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虎の威は借りた方がいい-枯れた技術の水平思考-


DSを手にした時のわくわくと驚きが忘れられない。


DSにはピクトチャットという機能がある。タッチスクリーンに自由に描いた文字や絵を受送信してチャットを楽しめる機能である。DSが発売された当初はあまり多くのゲームソフトを持っていなかったので、ピクトチャットで絵しりとりや四コマ漫画を描いて友達とよく遊んでいた。携帯電話をまだ持っていなかった僕たちにとっては、一種のコミュニケーションツールであった。駄菓子屋でお菓子を買って、近くの公園でピクトチャットで遊んだり、夜な夜な大作を仕上げて、次の日友達にお披露目したり。当時の僕たちはもういいよと言うくらいまで、ピクトチャットを愛し、常に新しい遊びを生み出していた。

DSに、いやその中の一つの機能にすぎないピクトチャットになぜこんなにも魅せられたのか。その秘密は任天度が打ち出す「枯れた技術の水平思考」にある。

ゲーム&ウオッチは、5年早く出そうと思ったら10万円の機械になっていた。量産効果でどんどん安くなって、3800円になった。それでヒットしたわけです。これを私は、”枯れた技術の水平思考”と呼んでいます。

と、伝説の任天堂開発者の横井軍平は言う。

電卓の価格競争のあと、供給過多で価格が下落し持て余した液晶を使いヒットしたゲーム&ウォッチ

最先端ではないがすでに広く普及し、安価でノウハウも出尽くしている技術「枯れた技術」そして、「水平思考」とは今までの使い方とは違う使い方をすることである。ゲーム&ウォッチでは、「枯れた技術」である電卓を、ゲームにするという「水平思考」により大ヒットを収めた。

技術者であれば先端技術をを使いたいと思うが、処理速度や解像度といったテクノロジーではなく、新しい技術から一歩引いて「面白さ」の本質を見極めるのが任天堂である。自由帳に落書きするという”鉄板”の遊びを通信することで人と繋がりを持たせ、人と人とのコミュニケーションに新たな”面白さ”を見出したのがピクトチャットである。”鉄板”という虎の威を借りて、今までにない価値を生み出したのだ。どんなに優れた技術も時が過ぎれば追い越され、忘れられる。しかし、”枯れた技術”の威を借り、水平思考により生み出された価値は色褪せない。


今後 (というか既に) 最先端の技術を使ったり、今までに誰も考えつかなかったアイデアを考案したいと思うのは、仕方がない。そんなとき、自分にこう声をかけてやりたい。

「虎の威は借りた方がいいぞ」











最後まで読んでいただきありがとうございます!! 東海道中膝栗毛の膝栗毛って「徒歩で旅する」って意味らしいですよ