イラストレーター、唐仁原教久(とうじんばらのりひさ)氏が描く、神谷バーの広告イラストがいろいろな人々を癒す。
11月に入り、季節が冬色に向かいはじめた、ある日。
弊社のパリピもどき女子が、スマホで撮った一枚の写真を、僕に見せ、「いま、この老舗のバー、神谷バーの広告イラストに私、ハマっているんです。」と、そっと囁くように言った。
後姿が象徴的なそのイラストは、淡い哀愁を感じさせ、僕にとってもずっと忘れられない一枚となった。
いま僕の目の前には、その哀愁イラストを描いたイラストレーターの唐仁原氏がいる。
「僕は小さいころから、先輩たちの絵をみていて、絵画ではなく、広告に使う絵を描きたいなぁ、と、思っていました。
最初はグラフィックデザイナーとして事務所に入り、少しずつイラストレーターにシフトしていきました。
仕事をしていて、本とか雑誌なんかのページにスペースがあくと、こちらから提案して、そのスペースにイラストを描いていました。そのうち使いやすい事務所というイメージが定着して、本格的にイラストを描くようになったんです。
神谷バーの仕事を始めたきっかけは、コピーライターの中村裕彦氏とアートディレクターの池田雅典氏のコンビが、僕のイラストを使うようになって、それからシリーズが始まったんです。
広告イラストは、もう20年ぐらい描いていますね。イラストの特徴である、後姿は、親がガンになったとき、あまり親の記憶がなかったから、なにか残してあげようと、思いまして。最初のころは、親を想う投影だったのです。
ファーザという、後姿だけを描いたイラスト作品集も創ったこともありました。そして、いまだに後姿を描き続けています。」
僕は、ふと、思った。
神谷バーの広告イラストで、描いてみたい世界は他になにがあるのだろうと。
「お店に直接、行って、お客さんの本当の後姿を描いてみたいですね。飲んでいる姿を素直に描く。」
とてもシンプルな夢だ。
「いまはイラストレーターが増えすぎて、方向がみえない。でもイラストの新しい流れは、生まれると思う。
やはりイラストの極めつけは、webではなく、紙媒体ですね。それが王道。個性とは、繰り返しの中で生まれる、自分のスタイルですね。」
唐仁原氏は、自分が感じているイラストへの想いを、無邪気にやさしく語ってくれた。
その素直な想いは、いつまでも夢を追い続け、荒野をめざす青年のこころのようであった。
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