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反吐食み へどばみ

どうも。

自分でも少しまずくなってきたなと思う。

なにがって?
拗らせ方についての話だ。

ここ2ヶ月ほど、かなり調子のいい心地のいい波が心と脳みそを支配していた。
ところが、少しばかり疲れがでたのか、少しばかり荒っぽい波が増えてきた。
気疲れ、心労のようなものと言い換えてもいいだろう。
俺は、どうも平衡を失いつつあるのかもしれない。

ほとんど毎日酩酊しながら目を瞑って歩いているような生き方をしているから、電信柱に頭をぶつける頃だろうな、とは薄々感じていた。
今回きた引き潮はかなり大きく、重いものだった。

収斂の時間だよ。

と言わんばかりに、徐々に広げていた腕を無理矢理に引き摺り込むような大きな大きな渦に飲まれそうになってしまった。

手元に中嶋らもと村上さんの本、青空文庫にボードレールと萩原朔太郎がいなければ、もう既に僕は渦の直下で肺を黒い水で満たしながら悶えていたかもしれない。

今日、夕立があったらしい。
おかげで、夕方自転車を漕いでる時の空気は適度に冷えて、とても澄んでいた。
初めて雲が山を登るのを見た。
その地点では雨が降っているんだろうな、と思いつつもその光景には思わず息を呑んだ。

死ぬにはいい日だ。

でも今日じゃない。
少しもったいないような気がしてくる、そんな夕暮れを見てしまった。
山に半身を隠す太陽と、その影を背負う雲たち。
俺が宗教者なら何かしらの天啓を得ても不思議じゃないほどの光景だった。
そんな景色を見ながら、煙草をふかしているだけで、全てがどうでもよくなってしまった。
絶望さえも。

痛みには種類がある。
流血、吐血、喀血、瀉血…。
血を使った言葉だけでもいくらでも出てくるのだから、痛みの種類は三者三様十人十色だろう。

痛みの種類は違えども、痛みの記憶は役に立つ。
何度かこければ、足元の小石には気を付ける。
階段を踏み外せば、スマホをいじりながら歩くのをやめるようになる。
腕に刃を入れれば、身を焼く熱さに嫌気がさす。

痛みはよくできた脳の仕組みだと思う。

これほど、慣れるのに時間がかかりそうなものはない。
空腹の時に襲われる胃痙攣とは、20年弱付き合っているが、未だに慣れることができない。


僕は反芻をよくする。
とはいえ、牛がやる、直接的な意味ではなく、思考の澱を一度書き出して理解できる形に直して、また脳に焼き付けるという手順だ。

ここ2ヶ月でメモからノートから日記帳まで、紙とコンピューターを使って5万字ほど言葉を吐き出した。
そしてそれを何度も何度も何度も何度も反芻している。
その結果、脳にこべりついてはなれなくなってしまった。
「自分の思考回路」というやつが。

別に悪い気はしていない。
むしろ、そういう反復でしか習得できない類のものを手に入れることができたのだから、喜ばしいことなのだろう。

四畳半で引き起こす酩酊からしか、得ることのできない天啓もあるということだ。
環境が変わるのはいいことだ、つくづく思う。
振り返れば、いままでは逃避の末に環境をシャッフルする生活を送っていたが、社会性を獲得するためにこういう生活を送るのも悪くはないだろう。

使い所のない愛で溢れている、漏れ出している。
だから、それもまた反芻する。
自分を愛して、大切にする毎日を送っている。
見えない血が流れ始めたら、酒を飲む。
酔いが回れば空を見る、月が出てれば万々歳、月見酒の始まりだ。

ナルシシズムが年々ひどくなってきている、とはいえ疲れている時の顔は好きになれない。
鏡を見るたびうんざりする、こんな顔で生きているのか、と。
根幹は凡庸であれど、凡に生きるのはどうも忍びない。

そんな日は、早めに風呂に入り、長めに睡眠を摂る。
目覚めて鏡をみれば、寝る前よりは幾分かマシな顔がそこにある。

鏡は好きだけど嫌いだ、我が人間性と同じくらい。
見るたびに確信する。
これが、俺の顔なんだって。

俺はそれがとても辛い、寝不足の日は。

こうして掻き出していると、反吐も形を帯びてくる。
さながらロールシャッハテストだな。
あんたにはこのゲロがなにに見えてるんだろうな。

哀れな独白なのか、はたまたラリ公の奇文か。
俺にはいつもの日記となんら変わらない、少し胃の内容物の違いでゲロの色が違うなあ、といった程度のものだ。
俺は、どうも俺を愛して止まないらしい。
くだらねえ。

どこまでもどうしようもない男のどうしようもない覚書なのはわかっている。
でも書かないといられないんだ、頭の真ん中から次から次から溢れ出てくる言葉たちに責め立てられるんだ。
おかげで気分はさっぱり超クリア。

ここまで読んだ蓼食う虫に、今夜の快眠を祈ろう。
酒盃をかち合わせよう。
高らかに音を鳴らそう。
神が人間に与え給うた液体に感謝を込めて。

乾杯。

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