見出し画像

今夜、サンタになるあなたへ

クリスマスイブによせて
今夜、サンタになるあなたへ

            ◆

私が昔、子どもたちのサンタクロースだったころの話

2010年春、長女が結婚した。
お相手は会社の上司だった方だ。
お盆に長女が帰省して家族で久しぶりに昔の話になった時、

彼女はこう言ってくれた

「お母さん、私も子どもができたら 
 お母さんみたいにサンタさんするから。」

           ◆

そう、私は昔、
子供たちのサンタクロースだった。
 

子ど立て期の我が家の生活はとても質素で たとえば子どもの髪も私がカットしていた。
当時、長女、次女、三女、長男の4人を連れて街に出るのは ほぼ無理で、
近所のスーパーがやっとという状態。自分の服など買う余裕はなかった。

いや、それどころか、おしゃれをしようとか、友達とランチやお茶とか
今なら当たりまえにしていることを、無意識のうちに封印していた。

でも、クリスマスだけは特別。

子どもたちのサンタ宛の手紙を手に、希望のプレゼントを求め 
子供たちを母にお願いして、私はイルミネーションに彩られた街へ出たのだった。
この時だけは、私は自分の封印を遠慮なく解くことができた

一人一人の喜ぶ顔を思い浮かべながらのひとときは
私の気分をいっきに華やかにしてくれた



そんなサンタのミッションを楽しんでいた、ある年の12月
年少組の三女が、こう訊ねてきた。

「お母さん、サンタさんって、ほんとはお母さんなの?
今日、○○君が言うとった。」
あ、きたか‥
いつかはこんな日が来ると思っていた。

「サンタさんはね、信じる子のところにはちゃんと来るんだよ。
 でも、サンタを信じられなくなると、サンタさんはお母さんの
 心の中に入って、
 代わりにプレゼントを届けてくれるんだよ。」
と私は答えた。


そうだ
これは作り話なんかじゃない
 
プレゼントを選びに街へ出るとき、
私の心にはクリスマスの魔法がかかっていた。

その魔法とは、大切な人のために自分のできる何かをしてあげて、
そしてそれを喜んでもらえるという、
最高に幸せな魔法。

言葉では表しきれない

最高に幸せな魔法



そして、その魔法は
私の知らない間に、長女へも引き継がれていたらしい。


            ◆



長女は10歳でサンタになったのだ。



1994年‥長女が4年生になった年のクリスマス。私のお腹には5人目の赤ちゃんがいた。
男の子だとわかっていた。

末っ子の長男にも 弟ができるわけだ。

家族みんなが次男の誕生を楽しみにしていた。


予定日を2週間後に控えたイブの夜、
いつものように子どもたちの枕元に4人分のプレゼントを置いて
私は布団にもぐりこんだ。

彼らがなかなか眠らなかったため それはすでに夜中の2時を回っていた
天使のような寝顔は子育ての疲れを忘れさせてくれる。
私は体中が愛でいっぱいだった。


そして翌朝…

目覚めた私の枕元にはなんと絵本のプレゼントが置いてあった。
手紙まで添えられて‥

手紙には、
「お母さんと これから生まれてくる赤ちゃんへ」
と書いてあった。

長女からだった。


私は布団の上で泣いた。


サンタは長女にまで クリスマスの魔法をかけてしまったらしい。
忘れられない朝となった。

                         ◆

さて長女は、次の年からサンタ組みの仲間入りをして
弟たちの枕元にプレゼントを仕込む役を担当した。
次の年には次女…と我が家のサンタは少しづつ増えていった

          ◆


だけど、そんなあったかく賑やかな日常も、子どもたちの成長とともに流れ、変化していく。どこのご家庭もそうであるように。

            ◆

末っ子が小学生になるころ
母サンタの仕事がなくなる時が来た

子供たちはみな、夢に向かって
まっしぐらに羽ばたいていった。


そうだ、信じていれば夢は叶うと教えたのは私

親としてこんなにありがたいことはないはずだ


ところが、肝心の私ときたらどうだ

社会の中で自分の価値を見出せず
焦りのスパイラルの真っ只中じゃないか

向上心の向くまま、資格に挑戦して仕事を増やしたものの、

エゴからのがんばりはうまくいくはずもなく

借金まで作ってしまい、空回りと焦りのループにはまっていた

当時、下の子たちには きっと
寂しい思いをさせていたにちがいない。


サンタをしていた時の、質素だけど暖かい日々が、どんなに価値のあるものだったか

それを、理解するのは もっとあとからだった

          ◆


40代から50代、子育てと自己実現の狭間を迷い続けて
やっと解ったのは

とってもシンプルなこと


幸せとは
自分だから提供できるなにかを

必要としている方にお渡しして、
笑顔をいただく事

大切な人のために働いて、
それをいっしょに喜び合うのが
最高の仕事
最高の幸せ


それはクリスマスの朝、
子どもたちの笑顔で自分が満たされた感覚
そのままだった

そう、私はすでに知っていたのだ。
昔、子どもたちの笑顔が教えてくれた幸せを


ほら、今だって、お客様の笑顔からちゃんといただいているでしょう?


          ◆


さて、東京で嫁いだ長女は今、二人の子の母となり、
バックのデザイナーから育児休暇を経て
グラフィックデザイナーとしてリスタートし、
仕事と子育てをがんばっている。

保育所のお迎え、家事と忙しいだろうに、
笑顔を絶やさない姿に、自分ができなかったことを、この子はちゃんとやっているのだと感じる

長女は、きっと最高の幸せを手にしてくれるだろう。
なぜなら彼女は
すでにクリスマスの魔法を知っているから


今夜サンタになるあなたへ


与えることのできる幸せを
互いにお祝いしましょう

そして
すべてのみなさまへ
Merry Christmas

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?