顔になって、身を乗り出した。「わたしは南美貴子です。こっちが、弟でカメラマンの美希風。今回はお世話になりました」
 玲奈も、驚き混じりの笑顔になり、上体を半分後ろへ向けた。
「あなたたちでしたか」
 車内の空気は一変していた。事故未遂の直後といった堅苦しさはあっという間にけ、親密なほどの和やかムードとなっていた。奇遇さが、縁の面白さを感じさせる。
 美貴子は私有地に入る取材のため、メールと電話で榊玲奈から許可をもらっていたのだ。
 運転席の玲奈は、二人の風体ふうていを思い出したのだろう、なるほど、といった顔色になった。美貴子は大きな実用本位のバッグを肩からさげ、仕事中の編集者にふさわしく、美希風も、カメラバッグとアマチュアレベルではない一眼レフカメラを抱えている。
 南美貴子は、人員が十人に満たない札幌市内の弱小出版社、〝札風舎さつふうしや〟のデスクであった。二月ふたつきに一度出版する総合雑誌『札幌風発ふうはつ』、略して〝サツフウ〟が看板の出版社だ。時には書籍も発行する。
 今回の取材対象は、驚くほど早咲きだった桜に包まれた仏像群だ。季節はまだ四月の頭。札幌の桜は三分咲きと告示されている中、緯度は変わらないとはいえ、標高の高いこの一帯で、すでに満開の桜が見られるというのが一部で話題となっていた。ソメイヨシノより開花が早い寒桜――エゾヤマザクラとはいえ異例のことであるという。
 そんな十数株に囲まれるようにして、七体の仏像が並んでいる。寺院も見当たらないここに仏像が並ぶこととなった経緯にもストーリーはあり、それを記事は紹介することになっている。
 美希風は、仕事の一部として〝札風舎〟の契約カメラマンも勤めているが、公私にけじめをつける美貴子が重用するということはなく、むしろ依頼リストでは下位のほうに位置している。しかし今回は他のカメラマンのスケジュールがどうしても合わず、弟との同行となった。
「先ほどは、お電話でどうも」
 挨拶の続きのように美貴子は伝えたが、
「え……?」と、玲奈は怪訝けげんそうだ。
 美貴子もちょっと同じような様子になり、
「現地取材は終わりましたので、その連絡をご自宅のほうに……」
「ああ」玲奈の表情はほころんだ。「でしたら、姪っ子が出たのですよ。同居しているのです」
「あっ、そうでしたか。てっきり榊さんと思い込んで話していました」
 玲奈は軽く笑う。
「かまいませんよ、もちろん。声、似てますよね。真良耶まらやがきちんと名乗らず、曖昧なままにしたんでしょう」彼女の口調がやや気づかわしげになった。「なにか失礼をしませんでしたか?」
「いえいえ」と、美貴子は小刻みに否定の手振りをした。「手堅く聞き取ってくれていましたよ。ケータイのほうにはお出にならなかったので、第二連絡先のご自宅へお電話してしまって……」
「それは、こちらこそ失礼しました。運転中だったので、スマホはノーチェックで」小物入れからスマートフォンを取り出して操作すると、玲奈は合点し、「着信、入っていますね。……取材終了のお知らせご挨拶ですか。ご丁寧にありがとうございます」
 こうして事情がわかってみると、あの時の電話に榊玲奈が出られたはずはないな、と美希風は意識するともなく推察していた。彼女の自宅へ電話をしたのが二時半頃。十五分ほど前だ。電話に出てから外出して、わずか十五分で引き返して来るというのはしっくりこない。彼女の服装は明らかによそ行き用で、ちょっとそこまで出かける、という軽装ではない。
「では、まいりましょうか」
 と、サイドブレーキを外したところで、榊玲奈のほうでも美希風たちの行動経路にちょっと問いたくなる点を見つけたようだ。
「取材は、もう終わっていたのですね?」
 ここは取材場所のすぐ近くだった。
 美貴子が笑みを浮かべて応じる。
「この先の滝まで足をのばしまして、町へ引き返す途中でここまで戻って来たところだったのです」
「ああ。小さいですけど、まずまずの撮影スポットですよね。取材ってどういうお仕事なのか、興味があります」
 二、三度ワイパーを動かしてから車はスタートし、桜吹雪の中、ゆっくりと進んでいく。すぐに右へと回ると、両側にクマザサなどが茂っている細い未舗装路で、すでに私道のようだった。
 取材成果はいかがでした? などと玲奈が問い、主に美貴子があれこれ応じているうちに、正面に一軒家が見えてきた。古民家を一部おしゃれに改装した平屋だった。
 榊真良耶と二人で住んでいるという。

 庭へと出られる東向きの掃き出し窓から、真良耶は、舞い散る桜の花びらを眺めていた。
 こんなにいっぱい散ったら、桜はすぐに枝だけになってしまうだろう。
 低いやぶと、その先の森林。そうした景色を薄桃色にけぶらせて、花びらは右手のほうから、作りすぎた紙吹雪のように押し寄せる。
「この季節に満開なんて」背中のほうで、玲奈さんの声がする。「狂い咲きですよ。そして、この異様な散り方は、狂い散りです」
「まさにそうですね」女性のお客さんの声には、強く同感の思いがこもる。「でも、その表現は雑誌には載せられないかな」
 お客さんが来るなんて、すごく久しぶりだ。ゲスト。来訪者ビジター――。
 外部の人との接触は緊張する。
 失敗しないようにしないと。玲奈さんは、わたしがあがってうろうろしないように、少し前の電話の相手であることを丁寧に説明し、車でぶつかりそうになったこともことさら安心を誘う口調で、んで含めるように伝えてきた。
 緊張はするけれど、変な心配まではしていない。玲奈さんが招き入れたのだから、いい人たちなのだろう。
「雨でも散らなかったですのにね」男のお客さんの声もする。「今も、風が強いわけじゃない。それなのに、これほど一斉に散るとは……」
 本当に、普通ではない凄い光景だ。もう一度、写真に撮ろうかな。

 南姉弟も座らせてもらっているローテーブルにコーヒーを四つ並べ、榊玲奈が掃き出し窓のほうへ声をかけた。
「真良耶。コーヒー入ったよ、飲もう」
 すでに挨拶は済ませている、玲奈の姪っ子がやって来た。人見知りというか、伏し目がちで大人しい。十七歳だそうだ。水色のカーディガンとゆったりしたカーゴパンツ。肩までの黒髪……だが、少し白髪も見える気がする。
 姪と二人だけで住んでいる、そのことに当然いぶかしさを覚えるだろうと察してか、玲奈は事情を自ら聞かせてくれていた。真良耶が窓辺へと離れてからだ。
 真良耶の両親は、もう亡くなっているという。うちと同じだな、と美希風は思ったものだ。母ひとり子ひとり、という言い方もあるけれど、美希風のところは、姉ひとり弟ひとりだ。
 真良耶の母親が、玲奈の六つ違いの姉だ。その姉から、三年前に他界する時に「真良耶を頼める……?」との言葉をのこされ、さして負担と感じることもなく、玲奈は身近で見守るために同居を始めた。他に頼れる親族もなく、父親が亡くなった時に名字を榊としていた真良耶との暮らしが始まったのだ。
「わたしには結婚の予定もなかったし」と、玲奈は笑った。
 真良耶が座ったところで、「いただきます」、「こんなことまでしてもらってすみません」と、美希風と美貴子は礼を言いながらコーヒーカップを持ちあげた。
