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[機材レビュー]Greco EG-95 - Ornettsの血筋を引くGreco

20年前にレスポールタイプのギターが欲しくなり探していた時期があった。その時は最終的にGibsonのLes Paul Classicを購入したのだが、最後まで検討していたギターが2本あった。一つは当時良くお世話になっていたTaharaという楽器店の店員さんにおすすめされていたEdwardsのSeymour Duncanが載ったレスポールタイプで、もう一つがOrnettsのレスポールタイプだった。

OrnettsはかつてValley ArtsやMusicmanなどのブランドのギターを製造していた朝日木工が製造・販売していたブランドで、当時雑誌や周りでの評判がやたら良かったのを覚えている。その時はお茶の水でも実機に出会えなかったこともあり購入することはなかったのだが、最後までずっと気になっていたギターだった。Ornettsブランドはその後すぐに消滅してしまったのだが、ネットでの評判を見ると今でもOrnettsのギターは高い評価を受けているようで、中古価格もそこそこ良い値段をつけている。

そんなOrnettsの血筋を引くギターは、実は2010年代にも引き続き製造されていた。2010年代に販売されていたGrecoのEG-95は、ヘッドのシェイプやトラスロッドホイールナットを見ればわかるように、Grecoブランドではあるものの中身は朝日木工が製造していたOrnettsそのものである。

Grecoのレスポールタイプといえば、80年代にGibsonのヴィンテージを徹底的にコピーしたヴィンテージ指向のミントコレクションやスーパーリアルシリーズが有名だが、2010年代に販売されていたこのEG-95はある意味その対極をいくようなモダンで合理的なギターだ。

最も特徴的なのがこのトラスロッドのホイールナットだろう。普通のレスポールはヘッド側にトラスロッドのアジャスト用ナットがあるが、このギターはセットネックのギターにしては珍しくボディ側21フレットの位置にホイールナットがついている。これによって、ハイ起きが起こりにくく同時にヘッド部分の強度を稼ぐことができるというメリットがあるらしい。実際、自分が入手した個体もネックのコンディションは抜群に良く、10年前のギターとは思えないほどどのポジションでもストレスなく綺麗に音が響く。なお、ネックはかなり薄めの仕上げになっている。

トップの杢目はベニアで、塗装はポリ塗装。経年変化を楽しめないという点では少し味気ないような気もするが、合理的で経済的ではある。バインディングなどの処理も非常に丁寧で、木工的には文句のつけようがない素晴らしい出来栄えだと思う。杢目は個体によって異なるが、この個体に関しては少し杢目が出過ぎなのではないかとも思う。

バックとネックの塗装は特徴的だ。マホガニーの導管の凸凹がわかるほどに極端に薄い塗装になっている。独特に触り心地なので、入手してからしばらくの間は少し違和感があったが、すぐに慣れた。

薄い塗装のせいか、ボディはやたら軽い。ボディを叩いてみると箇所によって微妙に音の響き方は違うが、チェンバー加工をされているのかどうかは情報がなく不明だ。レスポールといえばなんといっても重くて長時間弾いていると足腰が痛くなるのが難点だが、その点このギターは割と軽いので身体的ストレスが少ないのも良い。重さと低音の出具合には多少の相関があるようで、レスポールタイプにしては若干音の重心が高めにあるように感じる。

自分が購入した個体は、購入時点でピックアップと電装系が交換されていたため、残念ながらオリジナルのサウンドについては知ることができなかった。そのためオリジナルについてのレビューはできないが、交換後のサウンドはバランスが取れてまとまったサウンドでとても良い。ネックの精度・コンディションが良くボディも軽く演奏性が非常に高いことで、プレイにも余裕が生まれる。「王道的なレスポール」ではないが、もっと評価されるべき実に良いギターだと思う。

残念ながら、このGrecoのシリーズは既に製造が終了してしまっており現在Grecoからレスポールタイプのギターは販売されていない。朝日木工はその後神田商会岐阜事業所としてZemaitisの製造を行なっている。Zemaitisもある意味レスポール系のギターではあるので、ある意味このギターやOrnettsの血筋を引くギターではあるかもしれないが、やはりこのEG-95を弾いているといつかまたGrecoが同じようなレスポールタイプのギターを復活させてくれることを願うばかりである。

しかし、なぜOrnettsブランドはあれだけ当時評判が良かったのに短命に終わってしまったのだろうか。

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