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夏の停止線

南の海からよく熱せられた
大気がまともに流れ込んできて
私は息を吸い込むこともできないから
どうにか涼しいところはないかと仰向きになって
一瞬間をぬすんで息を出し入れしたとき
小鳥が中空でとどまっていることに気づいた
ひろげた和紙のような羽を
夏の重量にはりつめさせて

あたりをみると木々もそよぎかける寸前で
どれもピタリと静止していた
視界の限り陰影のひとつも見当たらなかった

夏の日には
こういう瞬間が必ずある
充実と疲労とがバランスする点
生の絶頂が腐敗そのものであるような時間
おそらくは南頂のとき
このときばかりは誰も息をしない

次の瞬間
全身から汗がふきだして
こめかみに滴の流れる感触がして
小鳥のさえずりが聞こえたかと思い
そちらを見るも、すでに中空の鳥はどこかに失せていた
私はふたたび歩きはじめた
おそらくあの時間の凍結現象は惑星の自転に沿って
西方へとむかうのだ
いまごろは大陸の乾いた大平原でみられるに違いない

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