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緊急時に備えて。大型ドローンで30リットルの湖沼採水は、強めの風でも可能だった、という話

湖沼の水質調査をする際、岸辺のそばであれば紐のついたタンクや缶を投げ込んで採水できますし、湖沼の真ん中あたりなら大きな機材を積んだ船で沖合まで出て、タンクを下ろして人力で引き上げて採水できます。ニュース番組などで誰でも一度は見た光景かもしれません。

しかし、船を出さないで湖沼の真ん中の水を汲んできてと言ったら一瞬迷いますよね。特に環境汚染が考えられる中であれば泳いで採りに行くわけにもいきません。そのような時には、空飛ぶ大型ドローンの活用が現実的になったということが分かりました。

秒速7メートルのやや強めな風の中、30リットル採水実験飛行に見事成功したのです。その報告です。


青森県六ケ所村での採水実験飛行

2023年5月30日。クリーク・アンド・リバー社(C&R社)は、六ヶ所エンジニアリング株式会社(REC)の青森県六ヶ所村の尾駮沼(おぶちぬま)での採水実験に協力して、最大積載量55kgの大型ドローンによる約30リットル分の湖沼水の採水・飛行・運搬を行いました。1回あたり2分程度の飛行時間で、それぞれ約30リットル(500mlペットボトルで60本分!!)の採水を3回成功させました。

青森県六ヶ所村の尾駮沼での実験で、ドローンは安定して採水した

この日の風は比較的強めで、6~7m/S(秒速)。湖沼面はさざ波が常に立っている状況で、隣にいる人の声も聞き取れないほど顔に吹き付ける風は強く感じました。

空中を飛行するドローンは運搬用ドローン「XYZ55」。山林や山間部での資材運搬で実績のある大型機です。そして操縦するのは優しい操縦が自慢の熟練パイロット。これまで多くの現場を経験してこられていますが、強い風や雨、また湖沼や海辺、川の上は思わぬ気流や風が発生しているため気が抜けない状況なので、いつになく慎重な操作です。

比較的風の強い中、慎重な操縦が求められる

そして、青森県六ヶ所村と言えば原子燃料サイクル施設などの原子力施設があるほか、"やませ”という強い風を利用した風力発電基地などが集中している場所でもあります。

もし人が近づけない状況でも採水調査をしなければならなくなったら。そんな万が一の状況の際にどうすべきかを検討するために、大型ドローンによる飛行採水実験が行われました。

沼の水を調査するいつもの方法は

通常は採水用の専用船をチャーターして、作業員4名程度が数時間かけて採水を行う場合が多いそうです。しかし、船での作業は波の高さや強風による作業の危険性があったり、放射線量が高い時は緊急時調査では可能な限り人が直接採水するのは避ける必要があるという課題がありました。

強い風で見た目以上に波が高いと船の作業は危険となる

あまりにもスムーズにドローンは飛んだ

今回の検証・調査では、RECが計画・採水治具を担当し、C&R社は大型の運搬用ドローンを使用した採水に協力しました。

飛行する前の準備を入念に行って余裕をもったものの、採水容器を30秒ほどで取り付けた後、比較的風が強い中、ドローンは採水地点まで10mのロープにつながれた採水容器を吊るしたまま(風や荷物の揺れを受けやすい!)安定して飛行。採水容器を落下・入水・採水して、早い時は2分間で、上空待機指示があった場合でも5分間でフライトを完了させました。ワンターンあたり25分程度で作業は完了していますので、数時間かかるチャーター船での作業よりかなりの時間短縮になることが分かりました。

2~5分間程度フライトして採水

緊急時に人が現地に行かなくて済む、事前準備をしっかりすることが前提ですが、作業自体は短い時間で済むということが、今回の大型ドローン採水で分かったメリットでした。

感想を聞いてみました

多くのスタッフや関係者が見学した

作業を見学した関係者からの感想です。
「湖沼水30ℓを目的の座標から採取できたことは単純にすごい」
「風が比較的強い(6~7m/S)状況であったが、問題無く採取できていた」
「緊急時だけではなく、できることならば定常業務における採取に採用したい。それにより、安全リスク(湖への転落他)の低減及び品質の向上に繋がると思う」
という高評価がある一方で、
「ドローン本体が水中に落下した場合、浮く設計とのことですが、落水からの再浮上または、自走で離陸ポイントに戻ることは可能か。不可能な場合の回収方法は?」
「緊急時、特に高線量下での採取には有効かと思われますが汚染がある場合、舞い上げ拡散させる可能性がある(事故時想定)」
などと課題も聞かれました。

水辺での大型ドローンの可能性

大型ドローンを活用した湖沼・河川での作業は増えそうだ

機体の能力や操縦性、操縦するパイロットの知見が増えて技術力が向上したことなどで、大型ドローンを活用した運搬や調査、撮影などその活用の範囲はどんどん広がっています。

今回、風が少し強い中でも大型ドローンであれば安定して飛行して運搬できたということが実証できたことで、今後海や河川で使用できる可能性が広がったとも言えるでしょう。今後がますます楽しみになりました!■CR

CREEK & RIVER note編集部 TK

【本件に関するプレスリリース】
https://www.cri.co.jp/news/004325