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[機材レビュー]Bogner Alchemist 112V

2021年の大晦日は少し不思議な一日だった。コロナの感染状況も落ち着いていたので、二軒ほどお世話になっているお店に挨拶に行くことにした。

1軒目のバーで隣の席になった初対面の方が、偶然にも趣味でエレキギターを演奏される方で、短い時間だったが機材の話で盛り上がった。真空管アンプが欲しいという話をしつつ、他にも挨拶に回りたい場所があったのでお店を後にした。

2軒目のバーに移動し、入店しようとしたところなぜか入口のドアの横にBognerのアンプが置かれているのに気がついた。どうやらマスターが昔使っていたもので、処分しようとしてとりあえずお店まで持ってきたものらしい。欲しかったらタダであげる、とのことだったのでありがたく頂戴することになった。

10年以上前のアンプで真空管も交換した方が良いと聞いていたので、使い始める前にメンテナンスに出すことにした。ネットで検索すると同型のアンプの修理経験のある工房が見つかったので、そこにお願いすることにした。真空管の交換に加えて、状態のチェック、不具合(ノイズ)の修理・基盤の掃除もやってもらった。すでに製造が終了しているアンプで、後継機種もないということで部品の調達に難があるとのことだったが、1月末には無事問題なく使える状態にしていただき自宅に戻ってきた。

Bognerというとハイゲインアンプのイメージしかなかったのでクリーンチャンネルには全然期待していなかったのだが、戻ってきて音出しをしてみてクリーンチャンネルのサウンドに驚いた。Fenderの真空管アンプのクリーンにずっと憧れがあり、TUBEMANを使ったりNutubeを試したりしてきたが、今までで一番期待していた音に近いクリーンだった。

録音をしてみて確信したが、やはりクリーントーンの気持ちよさにはスピーカーの性能(大きさ)もかなり影響が大きそうで、残念ながら実際にアンプを弾いている時の気持ちよさは録音で伝えるのはなかなか難しそうだ。このアンプは出力を20Wか40Wに切り替えて使用できるのだが、20Wでもかなりの音量が出てしまうため、自分は-38dBのアッテネーターを挟んで使用している。

このアンプにはデジタルディレイとデジタルリバーブが搭載されている。そのせいで「デジタル臭い」という評価がされることもあるようだが、自分の場合はあまりそのような印象は受けなかった。

ハイゲインのサウンドは一言で表すなら「ジューシー」だ。一時期B'zの松本さんがBognerのEcstasyを使っていたが、やはり同じメーカーのアンプというだけあってかなり近い印象のサウンドだ。ブースタースイッチも付いているのでこのアンプだけで十分な量の歪みを得ることができる。

自宅の電源でここまでゲインをあげるとノイズが凄くなるのではないかと思ったが、思ったほどノイズは酷くない。とはいえ、録音したものをヘッドホンで聴くとやはり多少気になるレベルでのノイズが入ってしまっている。

サウンドについては予想以上に大満足のアンプだが、半年ほど使っていて気になる点もいくつかある。

まず、コンディションが安定しないこと。真空管だからなのか、古いからなのか理由がわからないが、日によって認知できる程度にサウンドが変化したり、ノイズが現れることがある。このアンプと対極にあるようなデジタルアンプであるYamahaのTHRではそのような現象は起きないので、思い込みではないと思う。ただこれについては、不思議なことにアッテネーターを使うようになってから大分安定してきたように思う。小音量で真空管に負荷をかけない状態での使用だと安定しないのかもしれないが詳しい原因は不明だ。

定期的に対策をする(といってもツマミを回すだけ)ようになってから頻度は減ったが、ボリュームなどのポット類には操作時にガリや変なノイズが発生することがある。工房でみていただいたところ部品の劣化が原因のようだが、残念ながらもう生産終了して時間が経つ海外製のアンプなので、交換用の互換性のあるパーツを調達するのが難しいらしく、手入れをしながら使っていくしかなさそうだ。交換の効かないポット類やコンデンサー類などの寿命がこのアンプの寿命になってしまいそうだ。

そして、そこそこお金がかかっている。ギターと違って素人が安易にいじるのは危険なので、メンテナンスは工房にお願いすることになるのでそこには多少のお金がかかる。また自宅で弾くには音量が大きすぎるので音を下げるためのアッテネーターにもお金がかかる。クラシックカーみたいだ。

元々真空管アンプというものは気を使って取り扱わなければいけないものではあるが、上記事情があるため使用には特に注意を払う必要がある。逆にいうと、以前から使用しているYamahaのTHRに搭載されている最新の技術がいかに素晴らしいものなのかも、このBognerを使い始めてから再認識するようになった。スイッチを入れたらすぐに演奏を始められるし、ワイヤレストランシーバーはギターから抜けたら自動的に信号がOFFになるようになっているので抜き差しの際にアンプ側のボリュームを絞る必要がない。本体にチューナーも搭載されているし、BluetoothでiPhoneからバッキングトラックを流すこともできるし、プリセットも一発で呼び出すことができる。このBognerの真空管アンプサウンドに、これらの最新機能が備わっていたら最強なのになと日々考えている。

そんな不便な点も色々あるが、やはり真空管アンプはトランジスタアンプやデジタルアンプには変え難い独特な魅力がある。このアンプを入手したことで、スタジオに行かなくても気軽に本物の真空管のサウンドを楽しめるようになったのはとても嬉しく、QOLが上がった。


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