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「すごい採用」を読んで

著者は、ビジネスSNS「Wantedly」を運営するウォンティッドリー社の人事責任者。

Wantedlyが4万2000社以上の企業に導入された実績のことなど、立場的な話は避けられないが、それにとどまらず、働き手と企業の関係性を視野に入れた採用市場での普遍的なことが述べられているように思えた。印象に残った点を書き出してみる。


少子高齢化が進み、生産年齢人口が減少の一途をたどる日本の採用市場では企業が「選ぶ側」から「選ばれる側」になるとともに、若い世代を中心に仕事選びの軸が多様化している現状を直視しなくてはいけない。

事業を推し進めていくのに不可欠な人材を採用するために、求人広告、ハローワーク、人材紹介などに多くの企業がリソースを割くが、なかなか成果が上がらないのは、採用市場の変化に気づかずに、旧来型の採用から抜け出せないから。

採用市場には、「母集団(エントリー数)信仰」が根強く残っている。求人広告などに多額の掲載費用を使って人を集めるだけ集めて、書類選考や筆記試験でふるい落として残った人を採用していくやり方。2000年代初頭に就活・転職情報誌がオンラインの就職情報サイトへと移行し、求職者のエントリーが大幅に効率化される中で醸成されてきた。

だが、数さえ集めれば、その中にピンとくる人がいるだろうという考え方は、労働人口が減る時代との相性が最悪。求職者がクリック一つで意思表示できるようになったので、志望度が高くなく、なんとなくで応募する人が増える。それだけミスマッチが生じる可能性も高くなる。自社にマッチしない人の選考に時間を割かれるのはもちろん、入社後に「思っていたのと違った」と気が付いた人が、無気力社員や早期退職者になってしまうリスクも高まる。

採用において本当に重要なのは、必要な人材を獲得できるかどうかではないか。一つのポジションに対して1エントリーだったとしても、その一人が自社の探し求める人物で、熱量高くて相思相愛の関係を構築できれば、成功と言える。負のループから抜け出すために、「採用は確率論」の考え方から抜け出し、限られた母集団の中で採用の「マッチング精度」を高めていくことにシフトしなくては。

求職者のキャリア観、仕事選びの軸が多様化していることを念頭に動く必要がある。ウォンティッドリー社が20~30代のミレニアル世代を対象に行った「給与とやりがいのどちらを重視するか」というアンケートでは、「給与」の43%に対し、「やりがい」が57%と上回る結果が出ている。

採用市場に出てきた意思のはっきりしている顕在層は、会社の待遇や条件を比較してよりよい条件を提示している企業に流れていきがち。自社の価値観を発信して、意思がまだ固まっていない潜在層のアンテナにひっかかることができれば、「この会社に入れば、今よりワクワクする環境で働けるかもしれない」と思ってもらえる可能性が出てくる。給料や福利厚生といった条件「以外」の切り口「共感」を重視してWantedlyは成功した。

そういう意味で、本選考の前に応募書類なしでお互いのフィーリングを確かめる「カジュアル面談」を活用する動きが広まっているのは歓迎できそうだ。「軽くお茶しませんか?」の軽いノリで、候補者と会社とのマッチ度を確かめてから迎え入れることができれば、入社後に長く良好な関係を築ける可能性が高くなる。

候補者と向き合う時間軸についても再考を迫られるだろう。求人広告などでたくさん人を集めてその中から人材を選び、次回の採用はまたまっさらな状態から、というように就職・転職での候補者との出会いを短期間に限定して、他社を選んだ候補者を視野から外してしまう、フロー採用という一発勝負的手法の限界が見え始めた。

継続に重きを置いたストック採用が打開策になりうるか。働き手との関係を長い時間軸で認識、直近の活動では別の会社に採られても、関係を維持しながら将来一緒に働ける可能性を育てる。

その要になるのが、タレントプールという接触のあった候補者をリスト化する考え方だそうだ。自社カルチャーにマッチするか、ビジョンに対する共感はあるか、スキルセット、転職意向度などの情報を管理していく。

