R2司法試験 商法

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菊地正志(弁護士)

設問1
第1 新株発行無効の訴え
 Bは、本件決議1ないし2には後述する決議取消事由があることを理由に、既に効力が生じている本件株式発行の無効の訴え(会社法(以下省略)828条1項2号)を提起する。
 本件株式発行の効力は令和2年4月10日に生じているため「1年以内」(同号かっこ書)であり、また、Bは甲社株式を2万9000株保有する「株主」(同条2項2号)である。
 さらに、株主総会決議の取消事由を株式発行無効事由とする場合、当該決議の日から3か月以内(831条1項柱書後段)に無効の訴えを提起する必要があると考えるが、当該決議は令和2年3月25日になされておりこの訴訟要件もみたす。
 1 本件決議1ないし2の取消事由
 (1)招集手続きの法令違反
 取締役会設置会社である甲社が株主総会を招集するためには、株主に対し目的事項を書面に記載して通知しなければならない(299条1項、2項2号、4項、298条1項2号)。しかし、甲社は、本件取締役会において本件議案1および2を総会に提出しその目的とすることを決議したにもかかわらず本件招集通知にその旨を記載していない。したがって、招集手続に法令違反(831条1項1号)がある。
 ここで、結果的に甲社の株主は全員出席していることから、招集手続きの瑕疵は治癒されないか。
   ア 規範
 総会の招集手続きは株主に対し総会に出席して株主権行使の機会を与えるためのものである。そのため、招集手続きに瑕疵があっても、適切に株主権行使をする機会があったのであれば、瑕疵は治癒されると考える。
   イ あてはめ
 甲社では本件普通株式のみを発効していたのであるから、優先株式に関する定款変更を行うという本件議案1は甲社の重要事項の変更といえるにもかかわらず、総会の場で突如議案の説明をされてもその意義等を正確に理解することは難しい。また、本件議案2に関しては、払込金額である2万円が適正な価値であるかの判断資料の添付もなく、審議の際に公正な評価と口頭で説明されただけではそれが真実か判断できない。したがって、Bには適切に株主権行使をする機会がなかったといえる。
   ウ 結論
 よって、瑕疵は治癒されず前述のとおり招集手続に法令違反が認められる。
 (2)発行価格についての説明
 本件株式発行は、専門機関が算定した株価である4万円の半額である2万円で行われている。これは、「特に有利な金額」(199条3項)である払込金額といえるため、Aら取締役は当該払込金額で株式を募集することの必要性を説明しなければならない(同項)。
   ア 規範
 有利発行の際に必要性の説明が要求される理由は、有利発行することにより得られる利益が、株価が希釈化する不利益を上回るか否かについて株主に判断材料を与えるためである。そのため、「説明」をしたといえるためには、有利発行による損得を株主が判断できる程度になされる必要がある。
   イ あてはめ
 たしかに、甲社においては2億円の資金調達が急務であること、本件株式発行以外に選択肢がないのはことは事実でありCはそれを説明している。しかし、2万円という金額は公正価格の半額であり、その金額に決定した理由は、引受人であるPおよびQが甲社株式を5%保有したいと希望したからである。PおよびQがこのような希望をした理由は、一定の少数株主権の行使ができるようになることを意図したものと考えられるが、このような者らに少数株主権を与えると甲社の運営に何らかの影響を与えるおそれがあるため、有利発行の経緯の説明は損得を判断するために必要な事項であったといえる。そのため、その説明を怠ったことは、有利発行の「説明」を欠いたといえる。
   ウ 結論
 よって、決議方法についての法令違反(831条1項1号)といえる。
 (3)定款の定めのない種類株式の発行
 株式会社は定款に定めることにより種類株式を発行できる(108条)が、甲社では本件普通株式のみを発行しており、上述のとおり、招集手続きが違法であることから本件決議1に取消事由があることを理由に、本件決議2による株式発行が定款の定めのない種類株式の発行に該当し、決議内容の定款違反があるとも思える。
