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【倫理指針】利益相反管理

著者:大崎 理海
査読者:栗林 航
2023年5月8日 Ver1.0

🔵はじめに・・・

この記事では、【倫理指針】における利益相反管理について説明します。
別の記事で説明する【臨床研究法】における利益相反管理(後日リンクを張ります)では、利益相反管理基準や利益相反管理計画の作成が規定されていて、厚生労働省課長通知(推奨ガイダイス)にて具体的な管理基準等が明示されています。これはこれで大変なこともあるのですが…
【倫理指針】を遵守する研究では、統一された基準はなく、各研究機関のポリシーやルールに従って利益相反管理を行います。そのため、研究機関ごとに基準が様々で【臨床研究法】とはまた違った難しさがあったり…(;´Д`)
少しでも日々の業務のヒントになれば幸いです。

臨床研究の分類と利益相反管理ルール

🔵利益相反(conflict of interest: COI )とは・・・

‣一方が利益を得るときに、もう一方は不利益を得る状態
 例) 取締役Aの利益 = Aの務めるB社の不利益
ある人物が立場上追求すべき利益と、その人物が他に有している立場や
 個人としての利益とが相反(衝突・競合)している状態

 例) Cが務める大学としての利益 × C個人の利益
    理事D(執行機関の立場)としての利益 × D個人の利益
    医師Eの利益 × 研究者Eの利益

🔵利益相反状態にあること自体は問題ではない!

ここで知っておいてほしいのは、利益相反状態とは日常的に起こり得る事態であり、それ自体が悪いことではありません。「利益相反状態に無関心であることによって、社会一般の目からすれば「説明責任が果たされていない」かのように見えてしまい社会的信頼が損なわれるおそれがある」ということが問題になるのです。

🔵研究における利益相反とは・・・

外部との経済的な利益関係等により、研究で必要な公正かつ適正な判断が損なわれる、又は損なわれるのではないかと第三者から懸念が表明されかねない事態をいいます。
「公正かつ適正な判断が損なわれる」状態とは、データの改ざんや特定企業の優遇研究を中止すべきであるのに継続するといった状態が考えられます。

例えば、特定の企業から何らかの利益を得ている研究者に対して、社会一般(第三者)の目から見て「当該企業に対して何か便宜を図っているのではないか?」と疑念を持たれれば、実際に企業に便宜を図っているか否かに関わらず、利益相反状態にあると言えるため、適切な利益相反管理が必要です。

社会一般(第三者)から懸念が表明されかねない事態
「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針 ガイダイス」より抜粋

人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(以下、倫理指針)では、研究者等は所属機関において定められた利益相反に関する規程に基づき、研究責任者に自らの利益相反に関する状況を報告する必要があります。
人を対象とする生命科学・医学系研究(以下、臨床研究)における利益相反は、「法令違反」とは異なった概念であり、社会的受容性の問題と捉えられます。つまり、社会からの信頼を得つつ組織が発展するため、誠実かつ適切な対応(適切な利益相反の管理)が要求される性質の事柄であるということです。

倫理指針における利益相反と法令違反の相違

利益相反の管理とは、利益相反関係があることを公に(関連する企業からの寄付金額や使用目的、労務提供の内容等を透明化)し、組織・個人として、問題指摘に対して説明責任を果たせるように組織のポリシー・ルールに従って適切にマネジメントすることであり、社会的信頼の確保を目的としています。
臨床研究における利益相反の管理では、普段は隠れていて見えづらい利益相反状況を、研究者自身が申告・開示し、社会への説明責任を果たせるように組織のポリシー・ルールに従って適切にマネジメントすることにより、研究対象者の利益・安全性の確保研究の公正性・信頼性の確保(研究対象者・国民の臨床研究に対する信頼を得ること)を目的としています。
また、臨床研究における利益相反管理を行うことは、研究者・研究機関・研究活動を守ることや、研究不正の抑止に繋がっていくことも期待されます。


🔵具体的に利益相反の管理の方法とは・・・

臨床研究における利益相反の管理の流れは以下の通りです。

臨床研究における利益相反の管理の流れ
「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針 ガイダイス」より抜粋

➊ 利益相反申告と措置
申告時期:臨床研究開始時
申告対象:当該研究に関する利益相反状況
申告者 :研究者全員
(研究者等は自らの利益相反状況を研究責任者に報告する必要あり)
※利益相反管理状況は倫理審査委員会にも共有する

