自分が本当に良いと思うものをつくる。

    去る6月1日、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科修士2年の授業「クリエイティブリーダシップ特論Ⅱ」のゲスト講師として、「雨上株式會社」代表・平井俊旭さんをお迎えした。平井さんは、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科を卒業後、インテリアデザイン事務所(株)SUPER POTATOを経て(株)Smilesに入社し、創業期より「Soup Stock Tokyo」のブランドづくりに携わられて来た。2014年 雨上株式會社を設立。
https://ameagaru.co.jp/

    同社は「日本の地方にある価値を見つけ出して、『人やお金を循環させる仕組み』を作る仕事をする」という理念のもと、多様な領域でブランドづくりをされている。だが、そこに通底するブランド規定は変わらない。「顧客からの信頼を得ている商品・サービスのイメージの総和」。因数分解すれば、①他者(お客様)が感じている視点を持ち②ストーリー性を持って伝える工夫を行い③明確なコンセプトと高いクオリティーに支えられながら④デザイン性・感性に訴えるフックを施す、ということを高野山という日本最強のブランドを事例にご説明くださった。

    共感したのは、プロジェクトで重視されてきた5つのポイント。
① 小さく、数多く続ける。
② 地域住民と同じ視点で見て話す。
③ 共感のネットワークをつくる。
④ 魅力を最大化するために要素を集めて編集する。
⑤ いろいろな手段を重ねる(クロスメデイア)。
 プロジェクトの成功に、たったひとつのルールは無い。考えられることを、あれもこれも試しながら、小さい事例(Small success)を積み重ねて行くしかないのだ。だが、最も大切なことは「共感」だ。それなしに、多様な関係者がひとつのチームとなってある方向に向かって行動することはかなわない。それを平井さんは、初めて耳にする「ハンカチ理論(ハンカチをチームと捉えた時、全体のレベルを上げるには、ハンカチ全体を均等に持ち上げなくとも、ハンカチの真ん中をつまんで持ち上げれば、吊られて全体が引き上げられるという理論)」という表現で鮮やかに説明頂いた。

 平井さんの携わる領域は多様であり、一見、そこで行われていることやコンセプトは相矛盾するようにも見える。例えば「近江米ブランド」提案では生物循環型経済の理念が息づいていると思えば、「天使の悪魔のカフェ」では、体に良いものと共に「カロリーが高いがおいしいもの」を提供する。

 そこに共通する「思い」は何なのだろうか?それは、大学時代のお話をしてくださった時に明らかになった。東京のごみ問題を課題として扱った経験から、「作ったものより、作ったものによって社会がどうなるのか?」「モノができたところに責任が発生する(つくった人に最大の責任が生じる)」という大きな気づきを得、心に決める。


自分が本当に良いと思うものをつくる。

 質疑の最後に「コロナの時代のブランドの在り方」にも話が及び、平井さんは「本質が問われる」と回答された。コロナによって、一人ひとりが漠然と思っていたことが露わになったのではないだろうか。働き方、生き方、必要だと思っていたものの必要性・・・。そして、一人ひとりが、一つひとつの商品やブランドが本質を問われている。言い方を変えれば「哲学」を問われている。そうした目に見えない本質や哲学を「カタチ」にして提示するところにデザインやアートの価値があるのだと思う。「自分が本当に良いと思うものは何かを考え抜き、それを世の中に提示する」。私自身も漠然と感じていたことを、改めて再認識させて頂いた講義だった。


 
 
 



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