オリエンタルランドの自己株TOB

少し前になりますが、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド(OLC)が株式公開買付(TOB)による自己株買いを行いました。

OLCのリリースによると150万株を1株13,830円で総額207億円で、期間は2020年1月31日から3月2日までの20営業日でした。

自己株TOBの目的

このTOBは第2位株主である三井不動産が株を売却したいとOLCに相談したのがきっかけです。勝手に売ればいいじゃんとも思いますが、第2位株主でOLCのスポンサー企業でもあるので仁義を切って売らしてねという申し出をしたのでしょう。これに対しOLCでは、まとまった株が市場で売りに出ると株価形成上悪い影響があること、ROE向上、株主還元充実につながることから自己株式として取得することとしたようです。

特定の株主から自己株式を取得する方法

今回はTOBを選択しましたが、TOB含め他に以下のような手法があります。

①自己株式の公開買付(TOB)

本件で取られた手法です。発行体(OLC)としては、通常ディスカウントされた株価で購入できるので経済的メリットがありますが、手間が若干かかることと、TOB期間は最低20営業日必要なことがデメリットとして挙げられます。応募者(三井不動産)はディスカウントですので他の応募者は基本的にはいないので売りたい株数を売れる可能性が高いことと、みなし配当課税という制度によりディスカウントの株価でもトータルでは損益がプラスになることのメリットがあります。デメリットとしては今回のケースがまさにそうですが、TOB期間中に株価がTOB価格を下回ることです。これは後述します。

②立会外取引(ToSTNeT-3)の利用

これは前日の終値でマーケットが開く前に行われる立会外の取引です。発行体としては手間がかからず一度に大量の自己株を買えますが、TOBのようにディスカウントは出来ません。応募者は基本的に誰でもこの取引に参加できるので、想定していた全量を売れるとは限りませんが、通常は他の応募者はそれほどいないことから、ほぼほぼ想定どおりの株数を前日終値で売却できるのがメリットといえます。デメリットはTOBで書いたみなし配当税制が取れないことでしょうか。また発行体とすると、価格メリットがないのでこちらを利用したがらない可能性もありますね。

③相対取引

上記を利用せず、売り手と買い手で相対で取引をする方法です。株主総会の特別決議が必要ですので、通常は利用できないと考えた方がいいでしょう。

ちょっと調べたところ、ToSTNeT-3の利用がもっとも多そうですね。みなし配当による税務メリットが発行済みの5%以上持っていないとそれほどないことから、TOBを利用できるケースが少ないのかもしれません。あとは売り手と買い手の力関係ですかね。ToSTNeTが嫌なら市場で売らせてもらうよ、とか言われ、市場で売却してほしくなかったらこれしかなくなります。

三井不動産のリリース

売主である三井不動産のリリースを見ると、オリエンタルランドがTOBを発表した1月30日にTOBに150万株応募することと、売却による特別利益が出るので業績予想の修正を行ったことの2本のリリースを出しています。興味深いのは売却予定総額が207億円なのに対して、投資有価証券売却益も207億円となっていることです。つまり、簿価はほぼ0ということです。どこかの時点で減損があったんでしょうかね。コロナ禍で影響ありますが、いまでこそ超優良企業のOLCも、1960年の設立から1983年の東京ディズニーランド開園まで色々な苦労があったんでしょうね。三井不動産は京成電鉄と並び設立時からの出資者だったのでどこかで減損したのかなと推定します。

業績予想のリリースを見ると最終利益が170億円情報修正されています。売却益が207億円ですから、差額の37億円が税金と考えると、税率は18%弱の計算です。有価証券報告書によると実効税率は30%程度なので、12%ほどがみなし配当課税制度による節税部分なのかなと推測できます。

TOB価格と株価推移

さて、TOB価格とTOB発表後のOLCの株価を見てみましょう。

①TOB価格

TOB価格は13,830円となります。TOB発表日である1月30日の終値は14,130円なので、終値からは300円、2.1%のディスカウントにとどまります。発行体の立場だと、20営業日もあるので2%くらい平気で下がることが予想されるのでディスカウントとしては心もとない感じではありますが・・・

OLCは市場価格の変動を考慮し、かつ、直近の業績が反映されているであろいう1か月平均株価を採用し、その10%ディスカウントを用いた、と説明しています。株価の決め方は色々考えられるので、売り手である三井不動産との交渉の結果、こういうことになったんだろうなと推測します。三井不動産としてもあまり時価に近い価格にTOB価格が設定されると、株価下落により他の応募者が応募するリスクが高まりますが、果たして結果は・・・

②株価推移

以下は公表翌日からTOB終了までの株価推移です。TOB発表後しばらく株価は堅調だったものの、2月17日にザラ場でTOB価格を下回りました。2月20日には終値でもTOB価格13,830円を下回り、最終日の3月2日には12,910円で引けました。TOB価格よりも920円安い価格となってしまいました。

この間の日経平均はというと、1月31日が23,205.18円で3月2日が21,344.08円で、1861.1円、9.2%の下落となっています。OLCの株価も14,260円から12,910円、1,350円、9.5%の下落ですので、新型コロナウィルス感染症の拡大懸念を受けたマーケット全体の下げに比例して下がったと考えられます。

ということで、TOB価格を下回ったのですが、結果はどうだったんでしょうか?

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TOBの結果

TOBの結果、150万株の募集に対して、なんと453万株の応募があり、按分比率は33.1%にとどまりました。つまり、応募した株数の3分の1にも満たない株しか売却できないこととなってしまいました。

2020年3月3日付の公開買付報告書をみると、以下のような応募状況だったようです。2番目が150万株ジャストなので三井不動産でしょうか。150万株売りたかったのに、結果としては496,700株しか売却できませんでした。

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特筆すべきは1番目の株主で237万株応募しているところです。買付予定数150万株なのに237万株で応募するなんて・・・。これだけの株式を応募できるのはどこかの機関投資家さんでしょうけど、こうやって配分する株数を増やすやり方もあるんですね。勉強になります。

三井不動産その後

さて、150万株売りたかった三井不動産、496,700株しか売れずどうしたのでしょうか?

2020年3月期の有価証券報告書を見ると、保有株数は29,797千株となっています。TOB前が30,757千株だったので、96万株減少したことになります。TOBで売却出来たのが496,700株ですので、46万株ほどは結局市場で売却したのでしょうね。

OLC株価ですが、3月上旬はTOB価格13,830円を下回る展開だったので、ここで売っていたとしたらTOB価格より安いうえにみなし配当のメリットもないということで三井不動産としては残念な結果でしたね。3月18日以降はTOB価格を上回っているので、株価的には良いですが、はやりみなし配当が取れないのでトータルでの損益ではどうなのかなと考えてしまいます。

まとめ

ながながと書きましたが、今回の件をまとめました。

①TOB価格は十分に低くないとTOB期間中に株価が下落し、想定どおりの結果が得られない可能性もある。

②TOBの募集株数を超える応募をして当選株数を増やしている株主がいる。

とこんな感じでしょうか。発行体側からするとTOBも良いですが、①のようなこともあるし、みなし配当の利益をしっかりと受けれる株主も限定されちゃうし、売主との関係もあるので、立会外取引が多く利用されているってところかなと思いました。

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