 真良耶と目が合った美希風は、微笑んでおいた。相手は恥ずかしそうに、こそっと視線をさげる。
 美貴子がやや遠慮がちに、「記事内容、確認してもらってもよろしいですかね?」と玲奈に尋ねた。
「ええ、もちろん」玲奈は晴れやかな笑顔だ。「どうぞ。取材の充実が罪滅ぼしになれば、こちらとしてもホッとします」
 新たな痛みもないらしい美貴子は、「罪滅ぼしなんて……」と言いながらタブレットを取り出した。そして、取材内容を呼び出す。
 まずは、私有地に仏像が並ぶことになった理由の確認だ。
「榊玲奈さん自身が、仏像好きなのでしたね?」と、美貴子がく。玲奈への簡単な電話取材で得ていた情報だ。「仏像を彫りたかったほど」
「高校を卒業してから、仏師さんを訪ねたんですよ」玲奈の表情が少し曇る。「教えてほしい、弟子になりたいって。でも、まったく駄目でした。お二人のところへお願いにあがったのですが、どちらも、実に婉曲に、丁寧な物腰で、基本として女だから門はひらけないということでした。それ以上根気が続かなくて、実作の道はあきらめました」
 美希風はつい、「造形の熱情は、今のお仕事につながるのですね」と口を挟み、広いリビングの窓寄りの一角を眺めやった。
 そこには陳列棚が設けられ、玲奈が造り出したフィギュアが並んでいる。高さ二十センチほどで直立している、SF的な戦闘スーツの女戦士。赤ん坊ほども大きさがあって座っている、クラシックな装いのドール。精巧で流麗、溜息をつかせる造形美にあふれている。
「時間もなにも忘れて没頭できます」若干の誇りと愛おしさを込めた目でフィギュアを見やる玲奈は、微笑んでいた。「それが評価されて、とても嬉しいです」
 かなりの高値で取引されてもいますね、という言葉は美希風はみ込んだ。機会があれば、近くでじっくりと鑑賞したいものだ。
「でも仏像への興味は断ちがたく、持田もちだ善三ぜんぞうさんと出会ったのですね?」と、美貴子は話を戻した。
「はい。二年前にここへ越して来てからのお付き合いです。小さな峰を越えた向こうにお宅がありました。仏像の話が合う人が今まで一人もいなかったということで、わたしを大変歓迎してくれました」
 持田善三は、七十歳代の独居者で、仏像収集マニアだった。他の収集家や研究者から譲ってもらったり、廃寺から許可を得て入手したりして、十体近く仏像を集めていた。
「茶飲み友達でしたよ」と懐かしむ玲奈も、「火事は残念でした……」という美貴子の言葉で沈痛な面持ちへと変わった。「まったくです……」
 失火によって持田家が炎に包まれたのが、去年の十月末だ。持田はなにをおいても仏像を外に避難させようとし、七体運び出したところで炎に巻かれて力尽きた。
「町の人たちから、持田さんの最期さいごの言葉を聞かされた時には驚きました……」
 緊急搬送された病院で息を引き取る直前、持田善三は、「仏像は榊玲奈さんに譲りたいというのが、心よりのお願いだ」と言い残したのだ。
 このへんの事情は、南姉弟は町の関係者から取材を済ませてある。
「お代わりは?」
 と真良耶に声をかけてから、玲奈は当時の事情の話を再開した。
「町の方々とも相談して、引き取らせてもらうことになりました。まず考えたのは、仏像を置く場所です。それで思いついたのが、ここを土地付きで購入した時に、ガレージを設置してもいいかな、と目をつけた場所でした。車道から草地の中に、小道こみちのように雑草が少ない場所がのびて、その先がちょっとひらけた空き地になっていました。結局、ガレージはこの母屋の前に据えましたから、その空き地はそのままだったのです。それで、そこを安置場所にすることになりました」
「町の有志のかたが総出で、仏像が雨風を防げる、大きなほこらのような簡易な家屋を造りあげたのですよね。いいお話です」
「ええ」
 玲奈は微笑し、真良耶もにっこりとした。
「それであなたは、私有地ですけどあの空き地と小道部分は一般にも開放していて、町の人は仏像の参拝にも来る」
「すっかり、お地蔵さんという感じで」玲奈の口調は柔らかい。
「先ほど拝見した時も、たくさんのお供えやお花が供えられていました」
 撮影していて美希風は、古仏のあり方としてこれも理想の一つではないかと感じていた。寺院仏閣の奥で拝むのではなく、庶民が距離を縮めて仏像と交流する。そしてまた、仏像の面倒をみる。大げさな飛躍になるかもしれないが、全国を行脚して仏像を造り続けた木喰もくじき上人しようにん円空えんくうらは、これを見てうなずくのではないか。
 美貴子は、仏像を譲られた時の気持ちを玲奈から要領よく訊きだしていた。
 答え終わると玲奈は改めて、美貴子に「お加減が悪くなっていませんか?」と尋ねた。
「痛みは引いてきている感じです」
 口調も軽く美貴子が答えると、美希風は、
「頑丈なんですよ」と軽口を放り込んだ。「骨太の記事も書くうえに、骨太の体形でもあるのを誇っています」
「誇ってはいない」
 クスッと笑った玲奈は、美希風には、「カメラに支障があるようでしたら、遠慮なく言ってください」と声をかけてきた。
「本当に、まったく問題ありません」と美希風は伝えた。
 車の中でもざっと調べていたが、このお宅にお邪魔させてもらってからもしっかりと点検していた。液晶モニター画面の表面も、映し出される映像にも異状は微塵も見当たらず、レンズのズーミングの動きもスムーズで、機能はすべて作動する。
 そうした説明をしてから美希風は、
「できれば実際に、二、三枚撮ってみたいですけど」と横に置いてあるカメラに手をのばした。
「でしたら……」と、真良耶が控えめに言ってきた。「そこの窓から、仏像の中の一体が見えますけど、それを撮ります?」
 いいですね、と美希風は提案に乗った。案内された数メートル先、サッシの掃き出し窓から外を眺めると、ほぼ正面にそれが見えた。
「一番左側の一体ですね」
 花の季節にはまだ早い小さな庭と、藪の向こう。距離にすると二十メートルほどだろうか。田舎いなかにあるバス停留場の待合室のように周囲を囲まれて安置されている薬師やくし如来によらい坐像ざぞう。奥のほうにあるので薄暗く、はっきりとは見えないが、姿を拝むことはできる。
 右側に並ぶ六体は、高さを増す藪によって視界から遮られている。
「どれ」美貴子がローテーブルから立つ気配だ。
 美希風は、一眼レフカメラを構えた。記事に添える写真候補にはならないだろうが、試し撮りにはいい被写体だ。そのような思いだったがすぐに気持ちが高ぶった。舞い散る数は減っていた花びらが効果的な演出をしてくれたからだ。薬師如来坐像に吹き寄せ、渦を巻くような旋回を見せる。シャッター長押しで連写をした。
 撮影具合を液晶画面で確認していると、真良耶が覗き込むようにしてくる。画面を見せてやると、うわっ……と声を漏らした後、遠慮がちに、
「上手に撮ったりするコツ、教えてもらえませんか? ここはわたしもよく撮りますけど、どうしても上手くは……」
「これ」と、たしなめる声を出したのは玲奈だ。
