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太田モアレの「鉄風」

8年前、2015年にFacebookにこのような文章を書いていた。

「出会う力について」

僕に影響を与えるマンガや映画との出会いは、
必ず最適なタイミングで、
ふさわしいプロセスで出会えるように、
プログラムされているようだ。
今回5年くらいかけて「出会った」のは、
太田モアレの「鉄風」というマンガである。
それは、太田モアレという作者も、
「鉄風」という作品も、
まったく知らない状態で出会い、
一時的に別離期間があり、
そして意外な形で再会するという、
ドラマチックなシナリオであった。
この「鉄風」という作品は、2008年に、
「good!アフタヌーン」という雑誌で連載が始まり、
途中二度の休載と連載再開を経て、
2015年に完結しており、単行本は全8巻である。

僕は2010年頃、
福岡の西新のゲオのコミックレンタルの棚で、
この「鉄風」と出会った。
ゲオのコミックレンタルの棚には、
何万冊というマンガの本が並んでいる。
まず、なぜその中から「鉄風」を選んだのか、
その理由がまったくわからない。

その頃「鉄風」は3巻くらいまで出ていたのだが、
店頭で僕が得られる情報といえば、
「鉄風」というタイトルと、
太田モアレという作者名、
そして表紙に書かれている絵くらいしかない。
それらのどれかが、
僕の心に引っかかって、
何万冊というマンガの中から、
僕はこのマンガを借りたはずなのだが、
僕がそのマンガのどこに引っかかったのか、
それが自分でもわからないのである。

「鉄風」は、女子高校生が、
総合格闘技をやるというマンガなのだが、
僕は特に格闘技が好きというわけでもない。
そもそも格闘技のマンガだということも、
借りて帰って読んでからわかったのである。
ただなんとなくなのである。

太田モアレという作者名、
「鉄風」という題名、そして絵柄。
これらが何かの作用をもたらし、
僕は棚からその本を取って、
お金を払って借りて帰ったのである。
そして読んでみたら面白かった。
やっぱりそうだったかと思った。
例の「出会い」だなと思ったのである。

それで、たまにゲオに行ったら、
「あのマンガの続き出てるかな」と探した。
といっても、僕はそんなにひんぱんに、
ゲオに通っているわけではない。
数カ月に一度行くくらいである。
それでも「鉄風」の新刊を見つけたら、
借りて読んでいた。
そうやって5巻くらいまでは読んでいた。
しかし僕は「鉄風」という題名も、
太田モアレという作者名も覚えてはいなかった。

「ゲオのあのあたりの棚にあるあのマンガ、
続きが出てるかな?」という感じで、
見つけたら借りて読んでいたのである。
しかしある時期から続きが出なくなった。
僕も何回か探したが見つからず、
そうしているうちにゲオのマンガの棚の移動があって、
僕は作者名も題名も覚えていなかったから、
どこを探せばいいのかわからなくなってしまった。
「格闘少女」という題名のマンガもあって、
毎回「このマンガだったっけ?」と、
手に取って見ていたのだが、それは違っていた。

ただ、僕が気に入るマンガは、
ちょっとマイナーな感じのものが多く、
人気がなくて連載が中断するようなものも少なくないので、
あのマンガもそうやって消えていったのかもなと思っていた。
それから2年くらい経った今月、
息子のハルが、あるマンガの本を貸してくれた。

それは「コミティア 30th クロニクル」という、
分厚い3冊セットのマンガで、
コミティアという同人誌の販売イベントの30周年を記念して、
歴代の秀作をセレクトした集大成の本だった。
その3冊には、「団地ともお」の小田扉、
「夕凪の街 桜の国」のこうの史代、
「リストランテ・パラディーゾ」のオノ・ナツメなど、
僕でも知っているようなマンガ家の、
同人誌時代の作品も載っていた。

その中に太田モアレの作品も載っていたのだが、
それがなかなかいい作品で、
なんとなく絵柄に見覚えがあり、
そして「あれ、この太田モアレっていう作者、
なんとなく名前に憶えがあるぞ」と思ったのである。
それでウィキペデイアで調べてみたら、
太田モアレが「鉄風」というマンガを書いていて、
「鉄風」は二度の休載を経て、
今年連載が完結していたということを知った。

そういえばあのマンガ「鉄風」という題名だったな、
と思い出し、無性に続きが読みたくなって、
ブックオフに探しに行ったら1巻と2巻だけが見つかった。
買って帰って読み返したら、やはりいいマンガで、
あとの3巻から8巻まではアマゾンで取り寄せて読んだ。

僕はこうやって、いいマンガを読むことにだけは、
お金も時間も惜しまない。何よりも優先する。
そしていいマンガはいつか必ず、
僕と出会うようになっていて、
ただそのタイミングいつなのか、
早いのか遅いのかというだけで、
しかもそのタイミングは、
いつでも僕にとってベストのタイミングなのである。

僕はそういう「出会う力」を持っている。
映画についても同じであり、
世の中にはいい映画がたくさんある、
時間を惜しんで見ないと、
取り残されてしまう、
などと焦ることなんてまったくないのである。

とは言ってもこの「出会う力」は、
それほど特別な力ではなく、
誰もが必要なものと、必要な時に、
出会うようにはなっているのだろうと思っている。

その後太田モアレは希代の傑作「寄生獣」の
アナザーストーリーのようなマンガを書いたのだが、
このマンガは元の「寄生獣」があまりに偉大だったため、
ちょっと中途半端な感じで終了した。


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