1-2-3 ヴァイとセレナ2
神殿の中は、外の砂漠とはまるで別世界のようだった。ひんやりとした空気が漂い、壁には蠍を模した装飾が彫り込まれている。まるで神殿そのものが生きているかのように、不気味な雰囲気が漂っていた。
神殿の中、二人の息遣いが静寂を破る中、天蠍の弓は祭壇の上に輝いていた。その姿を見た瞬間、セレナとヴァイは一瞬だけ視線を交わしたが、次の瞬間には既にその視線は敵意に変わっていた。
「これが……天蠍の弓か……」
セレナが呟きながら、一歩前に出た。その微かな動きが、まるで引き金のように戦いの火蓋を切った。
ヴァイは何も言わず、無言のまま地面に手を伸ばした。その瞬間、周囲の砂が静かに震え始めた。彼女は森の守護者の一族。自然と共に生き、自然を味方につけることに長けた存在だ。今、その力が砂漠の中でも発揮されようとしていた。
「ヴァイ!」
セレナが叫ぶや否や、風の塊が彼女を包み込んだ。風の加護を纏い、素早く動き出したセレナは、風のようにヴァイに向かって突進する。速さと鋭さが彼女の強みだ。
だが、ヴァイは冷静だった。砂が彼女の周囲に舞い上がり、瞬時に防御の壁を作り出す。森の中で学んだ自然魔法の応用だ。彼女は森の植物や動物と共に育ち、その知恵を活かして周囲の環境を武器に変える術を心得ていた。今回は森ではなく砂漠だが、ヴァイは砂すらも自分の味方に変えていた。
セレナの風の刃が砂の壁にぶつかり、かすかに砂を散らすが、ヴァイの防御を突破することはできない。
「ここでは自然が私の味方よ、セレナ。砂も風も、すべてが私と共にある」
ヴァイの声は静かだったが、その言葉に力強さがあった。砂の動きが次第に激しくなり、ヴァイの足元から大地の力が感じられる。まるで彼女自身が砂漠の一部になったかのようだった。
「砂だけじゃ私には勝てないわ!」
セレナは笑みを浮かべ、再び風を纏って駆け出した。風の速さで動くセレナは、瞬く間にヴァイの背後に回り込む。そして、風の刃を放つ瞬間――
「今だ!」
ヴァイが手をかざすと、突如として砂が渦を巻き、セレナの足元を捉えた。まるで砂そのものが生きているかのように、セレナの動きを封じ込めようとする。
「くっ……!」
セレナは必死に風の力を使って砂の渦から逃れようとするが、その砂は驚くほど強く、彼女の足を絡め取って離さない。
「砂漠は私の庭。あなたの風も、砂の中では思うようには動けないわよ」
ヴァイは少しずつセレナに近づきながら、砂を巧みに操っていた。砂の渦がセレナの周りで広がり、まるで彼女を飲み込もうとするかのように迫っていた。
しかし、セレナは負けなかった。
「そんなもの、吹き飛ばす!」
セレナが叫び、風の力を全開に解き放った。彼女の周りに強烈な突風が発生し、砂の渦を一瞬で吹き飛ばした。砂は再び地面に戻り、セレナは解放された。
その瞬間、セレナはヴァイに向かって一気に突進した。風の刃が鋭く輝き、ヴァイの防御を打ち破ろうとする。
だが、ヴァイは冷静だった。彼女は再び自然の力に呼びかけ、神殿の床に手をついた。その瞬間、床から緑の蔦が一斉に伸び上がり、セレナの動きを止めた。砂漠に似つかわしくない、植物の力だ。
「これが、私の力よ」
ヴァイの声は冷静だが、その目には決意が宿っていた。彼女はただ自然の守護者であるだけではなく、この戦いで自らの力を証明し、次期女王の座を手に入れる覚悟をしていた。
蔦に絡め取られたセレナは、必死に風の力でそれを断ち切ろうとするが、ヴァイの操る蔦は次々に再生し、彼女を締め付けてくる。
「このままじゃ……負ける!」
セレナは焦りながらも、必死に風の力を強めた。だが、その瞬間、ヴァイがさらに追い討ちをかけた。蔦がさらに強く締まり、セレナの体を締め付ける。
しかし、セレナは諦めなかった。彼女は風の精霊に呼びかけ、その力を解放する。
「風よ、私に力を!」
セレナの体が再び風に包まれ、蔦を引き裂いた。彼女の体はまるで風そのものになり、ヴァイの攻撃を全てかわしていく。
二人の戦いはますます激しさを増し、互いに一歩も譲らない。しかし、どちらが優勢かは全く分からない状態だった。セレナの風の速さとヴァイの自然魔法の巧みさがぶつかり合い、激しい音が神殿に響き渡る。
最終的に、二人は同時に息を切らし、再び距離を取った。決着はまだつかず、天蠍の弓は祭壇の上で静かに輝いていた。
「終わらせるつもりよ、ヴァイ!」
セレナが決意を新たにし、再び風の力を呼び起こそうとしたその瞬間――ヴァイもまた、自然の力を最大限に引き出そうとしていた。
戦いの行方はまだ分からない。しかし、二人はそれぞれの信念を胸に、この決闘を続ける覚悟をしていた。
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