 振り返って見ると、そばまで来ていた美貴子の後ろに玲奈の姿もあった。
「プロにお願いするなんて、恥ずかしい」と、姪っ子に意見する。「カメラだって、安いデジカメでしょう」
 美希風としてはまったくかまわなかったので、カメラを持って来てもらった。銀色光沢の小さなコンパクトデジタルカメラだった。長年使っている愛機のようだ。
 撮った写真を画面に呼び出してもらう。上部に撮影日時や時刻が表示されており、今日の十四時頃に撮った写真が数枚ある。散り花と、その向こうの仏像。
「そうだねえ……」カメラの機能を探りながら、美希風は助言した。「このコンデジは望遠機能がそれほどないから、あの距離の被写体にはさほど寄れないんだね。だったら構図を工夫するといいよ」
 外に出てみることにし、窓をあける。かすかな冷気が肌に触れ、桜の香りが鼻腔を通りすぎていく。女性用のサンダルで美希風の足には小さかったが、それを履いて、真良耶と一緒に右側へと移動する。
「被写体としてのポイントを、真ん中に置く必要はないんだよ」
 低く構えて一枚撮り、真良耶に見せた。
「ああ……」真良耶は納得するように息を呑む。
 フレームの中、藪で見えなくなるぎりぎりまで、望遠でとらえられた仏像は右に寄っている。そして、その左手や上部には空が広がる。
「空という空間が広がることで、高遠なイメージが仏像にも加わる。意味ありげな余白が広がるわけだ」
「ええ……」
「意味ありげな余白があると……」美希風は微笑した。「そこに鑑賞者がそれぞれの思いを込める」
 掃き出し窓の内側では、美貴子が玲奈に話しかけていた。
「あの薬師如来は、かなりの名品だったのですよね」
「来歴はもう、はっきりしないのですけどね」
 胎内仏たいないぶつが発見されていたのだ。持田が所有していた頃に、地元の大学の調査で判明した。仏像本体の体内に、四体の小仏がおさめられていたのだ。それは取り出さず、今も胎内仏として存在している。高さが一メートル二十センチほどある仏像の彫りはなかなかのものだったが、置かれていた環境が悪かったらしく、表面は荒れて古色もひどく、左手の薬壺やつこも紛失していた。
 コンデジを手にする真良耶は、美希風が撮ったものと自分のを比べるように、画面の中の写真を動かしている。
「ああ、それもそうだね」
 美希風が声をかけたので、真良耶は手を止めた。十四時二十分頃から撮られた数枚の中の一枚で、縦画面で撮ったものだ。横向きの画面の右側に先頭を向けてポプラが一本、すっとのびている。庭の右手に見える光景で、この数枚はそこが被写体になっている。
 カメラを縦にした真良耶に、
「桜の花びらがけっこう大きめに写っていて、その距離感のコントラストはいいけれど、これも構図が正直すぎるね」と、美希風は口にする。「ポプラが真ん中だ。それが意図されたものなら、それでいいんだけどね。これも、ポプラが切れてもいいから、どちらかに寄せるという手もある。仰角で撮るのも効果的かもしれないよ」
 頷きつつ真良耶は、
「このへんの写真は、ほとんど意識もしないで、記憶にもないほどパパッと撮ってるみたいなんですけど、そうした時のほうがいい写真撮れていたりするんです」
「おう。まさに、無我夢中で撮っているってやつだね。判るよ。自分でも驚く名品が撮れていることがある」
「でも、今回はダメみたいでした」
「ダメってことはないさ。他の可能性を探ってみただけだ」
 最後の三枚は、美希風たちが来る少し前に撮ったもので、構図は縦あり横ありで、窓ガラスに張りついている桜の花びらを撮っている。これは、ピント合わせに苦労している。
 掃き出し窓へと戻りかけたところで、真良耶は庭の左側に向けて腕を回した。
「もうすぐ、あちら一面は菜の花畑になるんですよ。思ったほどきれいに撮れないんですけど、どんな工夫がいいですか?」
「花と同じ目線になるぐらいの、低く構えるローアングルはどうだい? 土の地面は入らず、花だけが遠くに向けて重なる」美希風は、さげている一眼レフカメラに触れて、「こうした、焦点深度を――焦点を絞れるカメラなら、あえて手前だけに焦点をもってくるのも手だよ。遠くの花がぼけて、柔らかな距離感が出る。スマホにもそうした機能はあるね。あえて露出オーバーにすると、光が滲むようなパステル調の写真にもなる」
 熱心に聞いていた真良耶は、「スマホを使い慣れていくべきかなぁ」と呟いている。
 二人が屋内に戻ると、美貴子と玲奈は、少し奥にあるフィギュア陳列台に顔を寄せているところだった。
 ……美希風はこの時、まだ些細なものだが違和感を感じ始めていた。気にかけるほどのことではないのかもしれないが……。
 スマートフォンの電話着信音がして、それを手にした玲奈が、「ちょっと失礼」と断ると、リビングを横切りながら応対を始めた。
 真良耶はサイドテーブルに向かった。勉強をしていたようで、ノートや参考書が広げられていた。その前にぺたりと座ると、時々コンデジを手にしながら、いま習い覚えたことを真面目にしっかりと書き留めていく様子だった。
 玲奈は電話相手に、「ちょっと待って」と言うと立ち止まり、電話台に近寄った。廊下とリビングの境にあるものだ。電話機の横のメモ帳を彼女はめくった。押さえていないと閉じてしまうので、彼女はスマートフォンを首の横で挟むと、「うん、それで?」と問いを発しながら、左手でメモ帳を押さえてボールペンを走らせていく。
「眼球やウィッグは市販の物らしいよ」
 そんな姉の説明を耳にしながら、美希風はフィギュアに視線を集中させた。目の前の、包帯姿の少女像は、さらさらの髪が淡い虹色で、それだけでも目を引く。アクリルケースの中のフィギュアたちの多くは、それぞれの設定に合ったジオラマで飾られてもいて、見所が豊富だった。
「明日ですって!?」少し苛立いらだったような玲奈の声は、少しすると廊下の奥へ遠ざかっていった。
 真良耶が近くへ来て、「衣装を縫うのは、わたしも手伝ったりするんですよ」と、少し上気した顔で話してくれる。
 そうこうしていると玲奈が戻って来て、「真良耶」と呼びかける。「お二人にコーヒーのお代わりを差しあげて。南さんたち、わたしはちょっと着替えて来ますのでお待ちを。そのへんの作品について、もう少しお話しできればうれしいですし」
 真良耶に一瞬視線を留めてから、玲奈は廊下に体を向けようとした。
「あ、すみません」と、美貴子が呼び止める。「お手洗い、使わせてもらえますか」
「どうぞ」
 笑顔になって、玲奈が案内しますという仕草を見せる。
 美希風は、違和感の芽が育っていくことをはっきりと意識し始めていた。表情が曇ることを抑えられない。

 リビングに戻って来たとたん、美貴子は、「な――」と一声発したなり言葉を呑み、息も呑んだ。
 大声を出さないように懸命に抑制し、「なにやってるの、美希風!?」と声をしぼり出す。たしなめるどころではなく、驚きも込もった叱責しつせきの語気になる。
 なにしろ弟は、電話台の横にあるゴミ箱から紙くずを拾いあげたところだったのだ。人様の家のゴミ箱をあさるとは!
