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ボクシングのプロテスト不合格だった理由

10年くらい前だったか、まだ学生だった僕は一人でボクシングプロテスト会場である後楽園ホールにいた。

早めに行ってリングでシャドーして身体を温めてリングの感触を掴んでおけとジムの先輩からのアドバイスで、バンテージを巻いてすぐ様リングへ

思ったよりマットのクッションがプニプニしてたのを覚えている。続々とテスト生がリングに上がってくる。みんなどれくらいの実力があるのだろう。

シャドーを見ただけで、あっ、こいつは自分よりうまそうだ、こいつは自分と同じくらいかなとか周りのテスト生を見ながら身体を動かした。

その時感じた…こいつはボクシングに賭けてる。そんな目をしてるテスト生が何人かいた。

しばらくして試験の係員にテスト生が全員集められる。先ずは筆記試験があった。小さめの部屋で15分くらい、試験の内容はボクシングのルールや基礎的な用語○✖️形式や選択式の問題だった。

最後に好きなボクサーはという問題があった。僕は元世界二階級制覇チャンピオンの畑山隆則が好きだったが隆則の漢字が自信なかったのでしょうがなくセレス小林と書いた。

テストの出来に自信はなかったがプロテストの合否は実技試験を重視してるのであまり気にしていなかった。筆記試験が終わり会場で待機をしてると僕ともう何人か係員の人に呼ばれた。筆記試験の結果が酷かったらしい…

ちゃんとボクシングのルールを勉強して来たのか?100点を取ってる練習生もいるんだからと結構キツく言われたのを覚えている。6割くらいの出来だったようだ。

焦った…これで落ちないよな?実技試験で挽回しないと合格はないと思った。

この後、体重測定や、医師の問診があり体重別に実技試験の相手選手が決まった。係員から言われた、プロテストは世界チャンピオンの登竜門です今活躍してる世界チャンピオンも皆このプロテストを通っていますと。

プロテストでは基本的なディフェンス、ガードやフットワークが出来ているか、攻撃に関してはジャブが出せているか、ワンツーが正確に打ち込めるか、手数をしっかり出してとのことだ。

係員からの説明が終わると実技試験の相手と握手するようにと言われ握手した。

相手は自分と体格は同じくらい、計測では僕の体重は56kgちょっと、階級はスーパーバンタムくらいだ。相手のことを少しでも知ろうと僕から話しかけた。相手も始めてのプロテストみたいだ。

ちょうどその頃ジムのマネージャーも会場に到着そして…

会場には何人か見慣れた顔を見つけた。地元の友達だ。プロテストは関係者以外立ち入りや見学は出来ない。が別にバレないんじゃないかと僕は地元の友達や学校の同級生をテスト会場に呼んでいた。明らかに関係者ではないのに良く返されなかったと思う。


僕がボクシングを始めたキッカケはテレビのガチンコファイトクラブだった。不良が三ヶ月でプロボクサーになるという番組だ。以前からはじめの一歩や、ゲームでボクシングは好きであった。

高校生になり、塾で知り合った他校の友達と地元のボクシングジムに入門した。楽しかった。昔から無理やり習い事をさせられたり、自分からこれをやりたいと始めたのはボクシング学生始めてだった。

やがて友達がボクシングを辞めると言い出し、僕も1人でジムに行くのはなんか寂しいなと思い勇気が無かった。だが気付いたら1人でジムに向かっていた、人見知りの僕は気まずく感じた。

やがて少しではあるが周りとも打ち明けられボクシングをやるのが楽しくなって来た。20歳を超えたくらいだった。ジムのマネージャーからプロテストを受けないかと言われ嬉しく思った。

こんな僕でもボクサーになれるかもしれない。試合をする気は無かったがライセンスを持っていたらカッコイイ。

だが課題はあった僕はボクシングはやっていたが、週3日程度、タバコは吸ってたし、食べるのが好きで太っていた。67キロはあった。

調度その頃バンドをやっていたがボーカルが留学し、暇な時間が多かった。覚悟を決めて健康診断を受けプロテストの申し込みをした。

それから生活が変わった。バイトをしていたが必ずバイト前にジムに練習に行った。食事も炭水化物は取らずお腹が空いたら枝豆に塩を振って食べるか、豆腐に醤油やふりかけをかけてしのいだ。

