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キズシオ本実験 7分の3ーさまよう刃を読んで自分にできることを考えた日ー

読み終わってからずっと考えている。
これは、キズシオ本といえるのだろうか。
キズに塩を塗る、そんな生やさしい話ではない。今のこの状態にひどく打ちのめされている。

そうだ。本を読むってこういうこともあるんだったわ。

キズ塩本実験 7分3  さまよう刃。

読み終えて考えて考えて。夢の中でも考えて。悪夢にうなされる4時39分。もう無理矢理にでも言語化すべきだと思ってキーボードに向かっている。これは、キズ塩本といえないかもしれない。
この気持ち悪さ。読む前までは知らなかったこの戸惑いとどす黒い感情が入り混じっている。

知らんぷりを決め込みたいところだけれど。この本はそれを許してくれそうにない。なんとなく今までは知らなかった目で見られ続けている気がするのだ。おまえは、この気持ちを無かったことにするのか。どうするんだ? と。

心に漬物石を抱えたい系。そうお勧めしてくれた人が言っていた。

すべては、私が悪い。

傷を抉ってくる系の本を教えてください、などと言ってしまった自分が悪い。


もう、言葉の通りえぐられた。

傷だと気づいていなかったものをえぐられました。日常は一瞬にして、非日常になり得る。

良きも悪きも。

この本を読んで、ふと過去の自分のとあるシーンを思い出した。

高校生になりたてだっただろうか。父とひどく言い合いをした。なんでだったかは、もう忘れた。ただ、売り言葉に買い言葉で喧嘩をした。

そうだ。友達の悩み相談をうけていて帰りが遅くなったのだ。
それでは納得してもらえず、ぐだぐだと続く小言に反抗しつつ、帰り道が暗いだの、坂がきついだの文句を言った。その中でぽろりと「今日は車に乗った男の人に声をかけられてめんどくさかった」と言ったのだ。だいたい文句を言えば、罵倒なり鉄拳なりがとんできた。それなのに、父はめずらしく黙った。母の顔が固まった。空気が凍った。だから覚えている。そして、そのあと一瞬にして考えたこともしっかりと覚えている。声をかけられたこと自体は自分にとってはなんてことないできごとだったのだ。現に私は帰ってきて家にいるし、自転車だったから話したのも3分くらいだ。(友だちの話はたしか30分を超えていた。)
ただ。漕いでいる自転車と同じ速度で走ってきて、声をかけられた時は少しびびった。でもなんにもなかったし。なんとなくなんにもなかったことになるまでがちょっと気持ち悪かっただけだ。しかも3分だし。こんな田舎で、自分みたいなやつに声をかけてくるなんてなんて暇なやつなんだくらいの感覚だった。
こっちのきもちとは裏腹に、両親の顔はこわばっていた。いってはいけないことだったのだろうかと息を飲んだ。
その日はそのまま「今度からは早く帰れ」の一言だけ返ってきた。そして、次の日母から「遅くなるなら電話して。迎えに行くから」と告げられた。冬のことだったから、寒くなくなるな、ラッキー!! と喜んだ。

とうの昔に記憶の奥底にしまわれていたあのシーン。

知らないということは恐ろしい。


今の世の中では「被害者は想像力が足りない」という言葉をよく耳にする。
そんな格好をしているから。
そう思われたくなければもっと違う行動になるだろう。

そうだろうか。
大概は、そんなことが起こるわけない。そう思ってひとは生きていたいのではないだろうか。

あの日の私は、運が良かっただけなのかもしれない。ただ運が良かったといって終わらせていいのかとこの小説は問いかけてくる。あの日の父の顔、母の言葉の意味を頭ではなく、腹にたたきつけてくる。
すでに成人済み、もう若いとも言えない年齢になった私がそういった犯罪に巻き込まれる確率は0に等しい。でもいまだに悲しいニュースは聞こえてくる。今回おったこの傷はどう活かしたらいいのだろう。そう思いつつ今こうして2000字を書いている。

わたしに子供はいない。
でも、甥っ子と姪っ子がいる。

そんなことが起こるわけがない。
そう心配せずに済む世の中はいつくるのだろう。

無駄を感じながらも抗わないといけない気がする。できることならば、被害者になる確率をさげるよりも、加害者を作らない側で。

だから、私は小さな足掻きをすることにした。
さまよう刃。あの話の中に出てくる犯人たちと普通の人の違いはなんだ。
多分彼らは人の心が想像できない。
人の痛みを知らない。
だからあんなに残酷無慈悲なことができるのだろう。

ならば、一番近いところから。ひとまず、甥っ子と姪っ子が文字を読むということを好きになれる環境に触れられるようにしよう。自分以外の人の感情を知る。擬似体験として本はとても素晴らしい効能を持つと思う。そして、困った時は話を聞く。道を跨った時。こちらの言葉を聞いてもらえるだけの信頼関係を築く。願わくば。人の心を慮る、その能力を持った人に育ってほしい。ああいう人間にだけはなってほしくない。絶対に。

そんなことを真剣に考えさせられる本でした。
久しぶりに重厚感にやられたなぁと思うので、最後に茶目っ気よう。

ねぇ、読んだ人に聞きたいんだけどさ。
492ページからのさ、ラストスパート。最後の最後であの結末。
騙された!ってなったんだけど。あれ、気づけた?東野圭吾さん、文章うますぎじゃない?

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キズにぬるシオ 実験7分の3
「さまよう刃」東野圭吾著

推薦してくれた人のコメント:お腹に漬け物石抱えたい系なら、東野圭吾のさまよう刃とかどうでせう…?既知でしたら失礼

実験結果:キズシオ本ではないかもしれない。むしろ、傷を新たに作ってくる本だと思いました。でも、読めてよかった。推薦してくれて本当にありがとうございます。
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