「しい!」と、美希風は口の前に人差し指を立てる。
「しい、じゃないわよ! なに考えてるのあなた!?」
「不穏なことに巻き込まれていないかどうかを」
「……え?」
 美希風が手にしているのは、左端で切り離されている一枚のメモ用紙で、軽く丸められていたそれをひらくと彼は、目を凝らしていく。
 こそ泥の気分になって美貴子は、辺りを窺い見た。「真良耶ちゃんは?」
「冷たいお菓子も出してくれるそうで、キッチンにいる」
 ぼんやりとした口調で言った後、美希風はしばらく宙に視線を据えていた、軽く握った指の関節を唇に触れさせ、静かに左右に動かせつつ。それから発した一言は……。
「やばいな……」
 弟のこんな言葉づかいは珍しく、美貴子は気持ちを切り替えた。真剣に聞かなければ危険に陥るほどの事態が起こっているのか?
「なんだって言うの?」
「これを見て」
 美希風は広げたメモ用紙を、美貴子にも見やすくした。縦に三行、聞き取りながら要点をつまんでいったという覚え書きだ。

  南さん
  あの七体 桜
  しゅざい終わり  お礼

 可愛らしいと言えるほどの丸っこい文字で書かれていて、片隅には、星マークでも描こうとしたような、時間つぶしのくるくるとした落書きもある。
「姉さんが二時半すぎにかけた電話のメモだ」
「真良耶ちゃんが書いたのね」
「いや、違うね」
「なんですって!?」またまた、飛び出そうになる大声をぎりぎりで潜めた。
「これも見ておいてよ」
 そう言って美希風は、メモ帳をひらいた。通常の書籍やノートと同じように、左右にひらいていくスタイルで、左びらきだ。真ん中ほどに、右側のページが手で切り離されたと思われる痕跡があった。美希風が手にしている紙片と、ちぎられたような切り口は一致する。
「この左側のページのメモは、さっき玲奈さんが書きつけたものだろう」
 横書き四行の内容を、美貴子はなるべく読み取らないようにした。プライバシーの盗み見への抵抗感がある。
 一行めと二行めは柔らかな筆跡で、フィギュア制作の専門用語が書かれているらしく、電話で聞き返しながら反復していた内容と一致しているようだ。最後の行は、感情がストレートにこもったらしい鋭い筆致。

  あした! 3!

 との記述だった。明日まで三体なのか、明日の三時までなのか、いずれにしろ容認しがたい指定なのだろう。
 手を離すとメモ帳は、パタリと自然に閉じた。
「そもそも変だったんだよ」
 二人は、廊下からも、キッチンにつながるダイニングからも一番遠い壁際で声を潜めた。
「真良耶さんが写していた写真の構図だけどね」と美希風は言う。「縦画面で撮っていたポプラの木が、横画面で見ている時の右側が上部になっていた」
「……それが?」
「多くの他の日常器具と同じく、カメラも右利き用に作られている」美希風は、胸の前で架空のカメラを構えて見せ、指で四角を作った。横に長い長方形だ。「シャッターボタンは右上に付いている。これを縦にして使う時は、どちら側に立てるか。時計回りか、反時計回りか?」架空のカメラを動かして、美希風は自答する。「もちろん時計回りだ」
「……そうなるね」
「シャッターボタンは右下に移動するだけだ。これで撮れば、被写体の上部は画面の左側になる。でも、左利きの者が撮る場合はどうか? カメラは反時計回りに立てる。シャッターボタンが左側にくるからね。ただ、左利きの人でも、シャッターボタンぐらいは右手の指で押すからと、時計回りに立てることもあるかもしれない。でも、右利きの者が、|。よほど特殊な事情がない限りね。そして、三十分ほど前のその庭先が、特殊な事情にあったとは考えられない」
 美希風は、決定づけるように言った。
「あのポプラの写真は、左利きの者が撮ったものだ。しかし、この家に入る前から、そして入ってから、さらにコーヒーを飲む間、どの動きから判断しても、玲奈さんも真良耶さんも右利きだ。加えて、カメラを立てて撮る場合の真良耶さんに変な癖があるわけでもない。その証拠に、と言うか、ポプラの写真からおよそ十分後に撮影した三枚の写真には、縦構図もあったけど、これは左側が上部だった。それで不思議に思っていると、見過ごせないものが目に入ってきた」
「なにが?」美貴子の声は、聞き取れないほど潜められていた。
「玲奈さんがメモを取りだした頃、僕らはフィギュアを眺め始めていた。その時、僕の前には黒い背景ボードがあって、それに玲奈さんの姿が映っていたんだ。すると、メモを書きながら、彼女は僕たち二人を窺う視線を向けてきたんだよ。自分が見られていないかをそっと確認する目つきだった。そしていったんペンを置くと、メモ用紙の右ページを破り始めた」
「気がつかなかった……」
「音を立てないようにそっとやっていたからね。それは、メモ用紙を丸める時も同様だ」美希風は、そのメモ用紙をの上で見せる。「くしゃくしゃと音を立てないように加減したから、しわくちゃにならず、この程度の丸まり方になっているんだよ」
「……その一枚を、こっそりと処分したかったということ?」
「そうなる。たぶん、このメモを書いたのも左利きの誰かだからだ」
「左利きだ、と?」美貴子は紙面をじっと見た。「これで判る?」
「これだけでは無理だけど、彼女たちの行為を順にたどると判るよ。まずあの電話機だけど、あまり新しい機種ではなくて、子機はないしスピーカー機能もない。だから、受話器を持って相手と話すしかない」
「なにも珍しいことではないでしょうよ」
「基本の確認だよ。次はあのメモ帳だ。このメモが書かれた時、見開きのどちらのページも白紙だった。その右側にこれが書かれ、左のページにはその、玲奈さんが書き込んだ。ここで考えてみるけど、右利きの人間が電話を受けながら、あのメモ帳の右ページを選んで書くと思うかい? あのメモ帳は大人しくひらいたままではいてくれず、腰が強くて閉じてきてしまう。それを押さえる、ペーパーウェイトのようなおもりもあそこにはない。右利きの人間が右側ページに書いていたら、左側メモ帳部分がパタパタと手に当たってくるんだよ。邪魔でしょうがない。満足に書けるものじゃないよ。避ける方法は簡単だ。左側のページに書けばいい。書いている最中、自分の手首が右側を自然に押さえるからね。逆に、左利きの書き手は、手首などで押さえながら右ページに書けばいい。そしてこのメモ書きは、右側ページに書かれている。