利益相反委員会による利益相反状態の評価

➋ 利益相反状態の開示
<研究開始前>

◆実施計画書への明示
倫理審査を受ける際、研究対象者の利益・安全性の確保がされているか判断するため、研究計画書に利益相反状態についての開示が必要。
分担研究者は研究責任者に利益相反状況を報告。
(研究計画書の記載例)
1)本研究は○○講座の○○研究費を用いて実施する。
  本研究の計画・実施・報告において、研究の結果及び結果の解釈に影響
  を及ぼすような「起こりえる利益の衝突」は存在しない。
2)本研究は○○株式会社との共同研究契約に基づき提供される研究資金を
  用いて実施する。また、研究責任者は本研究で使用する△△に対して特
  許を所有している。
  研究者は、本研究の実施に先立ち利益相反委員会にて利益相反マネジメ
  ントを適切に受けることとしている。また、個人的な利益を優先させた
  り、専門的な判断を曲げたりするようなことはなく、研究の実施が研究
  対象者の権利・利益をそこねることはない。

<同意取得時>
◆インフォームド・コンセント
研究者等の研究に係る利益相反状況(研究の資金源等、研究機関の研究に係る利益相反及び個人の収益等)について、研究対象者等に説明が必要。
(説明文書の記載例)
1)この研究は、○○の研究資金を用いて実施します。しかし、この研究の
  実施や報告の際に、金銭的な利益やそれ以外の個人的な利益のために専
  門的な判断を曲げるようなことは一切ありません。また、研究に用いる
  薬の企業との雇用関係ならびに親族や師弟関係等の個人的な関係なども
  一切ありません。
2)この研究は○○製薬との共同研究です。研究実施のために○○製薬から資
  金提供を受けています。また、研究責任者はこの研究で使用する△△に
  対する特許を所有していますが、利益相反委員会に報告し、利益相反マ
  ネジメントを適正に行っています。本研究の実施のための資金提供以外
  に○○製薬との間に開示すべき重要な利害関係はありません。

<研究成果の公表時>
◆学会発表や学術誌への投稿

臨床研究を取り巻く利益相反状態について適切な開示が求められる。
開示の内容は、各学会規定や学術誌の投稿規定に従う。


🔵まとめ(私見もりもり)

これまでの記述の通り、利益相反管理は統一された基準や管理の方法が定まっている訳ではありません。そのため、各組織では国から発出されたガイドラインや通知を基に、「説明責任を果たす」ためのポリシーや基準・ルールを定め、それに従い管理を行っています。
組織の基準と学会等の定めた基準にも差があり、研究者にとっては似たような申告をあちらこちらに提出しなければならない…ということもあります。
まずは、以下のポイントについて事務局が理解を深めること、そして、研究者に対しても理解してもらうよう働きかけを継続することが大切だと個人的には思っています。
【臨床研究における利益相反管理を理解するポイント】
・目的は、研究対象者の利益・安全性の確保や研究の公正性・信頼性の確保
・「無くす」「隠す」ではなく、管理(マネジメント)によって解決できる
・利益相反管理は単なる手続きではなく、研究者の立場を守ることにも繋がる
【自施設の基準を確認してみましょう】
・第三者や患者さんから疑念を抱かれる状態とはどんな状態があるか?
・どんな管理をすれば、研究者や研究自体の信頼性を確保できるか?


(その他)
「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針 ガイダイス」における利益相反関連の記載

研究者は利益相反についても教育・研修を受ける必要がある。
第7 研究計画書の記載事項について
倫理審査委員会は利益相反に関する情報を含めて審査を行う
第17 倫理審査委員会の役割・責務等について

(参考・引用)

・「利益相反ワーキング・グループ報告書」(平成 14 年 11 月1日文部科学省科学技術・学術審議会・技術・研究基盤部会・産学官連携推進委員会・利益相反ワーキング・グループ)
・「厚生労働科学研究における利益相反(Conflict of Interest: COI)の管理に関する指針」(平成 20 年3月 31 日科発第 0331001 号厚生科学課長決定)
・「臨床研究法における臨床研究の利益相反管理について」(平成 30 年 11 月 30 日医政研発 1130 第 17 号厚生労働省医政局研究開発振興課長通知)


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