別冊・医学のあゆみ p63-68を読んで

 医薬品を処方する立場として、薬価の改定や薬剤販売終了についてはアナウンスを受けることがある。しかし、薬剤の価格の決め方や現状の問題点について体系立てた理解はできずにいる。著者は薬剤費上昇抑制とイノベーション推進の両立を進めるべく、現状の薬剤開発・値段設定・流通について説明し、現状の問題点とその解決策について述べている。

・日本と欧米諸国での保険償還の違い
薬剤の値段を決定するのは、欧米は製薬企業で日本は国である。国が決めることで承認から保険償還までは短期間で、承認薬のほぼすべてが保険適応となる。欧米の場合、企業が値段を決めることで、保険償還での負担額について国と企業が交渉することが多く、承認から保険償還までの期間がかかり、自己負担が高額な場合は患者が処方箋通りに服用しない場合もある。

・薬価の決まり方
①イノベーションの評価
 既存の類似薬と安全性や有効性を評価し、類似薬にの薬価に加算をつける。2019年からはQALY(quality adjusted life year)質調整生存率/ICER(incremental cost-effectiveness ratio)増分費用効果比を導入し補完している。
②市場原理の活用
 医療機関・保険薬局の購入価格に基づいた薬価引き下げを行っている。
革新性の低い薬剤は、同等の安全性・有効性がある薬剤より納入価格を低くすることで医療機関・保険薬局の購入意欲を高める。それにより、薬価が引き下がり薬剤費の上昇が抑制される。
③医療保険財政の持続性向上を目的とした調整メカニズム
 新薬の薬価決定された際に、既存の薬剤の薬価を引き下げる。適応拡大で市場規模が当初の予想より大幅に拡大する場合は市場拡大再算定ルールにより、薬価を引き下げるものである。しかし、開発のイノベーションを阻害しかねないため、ルールの適応となる医薬品は限定されている。

現在医薬品の市場規模は10兆円、市場は伸びていく中で国民皆保険の維持とイノベーション推進の両立が求められている。

①ドラッグラグ・ロスの解消
1つの薬剤開発から承認まで2010年では3年かかっておりまた承認が遅れろことをドラッグラグ、他国では承認されるも本邦での承認が遅れるドラッグロスがある。どのような薬剤にこれらの傾向があるか分析を進めることで、効果的な対策につなげられると述べている。

②企業ならびに医療保険財政の視点からの予見性の向上
 企業視点で、今後の市場規模・適応の拡大を予見し開発イノベーションのインセンティブ向上につなげる。そうして費用対効果の高いイノベーションの推進につながるとしている。

③賢い選択/節約の促進
 減薬を含む適正処方、後発医薬品に切り替えることで薬剤費や医療費と患者の自己負担の軽減につなげるべきとしている。

④高額で潜在的な患者数の多い医薬品への対応
 投薬患者の適正な絞り込みによる医療保険財政の維持と患者負担のの軽減をすべきとしている。

⑤流通構造改革:毎年/中間年改定への対応
 製薬会社・卸業者間の仕切り価が医療機関の納入価に比べ低く、また薬価は納入価の加重平均で決まる。そのため薬価の低下により製薬会社の収益が圧迫されている。この薬価差益と医療保険財政のひっ迫を改善すべく、流通構造の是正が求められている。

国民皆保険の維持とイノベーション推進の両立をすべく、薬価の制度、保険償還について理解を深め対応を求められていると述べている。

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