 十七歳の真良耶さんが、肩と頬で受話器を挟み、左手でメモ帳を押さえながら書きつけていったって? そんな可能性もないさ。わざわざそんな面倒なことをする必要はないんだよ。左ページに書けばいいだけの話だからね。それに筆跡の問題もある」
「筆跡……」
「姉さんの電話の内容を書き留めた人間の筆跡は、くるっとした可愛いものだ。玲奈さんの筆跡は似ているけれど、同じではない。……それに、玲奈さんの、感情がこもったような四行めはシャープな筆跡で、これが本来の玲奈さんの文字なんじゃないかと思う。そして、真良耶さんの筆跡も……」
 美希風は、サイドテーブルに載っているノート類を指差した。
「メモを書き留めた者とは違うんだよ」
 自分の行動の経緯を説明するかのように、美希風は改めて順序立て、
「ポプラの木の写真を誰が撮ったのだろうと、ちょっと気にしていたら、玲奈さんのどこかやましそうな挙動が目に入った。それでメモ帳を見させてもらうと、おかしな事態が推察できるようになった。その時にはもう、二人が筆記具を使うところを見ていたから、玲奈さんも真良耶さんも右利きであるのは確定していた。……はっきりさせないと身の危険も感じるようになったから、さすがにためらったけどゴミ箱にも手を入れさせてもらったのさ」
「身の危険……」美貴子はなるべくひっそりと、辺りを窺った。
「姉さん」美希風も密かに言う。「つまり、。そして言うまでもないけど、それは、たまたま侵入した空き巣などが成りすましたりしたんじゃない。写真もメモも、自分たちの行動範囲内の出来事だと、真良耶さんたちは日常的に受け取っているからね。その一方で、彼女たちは、自分たち二人以外にここには誰もいないという前提で終始行動している。それにこれははっきり記憶しているけど、玄関前の地面には、出かける時の玲奈さんの靴跡と思えるものしかなかった。庭の周辺にも靴跡などはない。……姉さんは手洗いのほうまで歩いて来て、第三の人物の気配を感じたかい?」
「そんな注意力は払っていなかったから判らないけど……、思い返しても、余計な痕跡や物音はなにもなかったと……」
 フィギュアの陳列台のほうも見据えながら、美希風は考え込む。
「どうしてだ……? その誰かは消えたのか? 隠されてる……?」
 美貴子は、今までで最大限に声を潜めた。
「こっそり逃げ出そうか? ――でも、玲奈さんが実は見張っているとか? 警察に知らせたほうがいいような事態か?」
「そこまでの根拠はない。なにか他に……」
 その先を話し合える時間は、二人にはなかった。
 ダイニングからはカチャカチャという食器の音が、廊下からはかすかな足音が近付いてきていた。

 真良耶が用意してくれたゼリーが、四人の前に置かれていた。洋梨とパイナップルの果肉が入った、ほぼ透明のゼリーだ。それと、コーヒー。
 美希風は、手をつける前に姉が、不安そうに問いかける視線を向けてきたのに気がつき、口をつけることでそれに応えた。安全だとの、完全な確信があったわけではなかったが。
 さっぱりとした部屋着に着替えた玲奈は、作品集も二冊手にして来ていた。それを見せられ、作品の魅力に引き込まれる美貴子は、けっこう熱心に解説に耳を傾けていく。
 美希風は、真良耶に話しかけられていた。デジタル写真のオリジナルアルバムを見せられて、レイアウトについて意見を求められていた。
 二組とも、話す相手が斜め前にいるので、会話が交錯していてテーブルの上はにぎやかだ。
 しかし美希風は、レイアウトセンスはなかなかいいとめてあげながら、頭の中では謎の真相を追っていた。
 無我夢中で……? ――いや、違う。
 推理の足場は出来つつも、進行方向を明かりで照らすほどではない。
「子供の頃から、アルバム作りは得意だったのかい?」
「……子供の頃の写真は、ほとんどないのです」
 と、真良耶は残念そうだ。
 美希風も美貴子も、体調に変化などは起こらず、器とカップの中身はからになっていた。
「ごちそうさまでした」ホッとした様子は隠して美貴子は、軽く一礼し、「いただいてすぐというのもなんですが、わたしたちはそろそろおいとましませんと……」
「そうですか……?」
 玲奈は残念そうな気配で、それは真良耶にも顕著だった。
 この時美希風は、美貴子に、「やってみたほうが良さそうなことがある」との意味を込めて視線を送ったが、通じたかどうかははなはだ疑問だった。
 だがやる気持ちを固めた美希風は、ローテーブルの陰で、玲奈だけに見えるように、ちぎられたメモ用紙の表を広げていた。目にした玲奈からは、理解の度合いが進むにつれて表情がすーっと消えていった。
 そして、平坦な口調で言った。
「真良耶。テーブルの上を全部片付けて」
「はぁい」と小さな声で返事すると、真良耶は立ちあがってダイニングへと向かった。
 一人、玲奈が残る。南姉弟と向き合って、無表情だ。
「失礼なこともしてしまいましたが、緊急事態と感じたものですから……」
 美希風は慎重に切りだした。
「ここにはもう一人、私たちの目に見えない誰かがいますね?」
 玲奈が沈黙しているうちに、真良耶がトレーを持って引き返して来た。コーヒーカップやデザート皿を片付け始める。
「すみませんね、真良耶さん」美貴子は礼を伝え、場をつなぐように、ゼリーの味や食感を満足げに口にしていた。
 食器を載せたトレーを持ち、キッチンへ向かう真良耶はダイニングを抜けて行く。
 美希風は小声で話を進めた。
「推察では、警察沙汰にすることではないな、とのセンに落ち着きました。しかし、児童相談所と連絡を取る必要があるのかどうか、それははっきりさせなければなりません。そうした通報事案なのかどうかを探る必要は、玲奈さんが話してくれる内容によってはなくなるでしょう」
 口をひらいたのは美貴子で、弟に顔を向けた。
「児相……ってことは、真良耶さんに関係するのかい? それとも、他の未成年?」
「それへの答えは、玲奈さんにこう尋ねると明確になると思う。玲奈さん、?」
 玲奈は、びくっと身を反らした。
