「グロいのが好きだから資料館が楽しみ」という彼に、私は。

という彼に、私はなにをどう伝えたらいいのでしょうか、というお話です。

ガイド活動をしています

NPO法人PCVの学生メンバー(?)として、修学旅行生を対象に平和公園のガイド活動をしています。
この日は中学生へのガイドでした。

普段は高校生が多い中で、中学生は少し難しい面もあります。
主に思春期特有のものだと思われるのですが、例えば男女の間に少し距離があったり、生徒同士の小グループだと活発でも当てたら恥ずかしがって答えられなかったり。

ツンツンしたい年頃

そんな特徴の一つとして、ちょっとツンツンしてる俺かっこいい、みたいなのもあると思っています。逆張りというか、尖ってみたいお年頃というか。

彼もそのタイプでした。誤解がないように先にめちゃくちゃ褒めときますね。
まず目がきれい。目のきれいさは心のきれいさ。知らんけど。まっすぐこっちを向いて聞いてくれる時の目が印象的でした。
話を振ってもきちんと答えてくれるし、考えてくれてるんだな、と見て取れる姿勢もあります。思っていることを素直に言葉にできるのも強みだし、友達ともコミュニケーションをとれていたので、普段からいい子なんだろうなという感じでした。

で、その彼にもちょっとツンツンしたところがありまして、移動中も話聞くときもずっとポケットに手入れてたりとか、笑い方が「ギャハハ」みたいな馬鹿笑いだったりとか(失礼)。

本題

で、ガイド終わって、そろそろ資料館に移動しようか、くらいの時に、彼がワクワクした顔して「もうすぐ資料館行く?」と聞いてきました。今日こんなに楽しそうな顔してなかったよな、そんなに楽しみなんかな、と思いつつ答えると、「やったあ!俺グロいの大好きじゃけえ、資料館マジ楽しみ!!」と。

正直、かなりびっくりしました。
平和公園歩く前ならまだしも、なんやかんや話しながら、ここにどんな町があって、どんなふうに人が殺されて、どんな思いでいろんな碑が建てられたかを話した後にこれを言われると、かなりメンタルに来るものがありました。伝え方が悪かったのか、内容が足りなかったのか、僕の雰囲気が軽かったのか。

けど、そのまま資料館に行ってもらうわけにはいかない!ここで私がくじけるのは私の存在意義にかかわる!!と思い、全力で伝えることにしました


伝えたこと(伝えたかったこと)

前提として、彼だけに話をしたわけではなく、10人くらいのグループの中で話をしました。
彼以外の生徒も「彼にどう返すんや」という試されるような目でこっちを見ていたので、彼の発言を受けて全員に向けて話した、という状況だった。

①資料館はお化け屋敷ではない

資料館はお化け屋敷ではない。グロい展示を楽しむ場所ではない。
原爆によってその瞬間に何万人もの人が亡くなったことも、今も被害が続いて苦しんでいる人たちがいることも伝えたはず。その時何があったのかをしっかり見てきてほしい。
感想として「グロかった」と思うことを悪くは言わない。原爆の被害の実相をそう受け取る人もいるだろう。
けど、それを楽しみに行く場所ではないし、それを堂々と言いながら入ってほしくもない。ここにきている人でそういう気持ちで見に来ている人はいない(と信じたい)。

②「グロいのが好き」なことは強みにもなりうる

ただ、無理をして展示を見てほしくはない。
当然、しんどくなる人もいると思う。そういう時は無理せずに休んでほしいし、途中で見るのをやめて外に出てきてもいい。トラウマを植え付けたいわけではないし、強制的に見せたい施設でもない。それほどの被害があったのだと知ってくれたらそれでいい。
一方で、(彼のように)グロいものが得意、見ることに抵抗がない人もいると思う。それは、ある意味強みでもある。
グロいものが見れるということは、展示としっかり向き合えるということ。凄惨な被爆証言を聞けるということ。被爆者がどんな地獄を見て、どう生き延びてきたのか、展示してあるお弁当が、三輪車が、どんな経緯でその姿になったのか、しっかり見てきてほしい。そして考えてほしい。

③命の尊重

最後に、何よりも命を尊重してほしい。
被害にあった人が日本人だけではないことは伝えた。核兵器は製造、実験の時から被害者を出し続けている。もちろん被害にあった命も多くある。
平和公園がある場所には町があり、生活があり、そこに命があった。製造、実験で被害にあった命がある。「グロい」ものは命だったもので、被害にあった人間を展示している。その命に何よりの敬意を持ち、尊重してほしい。

一方で製造し、きのこ雲の上から写真を撮った人間もいる。投下を決定した政治家、戦争を始めた人間もいる。戦後生き残って、現在の広島を作ってきた人たちがいる。様々な人の立場から展示を見てほしい。


結論、力不足。

力不足だったんだなあ、と。
上記3点をそれぞれの目を見ながら話して、割と熱も籠ってたと思うけど、それでもそのあとにもう一度「グロいの楽しみ~」と言われた。声はかなり控えめになってはいたけども。
救われたのは、彼の二度目の発言の後の、ほかの子の表情だった。「なんでそんなこと言える?」みたいな顔をしてくれていたので、少しは伝わったかなと思えた。

けど、そんな発言が出てくる時点で、どうしても力不足、勉強不足が否めない。悔しい。
実相も、ヒバクシャの人たちの思いも、ガイドしている人たちの思いも、自分の思いももっともっと勉強して、より正確に、正直に伝えられるようになりたい。
難しいとは思うが、それだけは引けない。私の存在意義にかけて、ヒロシマと向き合いたいし、生徒と向き合いたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?