【タカマ二次小説】廻り舞台と紡ぎ歌#17 最果ての村から
颯太が川岸に降り立った頃。
クルシナ山地のはるか彼方、
西南の果てにあるサハテの村の、
赤土がむき出しになった道端で、
泰造がどっかりと座りこむ。
頭上からは燦々とした陽光が降り注ぎ、
地面はその熱を吸収し、干上がっている。
「腹減った……。水と食い物、
転がってねぇかなぁ……」
ぼんやりと呟いて見上げた空には、
綿菓子のような白い雲。
思わず、よだれが垂れそうになる。
(あっぶねぇ~。こんなとこ、
鳴女さんには見せらんねぇな……)
泰造は慌てて口元を拭う。
彼は、鳴女の生まれ変わりが
必ずどこかにいると信じ、
多くの町や村を捜し歩いているのだ。
しかし、未だにそれらしき人物には
めぐり会えないまま、
手持ちの金と食料が底を尽いてしまったのだ。
泰造が気合を入れ直そうと、
自分の頬を叩いたその時だった。
はるか空の彼方から、何かが泰造目掛けて
凄まじい勢いで飛んでくる。
「何だ……!?あれ……!!」
エイリアンの襲撃か!?と思い、
腰を上げようとした次の瞬間。
それはゆるゆるとスピードを落とし、
地面に座り込む泰造の足元に
軽やかに降り立った。
燃えるようなルビーの瞳。
見る角度によって色を変える
煌びやかな錦の翼。
(こ、これは……)
これは、まさに。
「鶏肉っ・・・…!!」
目の色を変えて、
今度こそ本当によだれを垂らしながら、
飛び掛ろうとする泰造に
殺気を感じたのだろう。
足に羊皮紙を結わえ付けたその鳥は、
驚いて後ずさり、
近くの民家の屋根へと飛び移る。
泰造がその後を追って、
民家の塀をよじ登ろうとしている隙に、
その鳥は自分の足に結わえられた手紙を
くちばしで器用に解き、
泰造の目の前に放り投げた。
そして、慌てたようにものすごい勢いで
上空へと舞い上がり、
猛スピードで飛び去ってしまった。
「待てっ!!オレの鶏肉っ!!!」
ちくしょうっ!!と地団太を踏み、
空を睨みつける泰造の足元には、
不思議な鳥が放り投げた一片の羊皮紙。
何かと思い、拾い上げてみると、
そこには何やらでかでかとした文字が書かれている。
「え~っと……、都(リューシャー)に……、
なんて書いてあるんだ、これ……?」
昔から、学校には行かずに
賞金稼ぎとして各地を渡り歩いていた泰造には、
地名と数字は読めても、
それ以外の文字が読めない。
羊皮紙いっぱいにでかでかと書かれた文字を見て、泰造は頭を捻る。
「よくわかんねぇけど……。
とにかく都(リューシャー)に行けば良いってことか……?」
そう結論を出して、
都(リューシャー)に帰ろうと心に決める。
都(リューシャー)から最も離れた、
このサハテの村から、
お金も食料も無い中、
どうやって都(リューシャー)まで戻るのかが
問題ではあるが、
そこは体育会系中の体育会系男。
体力勝負の難題を仕掛けられたら、
受けて立つのが泰造なのだ。
忍び、物乞い、野宿、忍耐。
ありとあらゆる方法を駆使して、
このサバイバルゲームを成し遂げてみせると
闘志を燃やす。
「ったく、世界を又にかけるのも楽じゃないぜ……」
少々使い方を間違っているような気がしないではないが、
まあ、いっか、と呟き帰路に着く泰造だった。