「そこまで……! いったいいつの間に、どうやって……?」
 真良耶が戻って来る気配だったので、玲奈はその先は早口で告げた。
「お答えすれば、十歳ぐらいまででした」

「また、お留守番、頼むわね」
 玲奈は姪っ子にそう言い置いて、南姉弟と玄関の外へ出た。真良耶は名残惜しそうに、靴脱ぎスペースの奥に立って見送ってくれた。
 扉を閉め、車に向かいながら玲奈が言う。
「児相に連絡を取るべきか……。むしろそのように感じてくださる方々だから、すべてお伝えする気になりました。丁寧に、慎重に、理解してくださるでしょう」
 デリケートに対すべき証言者が目の前に立ったかのように、美貴子はゆっくりと足を止めた。
「わたしにはまだ、事態がほとんど呑み込めていないのですけどね」
 同じように立ち止まり、玲奈は二人を等分に見た。
「真良耶は、家庭内暴力の被害者なのですよ。父親の暴力から逃れられず、精神は崩壊する前に目を閉じました。現実をシャットアウトしたのです。……いつから始まったと線引きできるものではありませんが、真良耶が五、六歳の頃には父親の暴力が目に余るようになっていたようです。姉は……真良耶の母親は、我が子を懸命に護ろうとしました。同時に、世間には隠そうとした。父親を止め、真良耶をかばい、そうやって姉もボロボロになっていきました……。そうして、真良耶が九歳の時ですね、凄惨な現実に彼女が意識の目を閉じている間に、別の人間が――別の人格が起きあがってきたのです。真良耶は、解離性同一症なんですよ」
 憎み疲れた相手の名前を口にのぼらせるかのように、玲奈の声からは力が抜けていた。
「真良耶の、同年齢の架空の友達が独立した人格を得たもののようでした。真良耶より少ししっかりしていて、〝ミリイ〟と、自ら名乗りました。『わたしが代わりに、あの男からの仕打ちの記憶を引き受ける』と、姉やわたし相手に話しかけてきました。……暴力的でむごい、姉の家庭の実態をわたしがはっきりと知ったのはその頃からでした。それまでも、なにかおかしいとは感じていました。でも、明確にしたくなかった。姉の家庭が平和ではないなんて思いたくはなく、鈍感ぶって逃げ、目を逸らしていたんです。でも、近所の人たちからの耳打ちや、姉たちの住むアパートから疑いようのない悲鳴や音響を耳にしたりして、信じたくなかった真実と向き合うことになりました。そして、真良耶の解離症と直面して驚き、混乱してしまって恐怖さえ覚え始めていた姉は、勘づいたわたしに隠そうとはしなくなっていました」
 姉弟は聞き入っていたが、美貴子は記者としての反射的な本能のように、問いを差し挟んでいた。
「外部への相談は……?」
「わたしは警察に届けようと、咄嗟には思いました。でも姉がそれを必死で止めました。血相を変えて、そうしたことだけはしないで、と。慎重に考えれば、警察沙汰というのはできれば避けるべきで、最後の手段とわたしも思うようになりました。それでももちろん、最優先は、真良耶と姉を護るということでした。福祉課や児相の相談窓口を密かに利用し始めましたが、気付かれると、あの暴力男に袋叩きにされ、わたしも半死半生になりました。向こうの窓口や事業所に破壊的なこともして、そんな時は姉が被害者側に、『わたしたちでなんとかしますから!』『穏便なる慈悲をいただき、チャンスを!』と泣いてすがり、刑事事件になることは避けられたのです。……思えば、自分たちの悲劇は世間を騒がせないということ、ひっそりと悪夢が終わるように方がつき、すべてが過ぎ去ることが姉の願いであり、あの時の人生の、細い糸のような指針だったのでしょう。真良耶が多重人格で苦痛を分散したように、姉は暴力的な日常を縮小化して、縮めてこらえて消し去り、コントロールできると信じたかったのかもしれません。その希望の妄想が破れた時、姉が命を絶ちそうで恐ろしかったです……」
 玲奈は一つ息をついた。
「人間の形をしたあの冷血鬼の最期は、ふさわしいものでした。街中で酔って暴れている時に倒れ、電車にかれたのです。真良耶が十三歳、わたしが二十八歳の時でした。姉とわたしはすぐに、真良耶の治療を始めました。外傷の、時間をかけた形成的な処置とか、解離性同一症への精神医療的なアプローチです。……でも、こうした時は一年ほどしか続きませんでした。姉はがんを発症していたのです。……そして、息を引き取る時、わたしに真良耶を託したのです」
 桜の花びらがまつげにまりそうになり、玲奈はそれを手で払った。
「車に入りましょうか」

「最終的に、真良耶の〝ガーディアン〟は――。専門の医師せんせいがたは、交代人格とかパーソナリティー状態とか呼んでいましたけど、姉とわたしは、真良耶の別人格を〝ガーディアン〟と呼んでいました」
 運転席の玲奈は半身になり、後部座席の美希風と美貴子への話を続けていた。
「そう呼ぶようにと、三番めの人格である〝タケシ〟くんが言ってきたからです。〝ミリイ〟を含めて、〝ガーディアン〟は全部で四人でした。〝タケシ〟くんは、年齢が十代後半という自己認識で、わたしたちの印象でもそうでした。痛みに強い子でした。真良耶の代わりに、彼が身代わりとなって暴力を受けている時に居合わせたこともあります。蹴られながら身を丸め、彼が『やめろ!』と叫んでいました。わたしも止めようと泣き叫んでいましたらはっきりとはしませんが、野太い、男性的な声に聞こえました。真良耶の父親は強気の反抗に激高して、さらに蹴りを強める男でした。ですから、その時の虐待が過ぎ去った後、『オレはあいつの前では声を出さないほうがいいな』と〝タケシ〟くんは言っていました」
 引っかかる点を聞き逃さず、美希風は尋ねた。
「お姉さんとあなたは〝ガーディアン〟と呼んでいた、とのことですが、真良耶さんは?」
「真良耶は、自分が解離性同一症であることを知りません。他の人格のことを知らないのです」
「ほう」と美貴子は声を漏らしたが、美希風は、やはりそうかという顔だった。
「三人の〝ガーディアン〟は、他の人格のことを知りません」と、玲奈は続けた。「ただ、最初に誕生した〝ミリイ〟だけは、まとめ役のように、他の人格すべてと交流できていました。〝ミリイ〟を通して、〝ガーディアン〟たちはつながっていたのです」