内定を辞退されてもその人をあきらめない。自社の仕事や環境に強く興味があって、今後事業が成長したときにその人が活かせる可能性のあるスキルを備えていたり、自社のカルチャーに合う、などの特徴を持っている辞退者の興味関心や転職意向の変化をアップデートしながら、自社の現在の業務内容や成長、課題などを共有する。

例えば、「〇〇さん、以前△△の領域に興味あるとおっしゃってましたよね。うちで最近△△をやってるんですけど、よかったら勉強会に参加しませんか?」とSNSでラフに語りかけるという具合。

内定を出したのは、選考を通じて一緒に働きたいと判断したからこそ。その人に将来またスカウトをかけるのは合理的かもしれない。

新卒採用での長期インターン活用も、入社後ギャップを減らして同じ方向をみて一緒に働ける仲間を増やすことにつながる。どうしても企業は候補者にキラキラしたところをアピールしがち。楽しそうに和気あいあいと仕事をする場面を紹介するのは嘘ではないだろうが、実際の現場では泥臭い地味なことも多いはず。それだけだと、イメージと実際とのギャップが生じやすくなる。実際に一緒に働く経験をしてもらって、自社の飾らないありのままの姿を知った上で入社してもらえれば安心だ。

従来は企業だけが生産手段を保有していたが、IT化やデジタル変革の進行によって、個人も生産活動が行えるようになってきた。いつでもどこでも誰とでも働くことができるようになって、個人と企業の関係がフラットになっている。これからの人事には、「採用」だけでなく、入社後の定着から活躍までの環境づくり、現場・事業部と連携しながら、「どうしたら選ばれる企業になるか」というマーケティングや営業の目線で「学び続ける」姿勢が求められると指摘している。


巻末に、採用において独自の強みをもった企業三社の担当者インタビューが紹介されている。

■サイバーエージェントは、年々獲得が難しくなっているエンジニア採用市場でも抜きんでた成果を上げている。「採用には全力をつくす」とミッションステートメントに明記し、社員全員が採用に協力するカルチャーを根付かせていることが大きく寄与してように読めた。

■高級ランドセルなどの革製品を扱う土屋鞄製造所の担当者は、新卒採用のエントリー数が57人だった頃から3000人を超えるまでに行ったさまざまな取り組みを話している。

学生の就職情報サイト離れが進んでいると分析し、新卒採用に関して今後、違った形で学生と接点を持つことを模索していることが特徴的だと思った。

デジタルネイティブな、特にSNSのソーシャルネイティブやジェネレーションZと呼ばれる世代は考え方が違います。凄く合理的な学生が多いなと思います。

就職情報サイトは選択肢を広げる、自分にない可能性を広げるという用途において、かつてはすごく時代にフィットしていました。

一方で今の世代、もう情報があふれまくっているので、いかに無駄な情報を避けていくか、自分の好きを追求していくかみたいなところが結構強い世代なのだろうなと思っています。

彼らが楽しむTikTokとかYouTubeの動画は短い時間でいかに効率よく情報を得るかに特化している。タイムパフォーマンスの意識がすごく高いのだろうなと。だから、無駄な情報が多い、就職情報サイトを好まないのではないかと考えています。

p286

■地域密着型ホテル、サン・クレアの紹介では、社長と人材戦略パートナーがインタビューに応じている。「経営者や現場の皆さんが直接口説く」姿勢があるのだという。

以下の一節が、本書を通して一番印象に残った。

給与や休日などの条件だけではなく、何を目指すかというビジョンがなければ、最近は母集団形成すらできないのは体感としてあります。

現実から少し離れた「理想状態」
を語るところからで良いと思っています。今まだ実力ないけれども、この一年間で仲間を集めて来年にはこういう状態にしたいその課題感とか目指す姿に楽しさを覚えて応募してくれる人もいるからです。

p277







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