問題行動に「計画的無視」だけじゃ足りない理由。〜『こっちの水は甘いぞ作戦』のススメ〜 【ABAで発達支援】
こんにちは。公認心理師・臨床心理士の江原です。
最近SNSなどで,ABAの中の「計画的無視」について誤解されていそうなやりとりを目にすることがあります。というのも,なんとなく「無視だけで問題行動が収まる」かのように誤解されている方が多い印象なのです。
もしも,あなたもその誤解のもとに無視を試みた結果うまくいかず,「無視は効かない」「うちの子には合わない」と結論づけたとしたら,それはちょっと結論を急ぎすぎているかも知れません。
そこで今回は,計画的無視をはじめとする無視やタイムアウト系を有効に使う上で【無視の仕方以上に大切な視点】についてご紹介したいと思います。
その名も『こっちの水は甘いぞ作戦』。
それでは早速、その内容を見ていきましょう!
(今回は導入だけですが,ご要望があれば更に具体的に解説致します)
計画的無視は単独で使うものではない?
そもそも「計画的無視」って,実は有名な割に単独で主力になる場面はそんなに多くありません。少なくとも私は,無視だけで効果を出そうとすることはあまりないです。なぜなら,それのみでは重要な視点が抜けている上にリスクまであるからです。
では,その重要な視点とはなんでしょうか?
「ダメ」だけでなく「どうしたらOKか」も同時に示す
結論から言えばそれは【どうしたらOKなのかも同時に示す】ということです。
計画的無視というのは基本的に「それはダメだよ」ということを伝える側面が強いです。しかしそれだけでは「じゃぁ何はOKなのか」が伝わりません。そのため,「こうすると良いよ」の部分をきちんと伝える視点が重要になるのです。
これは,お子さんが低年齢だったり自閉傾向が強かったりすればするほど非常に重要な視点です。
『あっちの水は苦いぞ、こっちの水は甘いぞ』
ちなみにこの、「何ならOKかを示し促す」という部分が、作戦名の『こっちの水は甘いぞ』にあたります。
そして、名前の由来である「ほたるこい」の歌詞にあるその前の部分、『あっちの水は苦いぞ』に当たるのが計画的無視なのです。
この二つの対応のコントラストが効けば効くほど、無視されるような行動よりは、褒められたり要求が通る行動にシフトしていくというのを狙っているわけです。
具体例 : 奇声で注目を集めるAさん
では、試しに具体的な場面で考えてみましょう。例えば幼稚園のお集まりなどで,「がおー!!」などの奇声をあげて注目が得られている状況を想像してください。これについて【計画的無視のみ】を使った場合はどうなるでしょう?
おそらく「不適切場面での奇声は相手にしない」のような方針が出てくるかと思います。そうして何をどうやって無視するかといったことが議論されます。勿論これでも「無事にやりきれれば」効果は出るでしょう。条件次第で万事解決も十分あり得ます。しかし,極端な話,これでうまくいってもそれは「たまたま」や「子ども頼み」に近いと言わざるを得ません。
計画的無視【のみ】で対処するリスク
それどころか,計画的無視のみで対処することには以下のような最低3つのリスクがあります。
①最終的には収まるが,無視を始めて一旦奇声が悪化する際の程度が激しい
(→踏ん張れないとエスカレートの危険)
②奇声はなくなるが他の問題行動が出る
③本人きつそうで自傷や登校・登園しぶりなどがみられる
等です
(ちなみに①の悪化のことを「バースト」とか「消去抵抗」なんて言います)
「こうするとOK」を示して リスクDown & 成功率Up
そこで,そうしたリスクを下げつつ更に成功率を上げるため,先程の「何ならOKかを示す」という視点から一工夫加えてみた例が以下です。
「奇声は相手にしないけど,その時の話題に関係のある話だったら少し譲歩してでも話を拾おう!」
(後半部分の具体的な内容はケースごとに異なります)→
この後半部分が,「じゃぁどうしたらOKなのか」の視点による対応です。むしろ、実際はそちらがメインで,【無視はあくまでサブ・補助】と考えた方が良いと私は思っています。(まぁ,そのサブも結果を左右するほど強力な助っ人なのは確かなのですが・・・)
成功させるためのコツ・ポイントは・・・
おそらく,「なんだそんなことか」とか「それも試したけどダメだった」という方もいらっしゃるかと思います。
実際,なかなか一筋縄ではいかない場合も多いですよね。しかし一方で,いくつかのケースは,「何ならOKか」の設定の仕方や促し方などについてまだまだ再検討すべきコツ・ポイントが残っている可能性があります。
そのコツ・ポイントこそ心理や支援者の丁寧な観察力が試されるところなのですが,語りだすと更に長くなるので最低限3つのポイントを箇条書きだけ。
大きなポイントは以下の3つです。
ポイント①:「これならOK」とした行動は本当に今の本人にできそうなものか
ポイント②:特別扱い過ぎないか。自然に認められる範囲を逸脱しすぎていないか
ポイント③:その行動をして本人にとってのいいことはあるか⇔ただ大人側に都合の良い行動をさせようとしていないか
ポイントにすると以上です。具体的な内容についてはまた次の機会にさせてください。興味のある方はぜひ,いいねやシェア等していただければ,それを励みに頑張って解説してみたいと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします。
問題行動の無視ばかりを強調する支援者に出会ったら
ということで,今回はひとまず計画的無視を単独で使うのはオススメしないよ,というお話でした。
もしあなたが,相談機関などで【問題行動を無視することばかり強調された場合】にはぜひ以下のように聞いてみてください。
「代替行動(だいたいこうどう)についてはどうしたら良いですか?」
なお「代替行動」というのが先程の「何ならOKか」の部分にあたるものです。おそらくこれを聞けば,今回の話にあたる内容,もしくは無視だけでやらざるを得ない理由を説明してくれると思います。逆に言えばこれを検討もしていない相談先だとすると,それはちょっと心配なのでご注意いただければと思います。
ご質問はお気軽に
最後までお読みいただき誠にありがとうございます。
ご質問等ございましたらお気軽にコメントやTwitterの質問箱等でお問い合わせください。個別には難しい可能性もありますが,何らかの形でお答えできるよう検討させていただきます。
なお,今後も当noteではABAによる発達支援を最小限の専門用語で解説していく予定です。ご興味あればフォロー等お願いします。もちろん,「こういう内容について扱ってほしい!」なども大歓迎です!
それではまた!
<今回のABAキーワード>
計画的無視,代替行動強化,バースト,消去抵抗
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