腹部外傷 P739

A 疫学

・外傷のうち,腹部:約9%

・刺創などの穿通性外傷:5〜10%

・肝臓の鈍的外傷では死亡率が高い
B 受傷機転
1 鈍的外傷

・腹部の外傷の大半は鈍的外傷

・肝臓は重たく,その一部のみが腹壁に固定されているため,剪断力によって断裂しやすい

・背面からの墜落など,背部への衝撃:膵臓や脾臓,腎臓などが損傷を受けやすい

・圧迫による外傷:重量物やハンドル,シートベルトなどによって腹部が強く圧迫されて起こる

・腹部の臓器が脊柱に押しつけられることにより:膵臓や肝臓,小腸・腸間膜,腹部大動脈の損傷

・内圧伝搬:消化管や膀胱,横隔膜などの損傷をきたす

2 穿通性外傷

・穿通性外傷
■刺創,■銃創,■杙創,などがある

・穿通性外傷による重症度成傷器の種類や大きさ,腹部臓器や大血管への穿通の程度に依存する

・肝臓などの実質臓器や大血管を穿通:循環血液量減少性ショックをきたす

・下胸部や上腹部を穿通した場合:胸郭内腹部の臓器と,横隔膜や肺,心臓などの胸腔・縦隔内臓器のいずれもが損傷

・腹部刺創における代表的な損傷臓器:肝臓,小腸(および腸間膜),横隔膜,大腸など

C 病態
1 出血

・腹部外傷の最大の問題は出血

・急速に循環血液量減少性ショックに至る臓器損傷
■脾臓,肝臓など鈍的外傷では腹腔内に多量の血液が貯留
・腹腔内出血
■腹痛や腹膜刺激徴候を伴うことが多いが,症状がはっきりしないこともある
■バイタルサインに異常をきたしていない状態での腹腔内出血の判断は容易ではない

・腸間膜損傷に伴う腹腔内出血:出血の進行は比較的緩やか

・腎臓や腹部大動脈など,後腹膜臓器の損傷に伴う出血
■後腹膜血腫の形をとることが多い
■とくに少量の出血が持続する場合には,腹部膨満などの所見に乏しく,初療の際に見落とされて「防ぎ得た外傷死」の原因となり得る
2 消化管損傷

・腹部外傷にみられる特徴的な損傷:消化管破裂(もしくは穿孔)
■腹部を圧迫されたときに脊椎との間で挟まれることによる腸管の挫滅・穿孔,または腸管内圧の急激な上昇による破裂をきたす

・漏れ出した消化管内容物によって腹膜に化学刺激と炎症(腹膜炎)をもたらす

・時間経過とともに腹膜刺激徴候(反跳痛,筋性防御など)が進行し,さらに発熱や腸管麻痺をきたす

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