カチカチを、フワフワに。

 去る5月18日。新型コロナ対策によって、1か月遅れで、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科のM2のクラス(クリエイティブリーダーシップ特論2)がスタート。今年も昨年に続き、「クリエイティブリーダシップ特論Ⅱ」で、デザイン/アート界のトップランナーのお話を聞かせて頂くことになり、第1回に、ゲスト講師 三澤直加さんをお迎えした。


 三澤さんは、共創型デザインファーム㈱グラグリッド代表として、多方面に渡って活躍されている。講義のタイトルは「『これから』を描きつくる仕事」。まず、「ビジョンづくり」「組織づくり」「商品づくり」の3本柱によってサービスデザインのアプローチで価値ある体験と社会のしくみをつくるパートナー、という理念と、3つの専門性(ビジュアル信金ング、ファシリテーション、サービスデザイン)についてご説明くださった後、5つのケースを紹介頂いた。


 小学校、企業、地域・・と多岐に渡るが、私が印象に残ったのは、「自分の心に問いかける」と題された企業の事例と「理想的な未来の体験を関係者と共創する」と題された大学(梅光学院)のプロジェクト。前者は、自分の役割がわからないケースにおいて「えがっきー」というツールを使用しワークショップ形式で個々のビジョンを明確にし、後者は新校舎建設にあたり、どのような場所にしたいのか模型を無ながら、理想を視覚化するという取り組み。  


 いま、新型コロナという未曽有の変化が全世界に訪れ、在宅生活を余儀なくされている中で「これから」を考えるヒントが隠されているように感じたからだ。企業のケースでは、「日常生活にあった、なかなか自分を内省する機会がない」からこそ有効と三澤さんは説明されたが、いま、多くの人の中で内省が進んでいる。それはストレスフルな状況下で、ともすれば否定的なものになりがちだが、手を動かすことによって自分の身体感覚を思い出し健全な内省を進める上で、今こそ必要なメソッドでありツールだと感じた。また、後者はカタチにすることで体験的に「あるべき姿」を描くことは、学校のケースに限らず多くの組織に必要なメソッドだと感じた。


 危機に瀕した演劇について語られた、劇作家・演出家の平田オリザさんは「非寛容な空気が支配されつつある中で、異なる価値観を認め寛容さを社会に取り戻す演劇(文化)の価値」を発信された。三澤さんが社会で実践されていることも、同様に、様々な領域・コミュニティで寛容な文化を醸成する取り組みであることに価値があるのだ、と感銘を受けた。


 この授業が、大学院における初のオンライン授業体験になった。その中で、三澤さんのゆったりとした穏やかな語り口が心地よく、対面での空気とは異なるオンラインならではの、まるで講師と一対一で対面しているような感覚を得ることができたのも収穫だった。

 
 最後に、三澤さんがおっしゃった「カチカチを、フワフワに」という言葉が、現在の状況を打破するデザインとアートの可能性を端的に言い表している、と感じた。その取り組みと人柄が自己一致し実践されていることが素晴らしいと感じた講義だった。


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