「その場合……」美貴子は静かに問いかけた。「真良耶さんが、意識できていない他人格に交代されている場合ですが、真良耶さんはその時間をどう理解していたのですか?」
「記憶できていません」そう、玲奈は答える。「そうした体験をしている少女時代も、その後の治療期間も、真良耶は自分の症状を虐待による記憶障害と理解しているのです。心的外傷による記憶の欠如や記憶力の低下、ですね。姉やわたし、治療スタッフは、多重人格であることは伏せ続けました」
「なぜでしょう?」
「わたしも今、その用語を使いましたが、解離性同一症は容易に、多重人格と言い換えられてしまいます。専門家でも、解離性同一症という症例そのものに懐疑的な人はいますし、まして多重人格などと表現すれば、そんなものは存在しない、と全否定もするでしょう。一般的な感覚ではなおさらです。さらにそれに、架空の、妙にドラマチックなイメージも加わる。無意識の演劇的要求であったり、UMAを見るような興味本位であったり、ヒロイズムの添加でさえあったり……。そこから発生する無神経な詮索。
 一方では、多重人格など嘘っぱちだと決めつけている人たちもいます。『わたしは多重人格です』とか、『多重人格だったのです』などと言ったとたん、冷笑したり、見下げたりして、幼稚な空想癖のある虚言症を相手にする態度になります。高圧的に断じて否定したり、笑い広めたりと、なにをされるか判りません。
 真良耶が不用意に、『わたしは多重人格で……』などとSNSにあげたりした場合、それは起こるでしょう。その反応が恐ろしい……。彼女が認知していないのであれば、解離性同一症は伏せたまま、対処していくことにしたのです」
 玲奈は、治療経過や、〝ガーディアン〟たちのそのを語った。
 父親の存命中から、真良耶は満足に学校に通えなかったが、彼の死後、専門病院に入院して治療することになったため、中学校は休学し、のちに編入して卒業した。今は、玲奈が家庭教師役であり、オンライン塾も利用しているという。
 去年、入院での治療を終え、そのは通院での経過観察となっている。こうした治療期間に、瘢痕はんこんにもなりそうだった外傷が癒えていくのにも似て、〝ガーディアン〟たちは一人ひとり消えていった。真良耶の基本的な人格に統合されていったのだ。ある者は、いつの間にか出現しなくなった。〝タケシ〟は、「オレの出る機会や必要はなくなってきたから、そろそろ眠りにつくか」と言い残し、役目を終えた。「オレたちのことは、真良耶に伝える必要はないからな」と。
 こうした〝ガーディアン〟たちの防衛のおかげか、そしてもちろん、慎重にケアした治療の効果でもあったろうが、真良耶において虐待の記憶は実に薄れたものになっていた。極限の苦痛の連続、絶望的な体験であれば、忘れようとしても忘れられないのが普通であろうが、彼女のそれは奇妙なほどに曖昧なようだ。まさに遠い記憶で、ぼんやりとしている。襲っているのも、、と抽象化されている。それに伴って少女時代の記憶があまり残っていないのも、すべては記憶障害のせいと彼女は認識していた。
「そういえば……」玲奈は、握るハンドルを軽く打つように、人差し指を上下させた。「〝タケシ〟くんと似たようなことを姉も言っていたな。『わたしの写真は残さなくていい。あれば、亭主あのおとこのことも思い出してしまうだろうから』って」
 出がけに手にした小物入れのポーチを持ち出すと、玲奈は、
「わたしの話を信じていいのかどうかは」と二枚の名刺を取り出して、南姉弟に渡した。「この方たちに訊いてください。こちらが入院していた病院で、こちらの担当医の三沢みさわ里子みさわさとこさんは、今でも情報交換しています」
 玲奈は、旧友たちを思い返すような眼差しになった。
「最後に残った〝ガーディアン〟が、〝ミリイ〟なんです。彼女は、真良耶がパニックになりかけた時や、彼女自身が体験したいことと出合った時に現われます。その機会も目に見えて減ってきていて、そろそろサヨナラの時だと〝ミリイ〟は言っています。今日は、見事な珍しい、桜の花びらの嵐を見て表に出てきたのでしょう」
 美希風は言った。
「そして写真を撮り、つい電話にも出た」
 玲奈は上体をひねり、美希風に目を合わせた。
「わたしのほうとしてもお伺いしたいですね。なぜ、〝ミリイ〟の存在を察するなんてことができたのです?」

 すでに姉には伝えてある幾つかの疑問点を、美希風は玲奈に話して聞かせた。
「そうしたわけで、二時半頃にいた、お二人とは筆跡の違う左利きの人物の正体を知らなければならなくなりました」
「なるほど……」
「可能性を探って知恵を絞っているうちに、これは記憶に関係するのではないかと閃いたのです。真良耶さんは、自分でも知らないうちに写真を撮っていることがあるらしい。それに、この姉からの電話に出たことも覚えていないのではないか? 私たちを真良耶さんに引き合わせた時、彼女が電話の件にピンときていないことを覚って玲奈さんは焦り、驚いたのでしょう。まさかこんな時に〝ミリイ〟が出てきていたとは。それで、電話でやり取りした内容を、真良耶さんに齟齬そごなく伝える必要も生じた。思えばあの時は、妙に噛んで含めるような、くどい調子だった」
「言われてみればそのとおりだな」と、美貴子は頷く。
「時々、が出てしまうのでしょうが、玲奈さんの筆跡は、メモ用紙に残っていた筆跡に似せようとしたものなのではないか、とも考えられました。それはなぜなのか……。それに、真良耶さんの子供時代の写真はほとんど残っていないという。そうした諸々から想像すると、朧気おぼろげな可能性が幾筋も浮かび……人形遊び、憑依ひようい……中にはおよそ有り得ないものもあり……、その枝分かれ部分に重要な影響を与える質問事項も浮かんできたのです」
「真良耶はかつて、左利きだったのではないか、ですね」
 玲奈はゆったりとした風情で納得し、口調もゆったりと説明を加えた。
「〝ミリイ〟は、真良耶と同じ生活をしてきていて、経験を重ね、記憶しています。それでも、個別の人格として現われている時は、あの頃のままの〝ミリイ〟なのです。左利きで、筆跡も、成長と共に変化していった真良耶の筆跡以前のものです。少女の頃の真良耶です」
