ズキリ!罪とは
ただの昔話です。
夏が終わっちゃってそろそろ秋だな〜と思いたいのに相変わらず毎日暑いままでやんなっちゃいますね。でもこうやって何も変わってないみたいなフリをしながら気温はきっといつの間にか下がってて、それはそれで「ウインカー出せや!寒い!」ってわたしはキレてるんだと思います。そういう環境へのワガママは地球に生まれた自我のある生物の特権ですね。
そして本題は季節とか全く関係のない、昔の「生きてる心地しなかったな〜」って思い出の話です。
小学生の頃、わたしにはそれはそれは大好きなお友達がいました。A子ちゃんとしましょう。低学年で同じクラスになってから毎日遊ぶくらいには仲が良かったです。マンションの階段下のスペースに秘密基地的なものをつくり、私物を置いて普通に撤去されてました。大人からしたらとても迷惑な遊びですね。町内会の集まりも一緒に行って、もらった駄菓子の詰め合わせをエントランスでむしゃむしゃ食べながらおしゃべりするんです。
そんな素敵なフレンドがいた訳ですが、彼女はちょっと変わっているというか、人を惹きつけるカリスマ性のようなものがありました。簡単に言うと、皆彼女を好きになってしまいます。小学校の6年間だけで、彼女の友達になった子が彼女に執着するあまり束縛が激しくなって絶縁……みたいな流れを何度も見ました。その一端がメインテーマです。
中学年くらいの頃、A子ちゃんとはクラスが分かれました。そして彼女はその先で新しいお友達をつくってわたしに紹介してくれました。B子ちゃんとします。
がしかし、その子はもうびっくりするくらいにA子ちゃんにべったりだったので、自分より先に仲が良かったわたしのことが気に入らなかったようです。小学生ならよくあるいざこざなのかなーと思います。
まあご想像の通りなのですが、クラスも違うくせにA子ちゃんの隣にいたわたしはB子ちゃんからバチクソに嫌われ、露骨というかもう隠す気が全くない嫌がらせをされました。いじめではないし小学生なので全然大したことはないです。すれ違いざまにドンッとぶつかったり、皆で一緒に遊ぼ〜を拒否されたり、普通に嫌い!って言われたり、そんなんです。多分わたしより間に挟まれたA子ちゃんのほうが疲弊してたと思います。仲裁しようとした先生に別室に連れていかれてお互いごめんなさい(?謎すぎる)をして仲直りしたと思ったら、数ヶ月するとまた嫌い嫌い攻撃が始まるというよく分からない日々を過ごしておりました。
で、わたしはというとそれに本当に傷つき……ということは全くなく、ケロッとしていました。こう、なんでかって言われたらまあ答えは1つです。わたしも嫌いだったからです。別に嫌いな人に嫌い!って言われてもはぁ、そうですかとしか思いませんよね。そういうことです。
そう思っていたのですが、ある日自分の中で突っかかりをおぼえます。別のお友達から「B子ちゃんはほんとうにひどい!関わるのやめとこうよ!」みたいなことを言われました。その時こう答えました。
「そうかな?わたしは仲良くしたいけどね。」
家に帰って思いました。
大嘘つきすぎる。
仲良くなりたいとかそんなこと思ってる訳ないし、というか多分B子ちゃんがわたしをそう思っているようにわたしはB子ちゃんのこと嫌いだし。
でも後から自分でなんで?って思うくらいその言葉はするっと口から出てきたんです。流しそうめんのような勢いで。
そして考えているうちに気づいちゃったんですよね。気づいていたことに気づいてしまいました。多分わたしはB子ちゃんに嫌がらせされてるっていう立場が便利だと気付いて、わりと気に入ってたんだと思います。
