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「夢見る力」、市川猿之助に代々受け継がれるスピリッツ

「関羽の台詞ではありませんが、この先どんな困難が待ち受けていようとも諦めることなく、己の夢を追い続けるのだ・・・、で頑張って下さい。」

この言葉は、約20年前、佐藤柔心齋の二代目襲名の時に、歌舞伎の三代目猿之助さん、現、猿翁さんが襲名披露の日に、手向けてくださった言葉です。

この頃、猿翁さんは三代目猿之助として、スーパー歌舞伎、三国志の開幕の最中でした。スーパー歌舞伎は、スピード、スリル、スペクタクルの3Sからなる現代歌舞伎で、今まで類を見ない歌舞伎として、猿翁さんにとっても大きな挑戦でした。

このスーパー歌舞伎の「新三国志」の中心を貫くテーマが「夢見る力」です。人間の高潔な志、人間の誇り、そして平和を祈り、真の理想郷を築く、その夢に掛けた三傑の生きざまを鮮やかに描いています。

夢見る力とはなんでしょうか?私は自分を信じる力であると思います。ゴールに到達することよりも、そのプロセスこそが大切であるということだと思います。猿翁さんは祖父、父を相次いで亡くされ、孤軍奮闘、歌舞伎の理想郷を築く夢を、自分の力を信じて、走って来たのではないでしょうか?スーパー歌舞伎を成功させる道のりには、何度も超えられない大きな山が立ちはだかったことでしょう。諦めそうになったこともあった?かと思います。でも「夢見る力」、自分を信じる力でそれに打ち破ってこられたのだと思います。

武道でも、この「夢見る力」は同じだと思います。命の危機にさらされたら、自分の力を信じて、最後は捨て身で戦うことだけです。

私自身も、苦しい局面に遭遇した時、なんども諦めそうになりましたが、この言葉を思い出して何とか乗り切って来ました。猿翁さんに、この言葉をいただいたことを心から感謝しています。

「夢見る力」は猿翁さんのスピリッツだと思います。彼の生き様そのものといっていい?かと思います。それはちゃんと四代目の猿之助さん、中車、團子さん、澤瀉屋(おもだかや)のお弟子さん達にも受け継がれていると思います。去年、新三国志が再演になった時には、サブタイトルで使われていますし、若手が演じる公演の題名もまた、「夢見る力」でした。

役者は人に感動を与える仕事だと猿翁さんはインタビューでも答えています。感動とは何でしょうか?それは役者の放つエネルギー、気迫だと思います。役者の放つほとばしるエネルギーは、私たち観客にも伝染し、矢も盾もたまらないような、気持ちになって来る。その気迫を受けると、落ち込んでなんていられない。私も何かできそうだ、という気持ちになって来る。勇気がじわじわ湧いてくる。そういう気持ちにさせる。これが人に感動を与えられる真の役者なのだと思います。

そして、その意思を受け継いだ四代目、猿之助さんがスーパー歌舞伎Ⅱで演じたワンピースをご覧に成った方も沢山いらっしゃることでしょう。私もその一人です。ほんとうに理屈無くおもしろかった!提唱した3Sに加え、音楽に乗ってタンバリンを叩くなど、また公演の後半ではそのタンバリンを役者と交換するなど、正に元気が出る!歌舞伎でした。ストーリーも素晴らしかったけれど、やはりあの歌舞伎は猿之助さんの役者魂があったからこそ。澤瀉屋(おもだかや)のスピリッツ、「夢見る力」の結実が観客の皆の歓喜と呼応して、大きな渦を巻き起こしたのだと思います。これが澤瀉屋(おもあかや)の「夢見る力」の伝承、結晶そのものです。きっと、誰もが次なる展開を心待ちにしたはずです。

現在、澤瀉屋(おもだかや)は危機にたたされています。存亡の危機です。四代目、猿之助さんは、今、どのようなお気持ちでいるのか、推し量ることさえもできません。掛ける言葉も探せません。でも、この状況を、猿翁さんのスピリッツを受け継ぐ人達、隼人さん、團子さん、中車さん、澤瀉屋(おもだかや)の皆さん、関係者の皆さん、支えてくれたファンの方達、皆が必死に、各々が力を出し切って、そして、団結して必死にまもっていると思います。千秋楽で中村隼人さんが涙ながらに、ご挨拶されたように、いつか、四代目、猿之助さんにも、会えると信じています。

猿翁さんからいただいた「夢見る力」、この言葉は私にとっても生涯の宝です。二代目、佐藤柔心齋を引き継ぎ、これまで武術を続けてこられたのも、この言葉のおかげです。澤瀉屋(おもだかや)の復活を心より願い、「夢見る力」を信じて、精一杯、心からのエールを贈りたいと思います。

市川團子さんの後援会での記念撮影



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