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水中都市

だしぬけに震えがきて、聞こえぬ音を鳴らして
バーミリオンの指をした暁を
頭上の水面のむこうに見ながら
私の身体は水中都市にむかって
まっすぐに沈んでいった
千二百年以上前に廃棄された
膨大な数の客船が
人工の磯として
無数の命をかかえこんでいた
私の口腔から
最後のあぶくがボコリともれだす
金属の表面のように
まぶしいばかりに明るい勿忘草色から
生によって充満しすぎるあまりかえって死を印象づけるような
瑠璃紺へと
グラデーションしていく景色のなかを
するすると沈んでいく
私の体がもたもたとした動きで
遠いクジラの梔色した歌にあわせて
踊る
いや、あれは苦しみもがいているのか?
あるいは
舞踏とは
そうとしか表現しえない苦しみ
だったか?
隣にいない人が歌にあわせて
祈りでもしたか
そのとき、だ
遙か彼方の水面から
信じがたい量の宝石が
すばらしい速度で落下してくるのが見えた
私の方をめがけて
満天の水のなかで
光の粒の軍勢が
三次元を満たして
キラ、キラ、キラ、と

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