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不思議系後輩アルノちゃん!第一話「先輩と中西さん」

4月末 第二校舎4階 図書室


「後輩の子、どんな子かな…」


閑静とした早朝の図書室で、僕は不安な気持ちを抱えながら呟く。



去年に引き続き図書委員になった僕は、慣れた手つきで仕事をしつつ相方のことを考えていた。


図書委員の相方は常に固定されており、基本的に一年生と二年生が組むことになっている。


本来はもっと前の段階でわかるはずだったのだが、バイト先のクソッタレ店長のミスにより委員会を欠席せざるを得なかったのだ。


そのため、僕は今一年間共にやっていく委員会の相方が分からないという不安と、時間外労働による眠気に苛まれている。


「…ふう」


朝の業務が一段落する。早朝にわざわざ図書室に来るような物好きはいないため、相方が来るまで一眠りしようとカウンターに顔を伏せる。


その時だった。


カワイイ


「あの、ちょっといいですか?」



・・・。



かわいっ。


…って待て待て。初対面の女の子に抱く感想ではないぞ、井上〇〇よ。


〇「ええと…何でしょう?」


「その…先輩は、先輩ですか?」


どんな質問だよ。


〇「君が一年ならそうですけど…」


「おお〜」


だからどういう反応だよ。


「はじめまして、1年3組の中西アルノです。先輩と図書委員の仕事をすることになりました」


〇「あぁ…君が」


『アルノ』という浮世離れした名前や美貌とは裏腹に、上品な言葉遣いで丁寧に頭を下げる。随分育ちのいい子だな。


関心しながら見ていると、彼女ははてなマークを浮かべたような表情でこちらを見る。掴み所のない子だな。


〇「先生から既に聞いてるかもしれないけど、僕は井上〇〇。よろしくね」


ア「よろしくお願いします」



「〇〇先輩」



〇「…え?」


いきなり名前呼び?


僕の困惑を感じ取ったのか、中西さんは続けて、


ア「あ、昨日男の先輩と一緒に仕事をするって言ったらクラスメイトの子達が、


『女に飢えた男の人は下の名前で呼ぶと喜ぶ』


って教えてくれたので」


〇「なんちゅうクラスメイトだよ。っていうかなんで僕が女に飢えてることになってるの?」


ア「『図書委員やるような男は全員女に飢えてる』って言ってました」


〇「1年3組の女子は一度全国の図書委員に説教してもらった方がいいな」


ア「じゃあ〇〇先輩は、女性に飢えてないんです?」



・・・。


〇「…それはそれとして。名前呼びをいきなりして勘違いさせてしまうこともあるから、これからはやっちゃダメだよ」


ア「…先輩は、私に名前で呼ばれて嫌でしたか?」


しゅん。と効果音が聞こえてきそうだ。そういう態度を取られると弱い。


てかかわいいなコイツ。


〇「いや…別に嫌ってわけじゃ」


ア「じゃあ先輩だけは〇〇先輩って呼びます。それなら良いですか?」


なんでそうなる?


〇「あ、うん…」


論理の錬金術師かこの子は。断れなかった僕も僕だが。


…でも、なんでだろうな。


〇「…よし中西さん。まずは一通り仕事をやってみようか」


彼女に対して、嫌な感じはしなかった。


ア「はい、〇〇先輩」


ほっとけないというか、なんというか…。



この気持ちは、一体なんなのだろう。


____________________


仕事を一通り教えてみてわかったことだが、中西さんは仕事覚えが凄く早いわけではない。


変わった言葉遣いをすることもある…というかそれがほとんどだし、鈍臭くて不安になることもある。


でも、不快には思えなかった。



それどころか、心が豊かになる感覚すら覚える。



ア「図書委員の仕事、教えてくれてありがとうございました」



まだ会ったばかりで。



〇「あ、うん」



幼い頃の記憶や、



〇「あ、中西さん」



今夜食べたいもの。



〇「何か分からないことがあったら、なんでも聞いていいからね」



何もかも違って、お互いに何も分からないはずなのに…。


ずっと前から一緒にいたような気がしてくる。



ア「なんでも…?」



たった数分間のやり取りで。



ア「何でも聞いていいんですか?〇〇先輩」



僕はなぜか、彼女に惹かれていた。


____________________


3日後


ア「〇〇先輩、ちょっといいですか?」


そしてこれ以降、彼女は本当になんでも聞いてくるようになった。


どうやら彼女は裕福な家庭で箱入り娘として大切に育てられたらしく、非常に世間知らずである。


〇「ああ…いいよ。今日はバイトないし。で、どうしたの?」



…そして厄介なことに、



ア「〇〇先輩、



彼女は…



「童貞って、なんですか?」



好奇心の塊だったのだ。



続く。

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