その他の環境障害 P833

A 高山病

・高山病:高所に達した際に生じる身体機能の異常

・高山病の本態
■大気中の酸素分圧低下による低酸素血症
■数時間〜数日にかけて徐々に生じる低酸素血症を生理的に代償できなくなって発症する

・急性高山病:低地居住者が高所に登って発症

1 発症機序と病態生理

・大気中の酸素比率(濃度):0.21(21%)

・高所では大気圧そのものが低下するため,大気中の酸素分圧も低下。酸素分圧の低下に伴い:動脈血酸素分圧(PaO2)および経皮的脈血酸素飽和度(SpO2)も低下

・標高2,500m:PaO2が60mmHg未満(SpO290%未満)
■・標高2,500m上の高所では身体に何らかの生理的変調を生じる

・富士山(3,776m)以上の標高:PaO2は常に60mmHg以下
・エベレスト山頂(8,848m):PaO2は,標高0mにおけるPaO2のおよそ30%まで低下

①急性高山病と高地脳浮腫

・高山病の発症と悪化の関与
■順応しないまま高度を上げる無理な登山計画
■高度上昇に伴う気温低下
■発汗や過呼吸による脱水
■そのほか疲労
■睡眠不足など

・2,500m以上の高所へ一気に登ると,25%の者が急性高山病を発症
・3,500m以上へ一気に登ると,ほとんどの者が急性高山病を発症:うち10%が重症化

・脳浮腫が生じ急性高山病を発症の機序
■低酸素血症および高二酸化炭素血症はいずれも脳血管を拡張させて脳血流量を増加させる
■体液は血管内から間質に移動して貯留する
■水・電解質代謝ホルモンの分泌異常(アルドステロン分泌の亢進,心房性ナトリウム利尿ペプチド分泌の低下など)によって尿量が減少
■これらの結果,脳浮腫が生じて急性高山病を発症する
・急性高山病
■急性高山病の症状のうち,頭痛は頻度が高く重要な所見
■急性高山病は,新たな高度に達してから数時間以降に出現し,2〜3日でピークとなり,
■高地脳浮腫や高地肺水腫を発症しなければ5日程度で自然に回復する
■さらに頭蓋内圧が亢進すると,重症化して高地脳浮腫を生じる

急性高山病,高地脳浮腫,高地肺水腫の判断基準

出典:へるす出版 救急救命士標準テキスト 改訂第10版
https://www.herusu-shuppan.co.jp/997-2/

②高地肺水腫

・急性高山病が重症化:高地肺水腫を生じる場合もある

・高地肺水腫
■低酸素血症のため,肺動脈が収縮して肺高血圧をきたす
■肺胞毛細血管の透過性亢進によって,血漿成分や赤血球が肺胞内へ漏れ出して非心原性肺水腫を生じる
■症候:ピンク色の泡沫様喀痰や,起坐呼吸,頸静脈怒張,発熱などを生じることもある

・高地脳浮腫および高地肺水腫は重症であり,死亡する危険がある

2 観察と判断

・急性高山病の判断は,医療機器のない山中では自覚症状に頼る部分が大きいが,特殊な環境での発症のため難しくない

・登山中に体調変化を生じる原因:熱中症や偶発性低体温症,外傷,虚血性心疾患,脳血管障害,持病の悪化などがある

・急性高山病と高地脳浮腫の病態は連続的なので,この2つを明確に判別できない場合もある

・慢性疾患をもつ場合や高齢者の登山は高山病のリスクが高く,繰り返し高山病を発症する傾向がある

3 処置と医療機関選定

・軽症の場合:症状が改善するまで高度を上げずに保温を行い,脱水に注意して十分な安静と休息を与える

・症状が悪化す場合,高地肺水腫,または高地脳浮腫を生じた場合
■下山をはじめ酸素吸入を行う
■自力での下山が不可能な場合:ヘリコプターや救助隊による搬送を考慮

・高地肺水腫や高地脳浮腫を生じた傷病者の搬送先医療機関:救命救急センターなどの三次救急医療機関,あるいはこれに準じる二次救急医療機関および地域基幹病院を選定

B 減圧障害

・減圧障害
■潜函・潜水作業,スキューバダイビングなどの加圧された環境から,急速に減圧されることによって発生d
■潜函病,潜水病,ケーソン病などと呼ばれる

・減圧障害の病型
■比較的軽症のⅠ型減圧症
■比較的重症のⅡ型減圧症
■重篤化しやすい動脈ガス塞栓症

減圧障害の病型と症状および所見

出典:へるす出版 救急救命士標準テキスト 改訂第10版
https://www.herusu-shuppan.co.jp/997-2/

1 発症機序と病態生理

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