映画『牛久』2022年4月3日岡山シネマ・クレール舞台挨拶

 以下は、舞台挨拶を聞きながら書き留めたメモをもとに書き起こしたものです。細かい部分では実際に話された内容と差異があると思います。特に、登壇者のお二人は丁寧に話しておられましたが、私の聞き取りの問題でニュアンスは本記事では表現できておりません。大きく意図と違う内容は無いようにしているつもりですが、ご指摘があれば記事の変更や取り下げを行いますのでよろしくお願いします。
 また、石川議員のスタッフの方に許可は頂いています。

映画牛久公式Twitter

https://twitter.com/ushikufilm

石川大我議員公式Twitter

https://twitter.com/ishikawataiga

以下、シネマ・クレール館長浜田さんのインタビュー
―この映画の制作経緯を教えてください。
アッシュ監督
 この映画を撮ろうと思っていたわけではない。友人が行っていた面会活動に参加するなかで、今起きていることの証拠をなんとか保存しなくてはいけないという思いが生まれた。私自身が映画製作者だったこともあり、この映画の制作に至った。

―石川議員はどのような経緯で入管の問題に関わるようになったのでしょうか。また、この映画に出演した経緯は?
石川議員
 もともとLGBTQ+の団体を運営していた。その中で入管施設に収容されているゲイのイラン人男性と知り合った。イランではゲイであることを理由に処刑される。そのため日本に来ていたが、送還の危機に瀕していた。裁判を行ったが、すでにゲイであることを公表して裁判まで起こしている男性に対して、ゲイであることを隠せば処刑されないという、非常に納得できない理由により特別永住権などは認められなかった。その後、関係者の努力によって男性は具体的な国名は明かせないが、北欧に行くことができた。その問題から、徐々に入管の問題に関わるようになった。
 その後、豊島区議員になったので、一旦入管の問題については大きな活動はできなくなっていった。しかし、国会議員になり再度活動するようになった。そのなかで、映画にも登場するナオミさんとも知り合った。彼女はトランス女性だが、知り合ったときには男性と偽装するための扮装をしていた。女性の格好をしていると、オカマなどの差別的暴言を受けたり、暴行を受けることになったので、男性の格好をせざるをえない状況だった。そのナオミさんの紹介で、この映画にも出演することになった。

―今回の映画では、隠し撮りという手法を使われています。
アッシュ監督
 まず明言しておきたいのは、センセーショナルな手法を用いるということが目的だったわけではない。先程も述べた通り、まずは証拠を残すということ自体が大きな目的だった。施設側が撮影を許可しないため、隠し撮りという手法を使わざるを得なかった。なお、隠し撮り自体には違法性はない。
 なぜ、入管施設収容者は犯罪者でもないのに、撮影禁止なのかという理由を何度も考えた。たとえ犯罪者であっても、意見発信は本来はできるべきなのに、なぜ収容者の発信に対して入管が拒否しているのか。目の前にいる人が死ぬかもしれないという思いから、隠し撮りに踏み切った。
 撮影禁止というルールに抵触することに問題意識を持つ人もいるかもしれない。しかし、私の親世代では、私の国では黒人差別が法の下で行われていた。人を差別したり、暴力的に抑圧するためのルールに迎合すること自体にも加害性はある。だから、まず目の前の証拠を残すために行ったということもあった。

―他施設についてはどうでしょう。
石川議員
 現在全国に収容施設が17箇所ある。この映画で描かれた問題は過去のものではなく、現在進行系の問題であることを認識してもらいたい。
 品川ではスリランカ出身の方(筆者注:個人名を出されていましたが、メモしきれませんでした)と出会いました。
 その方はハンガーストライキによる仮放免を得ましたが、1週間で再収容となりました。官給食を食べても嘔吐してしまう状態となっており、5ヶ月間に渡って食事ができない状態となっていた。仮放免中にはバナナ、野菜、素うどんなどは食べることができていたと仰っていたため、所長にも情報提供を行い、なんとか食べられるものを出してほしいという要望を出した。バナナの提供を約束してもらい、安心した。しかし、しばらくすると所長から、その方がバナナを食べないので石川議員から話をして欲しいと連絡があった。おかしいな、と思いながら本人と話した。そうすると、出てきたバナナが青くて、渋くて、硬い、とても食べられないものだったと言われた。入管による嫌がらせだと思った。入管によれば、そのようなバナナを好む外国人収容者もいるのだと言うが、衰弱した人にそのようなバナナを出すとは思っていなかった。結局その人は毎日点滴をすることとなった。普通の病院での入院であれば、刺した点滴の針を残しておくことができる。しかし、入管施設は病院ではないためできないと言われた。そのため、その人は100回以上の全身に点滴の針を刺されて、針の刺しすぎで血管が固くなっていた。本人も血管の痛みを訴えていた。
 また、長崎県大村の入管施設には大腿骨頭壊死にかかった収容者がいた。芸能人の千原ジュニアさんがかかった病気だが、手術による治療ができる病気だ。当然手術を希望したが、施設側が病気とともに生活している人もいるという理由で治療を認めなかった。そのため、当初は元気に歩くことができていたその人は、現在では寝たきりでストレッチャーでの移動を余儀なくされている。排泄もオムツでしている状況になってしまった。