「その筆跡が……」美貴子の半疑問形が、先を促した。
「〝ミリイ〟の筆跡を真良耶が目にしたら、混乱するでしょう。南さんたちと同じように、闖入者を疑って怯えるかもしれない。ですから見られてもいいように、わたしの筆跡を〝ミリイ〟に似せるようにしたのです。でも、そうした事態はほとんど起こりません。〝ミリイ〟が協力してくれているのですから。真良耶の目に留まるように書き残したりすることは、まずありません。でも、今回は……」
「うっかりした、ということではありませんね」美希風は言う。「玲奈さんへの伝言として残されたものだ。玲奈さんはそれを見たら、きれいに破って捨てればよかった。あなたがまさか、外部の人間を連れて来るとは、〝ミリイ〟も予想外だった」
「あっ」と美貴子が声を出す。「それって、あのメモ書きを見せたくなかった相手は、わたしたちというより、真良耶さんだったんだね。玲奈さんがいない時に、あの筆跡でメモを取った者がいることになってしまうから」
「わたしもちょっと慌てました」玲奈は自嘲気味だ。「本来なら、お二人が帰られてから処分すればいいことでした。でも、お二人が背を向けていると気づいた時、今のうちに、と、体が動いてしまいました」彼女は苦笑して付け加えた。「悪いことは出来ませんね」
 美希風、そして編集者である美貴子は、念のために玲奈の話の〈裏を取る〉ことにした。玲奈自身に事情を説明してもらったほうが、情報開示がスムーズに運ぶだろう。
 美希風は病院の大代表に電話をし、当該診療科へとつないでもらい、時間はかかったが三沢医師を呼び出した。医師は、玲奈の話をすべて認めた。最後に彼女は、「真良耶さんの様子はどう?」と尋ね、玲奈は「おかげさまでずっと穏やかです」と答えていた。
 イグニッションキーに手をのばし、玲奈は「では、行きましょうか」と口にしたが、美貴子はそれを止めた。
「ここでけっこうです。真良耶さんのそばにいてあげてください」
 美希風も、ドアの開閉レバーに指をかけていた。
「僕たちはもともと、徒歩で帰るつもりでしたから」

 舞う桜の花びらもグッと数が減り、時々ちらりと見えるだけになった。
 窓の外を眺めながら、外の人と話せて楽しかった真良耶はその高揚にひたっていた。
 でもその高揚は、寂しさと背中合わせだ。交流の時間には終わりがくる。お別れは、すぐにやってきてしまった……。
 もしかして、あの二人のことも忘れてしまうのだろうかと、真良耶には不安も兆す。
 時々体がビクッと震えるような怖い記憶が、昔々むかしむかしの遠い出来事のように薄れているのはありがたいけれど、子供時代に友達と過ごした記憶も消えてしまっている気がして、そこは残念だ。自分にも友達がいた気がする……。なんだろう。誰だろう……。
 もどかしいけれど、無理に思い出さないほうがいいそうだ。
 これからは、記憶に不調が生じることはなくなっていくはずだって、玲奈さんや医師せんせいたちは言っている。辛い時期は終わったよ、って。これからは、幸せの涙を流していこう、って。
 玲奈さんは、こんなことも言っていた。桜の多くは、それまでの冬が寒ければ寒いほど、色の濃い美しい花を咲かせる、って。……ママがそう言っていたって、教えてくれたんだったかな。

「なるほど……」
 歩調も変えずに不意に美希風が面白そうに言ったので、美貴子は驚いた。
「なにが、なるほど?」
「最初にして最後の〝ガーディアン〟、〝ミリイ〟の名前だよ。五十音順に関係していたんだ」
「ほう?」
「あいうえおの表を思い出してごらんよ。ま行、や行、ら行。これの行頭の文字を並べ替えると、まらやだ。そして、それぞれの一文字下の文字を並べると、みりい、になる。ちょっとしたパズル、子供らしい思いつきで自ら命名したんだろう」
「なるほど、だな」
 どこか中空ちゆうくうへ誘う指先のように揺れて散る桜の花びらと、そのはかない香りは、背のほうへと遠ざかった。未舗装の道の両側には、里山と呼ぶには奔放な草木が茂る。
「あの薬師如来坐像の意味も判ったよ」しみじみと美希風が言った。
「意味、だって? どういうこと? 誰にとっての意味?」
「榊玲奈さんにとって。藪を刈って、あの仏像だけは榊家からも見えるようにしてあった。薬師如来って、病気治癒の御利益があって、現世での安らぎを与えるそうだけど、玲奈さんにとってあの仏像は、たぶんそれ以上の意味があったんだ。祈り、話しかけ、身近に感じて感謝をしていた」
 ほんの少しだけ焦れる美貴子は、心底困惑して知りたそうだった。
「仏像の、それ以上の意味って?」
「幼少から苦しめられてきた真良耶さんを護ってきた別人格、〝ガーディアン〟は四人だ。そして、あの薬師如来の胎内仏も四体」
「ああ……!」
「真良耶さんから生まれ、真良耶さんを守護し、そして三人の〝ガーディアン〟は真良耶さんの体内に戻って行った。彼らは体内にいるのさ。体内の小仏と一体になって薬師如来はいる。……玲奈さんは、日々感謝して向き合っているんじゃないか……」
 何気ない口調だったが、美希風の声はかすかに震えたかもしれない。
 だからというわけでもないだろうが、の後に続けたのは姉のほうだった。
「そして四人めの〝ガーディアン〟も、間もなく胎内仏へと完全に還る……」
 姉弟は共に想像したかもしれない。そうなってから、あの仏像を毎日見つめる榊玲奈の眼差しを。
「デスク」
 と、美希風は口調も新たに問いかけた。
「興味深いけど余人には容易に窺い知れない、多重人格を巡る女性たちの姿。記事にはしないでしょうね?」
「しないさ」
 三歩、四歩と進んでから、美貴子は微苦笑する気配で言葉を足した。
「わたしが電話で話したのは〝ミリイ〟だったのだろう? わたしは彼女に言ったんだ、取材は終わった、とね。あれから先に、彼女とのやり取りはない。記者の仕事は終わっていた」
「うん」美希風も言う。「オフレコもいいとこだね」
 記者として信じてもらった以上、職業倫理として……などとしゃべりながら、二人は緑に包まれた道を下って行った。

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