第1 〔設問1〕
 1 捜査①について
 捜査①は、甲に対して発付された捜索差押許可状に基づく捜索(刑事訴訟法(以下省略)218条1項)として行われているが、これは適法か。
  (1) 乙宛ての荷物であること
 本件捜索差押許可状は、「甲」に対して発付されているが、荷物は「乙」に宛てられている。それでも捜索①は適法か。
   ア 219条1項により、令状に被疑者の記載が要求される趣旨は、表示された被疑者について、捜索が適法であることの裁判所による事前審査が行われたことを示すことにある。そうであれば、荷物の宛先が第三者であっても、実質的な所有者が表示された被疑者であれば、事前審査が及んでいるといえるため、捜索は適法であると考える。
   イ Kが差し押さえた甲の携帯電話から、丙なる人物から「ブツを送る。・・・10月5日午後3時過ぎに届くはずだ。・・・乙宛てのは、お前と乙の2人でさばく分だ。」と記載されたメールがあった。甲が、裏で手広く覚せい剤の密売を行っているという噂があることから、「ブツ」とは覚せい剤の疑いがある。本件荷物は、「U株式会社」から、午後3時16分に届いたものである。しかし、「U株式会社」が実在しないことから、真実の送り主は丙である疑いがある。さらに、荷物の届いた時間は丙のメールと一致する。そうであれば、乙宛ての荷物は「お前(甲)と乙の2人でさばく分」であり、一部であれ甲の所有物といえる。
   ウ したがって、実質的な所有者は甲であるから、事前審査は及んでいると評価しうる。
  (2) 甲方の捜索開始後に本件荷物が届いたこと
 もっとも、本件荷物は、捜索開始時点では甲方になく、後から届けられたものである。それでも、捜索①は適法か。
   ア 令状には有効期間が記載される(219条1項)。これは、有効期間内の捜索について、裁判所の事前審査が及んでいることを示したものである。そうであれば、少なくとも、捜索の継続中は有効期間内といえるから、後から捜索場所に入った物に対しても令状の効力が及ぶ。
   イ 本件荷物は、午後3時16分に届いており、甲方の捜索を開始した午後3時から16分しか経っておらず、捜索は継続していた。
   ウ したがって、令状の効力は及んでいる。
  (3) 結論
 捜査①は適法である。
 2 捜査②について
  (1) 捜索差押許可状に基づく捜索としての適法性
 本件捜索差押許可状の被疑者は「甲」、場所は「T株式会社」となっているが、「乙」と表示のあるロッカーを捜索することは適法か。
   ア 場所に対する捜索差押許可状にも被疑者が表示されるのは、表示された被疑者のプライバシー権が及ぶ場所についての捜索差押について事前審査が及んでいることを示すものである。そうであれば、表示された被疑者のプライバシー権が及ぶ範囲の捜索は適法であると考える。
   イ たしかに、本件ロッカーはT株式会社の内部にある。しかし、ロッカーは会社が個人に貸与するものであり、貸与された者が自由に使用できる。そうであれば、本件ロッカーも、「乙」と表示されている以上、甲のプライバシー権を離れ、乙の管理下にあるものといえる。
   ウ したがって、令状の効力は及ばないため、捜索差押許可状に基づく捜索としては違法である。
  (2) 乙の現行犯逮捕に伴う捜索としての適法性
 乙は、現に覚せい剤を所持していたことから現行犯逮捕(212条1項)されているが、逮捕に伴う捜索(220条1項2号)
   ア 「逮捕する場合」
 「逮捕する場合」とは、逮捕と時間的場所的接着性が認められることをいう。
 乙は、午後3時55分にT株式会社の社長室で現行犯逮捕されている。捜索②が行われたのは午後4時20分であり、30分も経過していない。また、ロッカーは社長室の隣の更衣室内にある。そうであれば時間的場所的接着性が認められるから、「逮捕の現場」といえる。
   イ 「逮捕の現場」