※以下は、石川議員とアッシュ監督のどちらが発言された内容かメモが取れておらず、お二人が話している部分もあったと思います。

―映画中には隠し撮りだけではなく、制圧される収容者のビデオなどが含まれています。
 制圧のビデオやスクリーンショットは、入管側が撮影した素材です。私達は正しいという主張のために撮影されたのでしょうか。しかし、デニズさんやピーターさんの裁判のなかで開示請求などを通して公開されるようになったものだ。裁判所が出せといえば、入管も仕方なく出す。しかし、基本的には公開したがらないものだ。
 特にウィシュマさんの事件など、世論が盛り上がっているときにはこういう映像は出されない。これから裁判が進む中できっとウィシュマさんの事件についても映像が出てくると思う。

―解決に向けての活動はどのように行われていますか?
石川議員
 野党側としては法案を提出している。前国会は採決に至らず解散となったが、再度提出する予定。現在の入管職員による判断ではなく、第三者委員会による難民認定や、司法判断による収容の可否などを盛り込んだ内容となっている。
(筆者注:この部分については、パンフレットに詳細が記述されているため、あまりメモを取れていません。)

以下、客席とのQ&A

Q:ウクライナ難民を受け入れることになっているが、このような状況では就労の権利など自立した生活のための制度になっているのか。
A:デニズさんは就労の権利も保険もない状態。保険がないというと、3割負担の我々と比較して10割負担になると思われるが、そうではない。医療ツーリズム対策として、300%の負担となっている。医療についての負担は非常に大きい状態となっている。
 また、就労不可という状況は、周囲からの支援に頼らざるをえない。映画中に出演する被収容者は、日本への在住歴も長く、日本語もある程度使える人が多い。収容前は働くことができていた人達。その人達が、周囲に頼らざるをえないというのは個人の尊厳を傷つけられている状況である。労働人口減少の状態にある日本という国を考えたときに、働くことができる人を収容して税金を使っているという状況には疑問が大きい。
 ウクライナ難民が就労できるなら、他の人はなぜ認められないのか。根底にあるのは差別ではないかと思う。

Q:ウクライナからの難民は避難民という言葉で言い換えられている。シリア難民は難民だ。このあたりに違和感があるがどうでしょう。
A:難民認定をすると、基本的に永住権を与えることになる。だから難民という言葉を使わないのだと思われる。半年や1年で現在の状態が改善できるとも思えない。具体的な事例として報道されれば難民認定につながることもあるが、日本語も堪能な映画の出演者たちが認められていない現状は、リソースの無駄であると言わざるをえない。

Q:この作品の今後
A:まずは国外の映画祭などで評価を得て、その実績を下に国内での上映が行われている。まもなく40県での上映が決定する状況。この規模のドキュメンタリー映画としては公開規模が大きくなっていると言える。
 5月にはフランクフルトで行われる映画祭への出展も決まっている。問題は、監督が一度ドイツへ行ったあと日本に再入国できるかということ。
 私(アッシュ監督)のことは良いとしても、声を上げることが怖いという人も多い。参加した人も恐怖を感じている。日本人が声を上げてほしい。

Q:なぜ彼らはハンストという手段を選ぶのか
A:ハンストをしたいのではなく、仮放免のために他の方法がない状態まで追い詰められているということを理解してほしい。
 入管としては、死なれると困る。仮放免の理由として病気療養のためというものがあるが、意識して病気になることはできない。ある意味ではハンストによる飢餓状態は、自分の意志で起こすことができる病気とも言える。注意してほしいのは、2度3度と続けてしまえば、ハンストによる内臓その他身体への影響は非常に大きい。それでも彼らは仮放免のために仕方がないという状態にある。

―今後、観客はどのように行動できるでしょうか。
 当事者の支援や、寄付、イベントなど参加するきっかけとしてほしい。投票も必要だ。まずはこの問題を広めてほしい。

―最後に一言ずつお願いします。
アッシュ監督
 映画の目標は、この映画を観た皆さんが普通の生活に戻るということではありません。なにか一つでも、この問題に対して行動につなげてほしい。
石川議員
 この問題は、外国から日本にやってきた人たちのものではありません。私達日本人の問題です。そして民主主義の問題です。

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