 しかし、瑕疵が取消事由にとどまる場合、取消しが確定するまで決議の内容は有効であるから、決議内容の定款違反には該当しない。
 2 無効事由
 以上の決議取消事由は株式発行の無効事由となるか。828条1項2号は無効の要件を定めていないことからその要件を検討する。
 (1)規範
 株式発行を無効とすると多数の利害関係人に影響が生ずることが考えられるため、原則として無効事由は狭く解すべきとも思える。しかし、非公開会社の場合、閉鎖的な性格から株式発行の利害関係者は少数であることが一般的であることから、株主構成の安定保護を重視してもよい。そこで、新株発行の差止め事由(210条)に該当する程度の決議取消事由がある場合には無効事由に該当すると考える。
 (2)あてはめ
 Aらが招集通知に本件議案1、2を記載しなかったのは、事前に通知するとBから異議が出されることが想定されたからである。また、発行価額決定の経緯についての説明をしなかったのも、PおよびQが甲社の支配権について興味を持っていることをBに知られると決議に反対されるおそれが想定されたからである。Aらは、上記のおそれを回避しようと取消事由に該当する行為を意図的に行ったのであり、それによりBが適切な判断で議決権を行使する機会を奪ったといえる。これは「著しく不公正な方法」(同条2項)によって株式を発行させたと評価できる。
 (3)小括
 したがって、新株発行の差止め事由に該当する。
 3 結論
 よって、本件株式発行の無効の訴えは認められる。
設問2
第1 小問(1)
 本件株式併合の効力が発生すると、Pの持株数が半分になるため、株主総会における議決権割合も半分になる。さらに、Pは持株比率5%であり少数株主権の行使ができたところ、持株数の低下によりこれらの行使もできなくなる。
 また、配当優先額は株式数に応じて支払われることから、持株数が半分になるのに伴って優先配当額も半分になる。さらに、優先配当後に分配可能額がある場合は、本件普通株式の株主と共に株式数に応じて配当を受けることができていたのであり、その配当も半分になる。
 以上のような不利益が生じる。
第2 小問(2)
 1 株式買取請求(116条1項3号イ)
 本件優先株式については、322条1項の規定による種類株式総会の決議を要しないことが定められている(116条3号柱書)。Pは、本件臨時総会に先立ち、本件株式併合に反対する旨を甲社に対し通知し、本件議案3の審議においても強く反対しているため「反対株主」(同条2項)に該当する。さらに、Pには議決権については割合が半分かつ少数株主権の行使ができないという支配力の大幅な低下となり、配当については優先配当も普通配当も半額になると著しい減額が生じている。そのため「損害を及ぼすおそれがある」といえる。
 よって、Pは株式買取請求をすることができる。
 2 本件株式併合の差止請求(182条の3)
 (1)善管注意義務違反(330条、民法644条)
 Aら取締役は、株主間の公平を図る善管注意義務(330条、民法644条)を負うところ、上述のとおり、Pは本件株式併合により重大な損害を被るが、甲社にとってPらへの配当が重荷になってきたことから本件決議3を成立させており、Pらへの損害が発生する行為を意図的に行ったといえる。
 そうであれば、Aらは善管注意義務に違反して決議を成立させたという法令違反があるといえる。
 (2)利害関係人による議決権行使(831条1項3号)
 本件株式併合によりPらへの優先配当額が半額になると、普通株主への配当額が増額することになるため、普通株主であるAおよびBは、他の株主と共通しない特別の利益があるといえるから、「特別の利害関係を有する者」といえる。さらに、本件決議3は、上述のとおりPらに不利益を与える行為を意図的に行うものであり「著しく不当な決議」といえる。
 よって、決議取消事由に該当する法令違反があるといえる。
 (3)結論
 よって、本件株式併合の差止めが認められる。   以上

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菊地正志(弁護士)
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