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「マネー・ボール」と競争戦略

ブラットピット主演の「マネーボール」という映画をご存知の方は多いと思います。

この映画には同名の原作「マネー・ボール」があり、今回はそちらのお話です。

二年生の秋学期に履修した「Competitive Strategy」のWeek 1のディスカッションテーマがこの「マネー・ボール」でした。原作の一部分をまとめたThe New York Timesの記事と映画のワンシーンを元に、主人公ビリー・ビーンの「戦略」をディスカッションする、というものでした。

春休みになって時間が出来たことで、その時のディスカッションがふと思い出され、授業の復習も兼ねて原作をしっかりと読み直しました。ディスカッションのメインテーマであった戦略的な側面に加えて、如何に物事を科学的・分析的に捉えるか、という意味でも非常に学びが多かったです。

以下、三つの側面から簡単に気づきや学びをまとめてみたいと思います。

科学的・分析的なモノの見方について

まずこの本で語られるのは、「スカウト」の非科学的・非分析的なアプローチへの疑問です。スカウト自身の経験と知識、想像力に過度に依拠し、しまいには「あいつは見た目が…」などという始末。そこでビリー・ビーン率いるアスレチックスは、膨大なデータと冷静な分析から、なるべく客観的な目線で選手を評価する手法を編み出します。結果、アスレチックスは限られた予算の中でも効率的に選手に投資をすることに成功し、常勝軍団へと生まれ変わるのです。

と、ここまではよく知られているストーリーかと思います。私が本を読んで改めて感銘を受けたのは、「データの解釈・示唆の重要性」です。「データは主役ではない、主役は解釈である」「数字が何かを語る言葉にならなくてはならない」という言葉は、これから先常に心に留めなくてはいけないと強く思います。会計士時代、大量の仕訳データに埋もれていた自戒も込めて。

競争戦略について

この本はアメリカのプロ野球が舞台ですが、Competitive Strategyのケースとして取り上げられていることからも分かる通り、競争戦略的な視点でも気づきや学びが非常に多かったです。

一貫して語られるのは、差別化の重要性、特にリーダーと同じことをする危険性です。「ヤンキースは三倍の資金を持っているのだから、ヤンキースの真似をしたらヤンキースに必ず負ける」というのは、野球だけに限らず、全てのビジネスに当てはまる重要なポイントだと思います。

そこで大事なのは、メインストリームではない自分の立場をむしろチャンスと捉え、従来の固定観念を打ち壊すこと。ポジショニングによる差別化、(特にリーダーに対して)経営資源がない中ガチンコの競争を仕掛けに行かないことは競争戦略の基本ですが、改めてこの本を読んでその大切さを実感しました。

Competitive Strategyでの学びについて

Competitive Strategyの授業では、「マネー・ボール」の事例を通じて、「競争環境・業界構造の変化の活用」を学びました。

そもそも、なぜスカウト達はデータに頼らず、自分の審美眼に頼っていたのでしょうか。それは、野球が生まれたときにはデータドリブンなアプローチが不可能だったからです。そもそもデータがない。データがあっても分析に必要なパソコンは普及していない。そして、分析・統計技術がない。野球は長いこと、スカウトの経験と勘に頼らざるを得ない時代が続きました。

そのような状況は、パソコンの普及により一変します。加えて、本でも記載がありますが、データが分析可能な形に整理・蓄積されたことも大きいです。ここで、従来のやり方に囚われず、環境変化を見抜き、分析的アプローチをいち早く取り入れたアスレチックスは、投資対勝利数という観点で圧倒的な競合優位性を獲得しました。

つまり、競合環境や業界構造の変化を活用することが、競争優位につながる、という学びです。

それでは、今後このようなデータドリブンなアプローチがほかのチームにも普及した状況を想定してみます。当然、分析的アプローチ自体が競争優位を生むことは最早ありません。競争環境として、Equilibriumの状態に収束し、プレイヤーは次の環境変化へ備え、対応するフェーズになるのです。

まとめ

MBAで学ぶことのメリットの一つが、教授から紹介、あるいは課題として共有される質の高い文献の数々だと思っています。学期の最中は、宿題として取り組むのに必死ですが、この様に改めて向き合うと、その時には気づかなった色々な発見があり、面白かったです。

今後も機会を見つけて、課題や文献の振り返りをしてみようと思っています。


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