はっきり言ってしまうと、B子ちゃんはあまり頭が良くなかったです。人への加害性を常に顕にしているような人には当然人が集まりませんから、わたしがえーんって泣いて、それでもB子ちゃんと関わるのをやめないバカでいればいるほどB子ちゃんは孤立するのです。でもA子ちゃんがほしいB子ちゃんはそれでA子ちゃんが辟易してるのにも構わずわたしに攻撃するんですね。そうしているうちにわたしのA子ちゃんへの重い気持ちも相対的に軽く見えますし、まともにも見えます。A子ちゃんと親密な仲になった子は大概1年か2年で消えますが、わたしは異例の4年間のお友達です。そういうずるい自分を悟ってしまって、わたしって性格悪すぎるのでは?とその日の夜はなんだか脳みそがギラギラしていました。それが初めての内罰的な気持ちだったと思います。
そして、そう思ったらB子ちゃんのA子ちゃんへ向けられた気持ちの真っ直ぐさにびっくりしてしまいました。あの子はA子ちゃんが遠のいてるのにも気付かないで求愛行動を続けているわけです。常識じゃありえないことですね。そういうおバカなB子ちゃんを利用している自分がとてつもなく醜いなと、その日から思うようになってしまいました。
小5の終わりくらいにはB子ちゃんとの関係は先生の働きかけもあって落ち着いていました。文通なんか始めてました。わたしは相変わらずB子ちゃんのことは好きではありませんでしたが、ちょっと前まで敵対視していた相手に健気に手紙を送ってくれるB子ちゃんに多少の愛らしさを感じていました。やっぱり彼女はどこまでも純粋です。
なのですが、まあ物事がそう簡単に上手く運ぶことはないです。小6のクラス替えで、わたしとA子ちゃんだけが同じクラスになってB子ちゃんは離れてしまったのです。
5月の初めくらいにポストに入っていた手紙、見返しこそしませんがあまりにも衝撃を受けて未だ捨てられず取ってあります。要約すると「死ね。手紙は捨てるだけなので送らなくていい。」ということでした。その歳にしては少し不格好な字で物騒なことを書くものですからアンバランスさにちょっと笑ってしまったのをよく覚えています。せっかくの可愛いすみっコぐらしの便箋が台無しだこりゃ。
そして、この時の自分の感情が更に自己嫌悪を加速させたのでした。わたしはこの手紙を見て高揚感をおぼえたんです。この切り札があったら完全にA子ちゃんとB子ちゃんの仲をぶった斬ることができますから、とっても良いネタなんです。期待を裏切らないB子ちゃんの愚かさによろこんでよろこんで、その後で、いや最低〜〜〜!!!と死にたくなりました。B子ちゃんがやったことを許すとかそういう話ではないです。悲しいとか傷ついたとかそういうことより先にその気持ちが来てしまったことに、なんだかもう嫌になってしまいました。B子ちゃんくらい純粋だったらこのなけなしの攻撃に一丁前に傷つけたんだと思います。
それから卒業まで、B子ちゃんとは何も、なーんにもお話をしませんでした。なんだかB子ちゃんが怖くなってしまいました。わたしが持っていない純真さと狂気をあの子は持っています。
中学校に上がって、渡り廊下でB子ちゃんと目が合ってしまいました。すぐに逸らして露骨に、滑稽に避けようとしてしまいました。そうしたらB子ちゃんがこっちに向かってくるんです。びっくりしました。
わたしを見て一言「もういいよ。」と言うんです。意味がわかりません。そのことを友達に話します。「何それ!許すのはあんたの方じゃん!」そうですよね。そうです。でもわたしにはなんだか、その自分の立場も全く理解していないB子ちゃんの言葉に、とんでもない敗北感というか、情けなさというか、何かを感じとってしまって。
すごくこわかった。
だいぶ前にA子ちゃんとお話しました。夜に急に散歩に誘って、ふらふらと歩いているうちに公園に行き着いて、すっかり低くなってしまったブランコに腰をかけて昔話をしました。今でもB子ちゃんの夢を見るそうです。仲直りして、普通に遊ぶ夢。A子ちゃんにそういう傷を残せた彼女はある意味強かったなって思いながら、わたしは「そうだったらよかったね。」って思ってもないことを言って慰めるのでした。