シャポー チホレーヌ鎌倉 / さかうち千帆
Sheep to Hat
羊から帽子になるまでのいくつもの工程を大切に、ひとつひとつ真心を込めて手作りしているウールフェルトの帽子です。
羊の毛の房の羊毛繊維一本一本を、透けるほど薄く並べ、わずかな水分と手から伝わる振動で羊毛が徐々に密に絡まって、やがて立体的なひとつなぎの帽子に変化します。
手のひらに想いを込めながら、指先の力加減で切ったり縫ったりすることもなく形作ります。
だいたい20くらいの品種・毛色の羊毛と絹で、ひとつずつ帽子の色をつくっていて、色合いや風合いがどれも違います。
皆さんが想像するフェルトとは、製法も手触りも軽さも全く違うハンドフェルト帽子です。
始まりのフェルト帽子と、これから。
私のフェルト帽子作りは、祖母に作った若草色のフェルト帽子とショールから始まりました。嬉しそうに、少女のように目をキラキラさせて帽子をかぶっていた幸せな記憶が今のフェルト帽子作りの基になっています。
私が作りたい帽子は、四季折々に、好い日、うれしい時を運んでくれるような温もりあるフェルト帽子です。
帽子と過ごす幸せな時を思い浮かべては、帽子をかぶって出かけることが待ち遠しくて、明るい気持ちになったり、これから楽しいことが起きる時のような、わくわくした気持ちになったりしていただけたらとても嬉しいです。
チホレーヌの帽子とこれから巡り逢う誰かとの幸せな時間を願いながら、ゆっくりゆっくりと制作を続けてゆきます。
制作と、待つ時間。
空の青、海の青にウールのフェルト帽子を染めたくて、室町時代から伝わる伝統工芸の本建て正藍染をしています。
薄い薄い空色から染め始めますが、お日さまに当ててたくさん干す時間や、繰り返し染め重ねるために日や月をおいて色の定着具合を見る時間、藍甕の中の蒅と木灰の灰汁が醗酵するのを待つ時間など、じっくりとゆっくりと、少しずつ変化する様子を見ながら、いろいろな待つ時間が必要です。
染めている時には水面に音も立てず水紋もなく静寂で、自分自身の心と染めに向き合う時間でもあります。
また、鎌倉の空に響くイソヒヨドリの美しく澄んだ歌声に誘われて外に出てみれば、雲が太陽の陽射しに輝いていたり、草花の新しい芽が出ているのを見つけたり、落ち葉を色の手紙と拾い集めたりと、制作の合間の心のワクワクがデザインのインスピレーションになっています。
描くこと、画材。
フェルト帽子を作る前にデザインのスケッチをしています。心に浮かんだ帽子のイメージや色合いを一度紙の上で表して確かめるためです。
その際に使っている画材は南仏ルシヨンのオークルなどの天然顔料や、湖水地方のDerwentのパステル色鉛筆などです。どれも、旅の想い出とともに愛用しています。
絵が得意な訳ではないのですが、帽子の箱の絵を描くことも好きです。初めて作った帽子の箱には、PanPastelで描いたニュージーランド南島の羊と大好きな青いテカポ湖を描きました。十二角形の手作りの帽子箱です。