甘いものが欲しくなった時はスーパーに売ってる金時豆の甘煮を食べた。夜は走った。

タバコはやめれなかった。学校でタバコを吸いながら友達と話せなくなるのが嫌だったから。

体重はみるみるうちに減っていき、顔つきも変わっていった。俺でもできるという少しの自信にもなった。ただ今思えば甘かった。本当に。

いよいよプロテスト

プロテストの実技試験は軽い階級からはじめられた。みんな本気だ。ガンガン手数を出す。僕はイメージトレーニングをして観戦していた。

番号が近くなり、一気に緊張して来た。ジムのマネージャーとお手伝いに来てくれた練習生がグローブをつけてくれる。ヘッドギアをし、ファールカップをして準備した。

グローブの中が破れて棉が指先に当たる。16オンスの大きく重いグローブだ🥊番号が呼ばれてリングに上がった。

カーンとゴングが鳴り、心の準備を待ってくれなかった。相手のいきなりのパンチを避け思いっきり右を振った瞬間…ストッープ

レフリーが止めて何か言っている。大振りしないで倒すパンチは要らないから、試合じゃないから

そんな大振りしてたのか、後から、見に来ていた友人に聞いたところ殺す勢いの右フックを打っていたそうだ。緊張して固くなっていたのだろう

それからの実技試験は無我夢中だった。ボデーのストレートをたくさん打った。パンチは何発かもらった。2ラウンドやったがスタミナは問題なかったと思う。

リングの上のライトが眩しく暑うくらいだった。終わった。合格とは思えなかった。

だが清々しかった。こんな俺でもプロテストを受けたんだと、

持参していたサーロインステーキ入りおにぎりを食べながら見に来ていた友達と少し話した。白目しは一ヶ月ぶりだった。ジムに借りていたヘッドギアとファールカップを返しに行った。

ジムの会長がいた。うまく出来なかったです。浮き足立っていたとマネージャーにも言われた。

もう一度プロテストを受ける気は無かった。会長に今までありがとうございましたと挨拶をした。練習は続けなよ。ジムに通えよと言われたが、はい、としか答えず、ジムを後にした。

その日の夜、焼き鳥居酒屋ですたらふく食べて飲んだ胃が小さくなっていたので苦しかったが空腹と今までの食事制限の解放から食べ続けた。

友達が僕の実技試験を携帯で録画していたのでそれを見て盛り上がった。合否は明日後楽園ホールの掲示板に張り出される。ジムにも連絡が行くとのことだった。

僕は少しの期待と諦めがあったので堪らずボクシングコミッションに昼くらいに電話してしまったすぐに合否を教えてくれた。

不合格、あたまが低い、ワンツーが不正確、以上だった。

あれから10年、たまにプロテストのことを思い出す。もっとこうしてれば、もう一回受ければ受かったかなとか、だがな最後は甘かったなと

プロボクサーは甘い世界ではない。命をかけて相手を殴り、試合で胃のを落とす選手も年間数人いる。チャンピオンになれるのは一握り。

そんなボクサーを真剣に挑もうとしてる人がプロテストを受けるのである。ちょっと一ヶ月くらい本気になっただけで、タバコも辞めれず、プロテスト会場に友達を呼ぶ。完全にナメていたのだ。

合格するわけがない。同じプロテストを受けたテスト生の目は未だに覚えている。記念受験の自分とは明らかに目指す所が違っていたのである

ボクシングだけではない。本気でやる人しか、本気で目指してる人にしか何か成し遂げるなど出来ないと教えられた。

これからの人生もずっとこのプロテストの不合格の経験は忘れない。この経験が今結構生きてたりするのだから。

ボクシングありがとう。

全てのボクサーを尊敬します。

人間として、男として、

2018/12/30

トリプル世界戦みんな頑張れ‼️

久々にテレビで世界戦がゆっくり見れるので今から興奮。昔の自分を書きたくなったのである。


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