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存在証明

ファントムペイン、聴いたことはあるだろう?切り落とされた筈の身体の一部が、ない筈の身体の一部が痛むんだ。シクシクと、ズキズキとね。失ったことに脳がついていけないんだ、もう無いのに、受け入れられないんだよ。

え?頭が痛い?アスピリンをやろうか。え?いらない?強情だな、君は。だから頭痛がするんだろうね。緊張性の偏頭痛だろう、君のお得意のさ。常に肩肘張って、肩を怒らせて、それじゃあ頭痛もするだろうさ。去勢不安が強いんだろう。自分を強く見せたいんだ、君は。

ん?ああ、そうだった、ファントムペインの話だったね。脳が適応できないなら、適応できるようにすれば痛みは和らぐんじゃないか、医者たちはそう考えたんだよ。患者に鏡を与えてみたり、アーティフィカルリム、義肢を着けてみたりね。でもダメなんだ。痛みは取れないんだ。

失った心の痛みとリンクしてる?そう、だからサイコセラピーを受けるという方法もある。認知を変えるという方法さ。でもね、変えたくないんだよ。ファントムペインはね、今は失われた身体の一部が確かに存在した証なんだよ、存在証明なんだ。

目の前は銀世界。頬を切りつける凍てつく風に我に返ったわたしは、キラキラと乱反射する陽射しの中に横たわる男を見下ろす。わたしの失われた身体の一部、透き通るように青白くなったその頬と唇にそっと手を伸ばす。

頭痛がする。


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