    (ア) 逮捕に伴う捜索に令状が要求されないのは、逮捕の現場には証拠が存在する蓋然性が一般的に高く、裁判所による事前審査が不要であるからである。そうであれば、被逮捕者の管理権の及ぶ範囲であれば「逮捕の現場」といえる。なぜなら、そのような場所に証拠存在の蓋然性が認められるからである。
    (イ) 上述の通り、本件ロッカーはT株式会社の内部にあるが、個々のロッカーのプライバシーは、ロッカーの使用者に属する。そして、本件ロッカーには「乙」と表示されている。そうであれば、本件ロッカーには乙の管理権が及んでいるといえる。
    (ウ) したがって、「逮捕の現場」といえる。
   ウ 結論
 乙の現行犯逮捕に伴う捜索として適法である。
第2 〔設問2〕
 1 判決の内容について
 裁判所は、丙との共謀に基づくものである可能性はあるものの、共謀の存否はいずれも確定できない、と考えている。それにもかかわらず「丙と共謀の上」と認定することは、「犯罪の証明がない」(336条)として違法ではないか。
  (1) 2つの可能性があり、第3の可能性がない場合、可能性のある事実のうち、重い罪当たる事実に利益原則を適用し、その事実の不存在をもってもう一つの事実の存在を証明することは許される。なぜなら、いずれにせよ、犯罪を行ったことには変わりないの、いずれかを証明できないために無罪となるのは不当だからである。
  (2) 本件被疑事実について、たしかに、甲は丙以外の第三者と共謀した可能性もあり、その意味では第3の可能性はあるが、丙と共謀したことについては共謀が「あった」か「なかった」かの2つの可能性しかなく、第3の可能性はない。
 また、たしかに、単独犯と共同正犯に実体法上の刑罰の差はない。しかし、本件では、丙との間に共謀があるとした場合、甲らは従属的な立場にあることになるから、甲らと丙との間に共謀がない場合よりは犯情が軽くなる。 そうであれば、重い事実である、丙との共謀が「なかった」という事実に利益原則を適用し、「なかった」ことが不存在、つまり共謀が「あった」と証明することができる。
  (3) したがって、犯罪の証明はあるので、判決内容は違法ではない。
 2 判決の手続について
 公訴事実においては、甲が単独で所持していたとされているのに、丙との共謀を認定することは、訴因逸脱認定(378条3号)とならないか。訴因変更(312条1項)が必要か問題になる。
  (1) 当事者主義的訴訟構造(247条等)から、審判の対象は訴因であり、「請求を受けた事件」とは訴因に記載された事実である。
 訴因は、起訴事実を他の事実と識別する機能を有するから、犯罪の成立に不可欠な事実に変更がある場合、訴因変更が必要であると考える。
 また、被告人に対し、防御の対象を示す機能も有するから、訴因に明示、または不明示した事実について、被告人の具体的防御に不意打ちを与える場合も訴因変更が必要であると考える。
   ア 当初の公訴事実においても、裁判所が認定した事実においても、いずれにせよ甲が覚せい剤を所持していたことについては変わりないので、犯罪の成立に不可欠な事実に変更はない。
   イ 次に、たしかに、甲の弁護人は、丙との共謀が成立することを主張し、その旨の事実を認定すべきであるとの意見を述べている。しかし、Pは、甲らと丙との関係には言及しなかった。そうであれば、具体的な訴訟において、甲は共謀の事実について争う機会がなく、また、Pとしても、共謀の事実については争点として争う意思を放棄していたと考えられる。
 したがって、甲の具体的防御に不利益があるといえる。
   ウ よって、訴因変更が必要であり、訴因逸脱認定として違法である。
  (2) なお、覚せい剤を所持していた日時・場所・量など基本的事実が同一であり、「公訴事実の同一性」(312条1項)が認められるから、訴因変更は可能であった。  以上

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