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メモ:猫の秘密を知った日に読むー「猫をおくる」を読んでー

拝啓、猫さま

あなたは今幸せでしょうか。
うちの子で良かったですか。
妹が猫を飼うという決断をした時は、なんてことを!! 無理無理無理!!! と目くじらを立てたことを、改めて謝罪させてください。
一緒に暮らして十数年。あなたの可愛さにやられ、あなたのことを思い、姿が見えないと心配する。そんな幸せな日々を送れるとはあの時は夢にも思っていなかったのです。
動物が苦手だった私を変えてくれたのは紛れもなく、あなたです。
動物にも個々の表情があり、一人一人顔が違う。あなたと過ごす前の私はそういった単純なことさえ知らなかったのです。あなたと出会ってから、世界がどれだけ広がったか。世界がどれだけ色づいたか。

本当にお礼しかないです。

あなたと出会って変わったところとして、もう一つ。
猫とつくもの全てに目がいくようになりました。
ぬいぐるみ、街で出会うイラスト、ちょっとでも猫っぽい何か。
中でも猫の登場する物語は、必ず目に留まるようになりました。今回出会った「猫をおくる」もその一つ。タイトルの「猫」につられ手に取りました。装丁の猫もとても素敵だったの! そういったらヤキモチを焼いてくれるかしら。

ページを開いてみたら、あら、やだ。そちらの意味でのおくるだったのかとちょっと本を閉じそうになりました。でも、これはフィクション! そう自分に言い聞かせて文字を追いかけることにしました。何より冒頭から猫に対する真摯な姿勢があったので読んでしまうやつだったのです。不謹慎をお許しください。

読み終わって、今、なんとも言葉にしがたい感情に包まれています。
3つほどきちんと言葉にできることがあったので書き留めておきます。

まず一つ。
この本に登場する「猫と生きる人たち」がとても素敵だったこと。人懐っこいあなたのことです。きっと、本の中に出てくる藤井さんに触られたいって思うんじゃないかしら。私が猫だったらきっと思ってしまう。この人にだったら、触られてもいい。この人にだったら任せてもいい。頭蓋骨から歯まで。綺麗に並べられた自分の骨を、空中から見てみたいと思いました。あくまで、私の、です。

そして、二つめ。
あなたとともに真道さんのお経を聞いてみたい。できるならば猫の姿で! もしかしたら、瑞季さんにしか聞こえないスノーノイズがあるように、猫にしか聞こえない音もあるはず。人間がなんとなく好きと感じる部分をあなた方は理由を持って説明できるのではないかしら。なおのこと、言葉が通じあえないのが残念に感じる夜ですね。言葉が通じれば、この読み終わった後のなんとも言葉にし難い感情をあなたが言語化してくれるかもしれないのに。

そして三つ目。私はこの物語の中に流れる空気が好きということ。
どんな? そう問われると非常に困るのだけれど。うーん。私が今回言語化できない空気みたいなものを頑張って言語化するのであれば、「たんぽぽの綿毛が吹かれて揺蕩(たゆた)い、着地する」みたいなことかしらと思うのだけれどどう思う? 出会いと別れ、そして空白の時を経てさまよい、どこに行くかを決める。そうだったらいいなという希望的観測でもあるのだけれど。私はそうであってほしい。だって、あなたが永年的に生きてくれるならばいいけれどそんな贅沢は言えないでしょう。それならば、またの再会があると思わせてくれてもいいじゃない。まったく同じあなたでなかったとしても、なんとなく。言葉にならない感覚の部分であなただと気付けるように努力します。だから、もしよろしければ私を見つけに来てね。
もう! くだらないこと思っているなって欠伸をしないでいただける?!
結構本気で思っているのよ、私。

本気ついでに、正直に打ち明けます。本を選んだ瞬間にちらっとは思っていました。
「おくる」は「葬(おく)る」なのではないかと。
おくる準備がまだできていない私にとって、おくる物語はどのように響くのだろうかと気になったのです。葬る、その事象に私は耐えられるのだろうかと。多分、耐えられまい。それならば、多少なりとも先に準備をしておけば、少しは緩和できるのではないかと思っておりました。
あなたがいま体の下に敷いているタオルは、もしかしたら必要になるかもしれない大量の涙吸収用として用意したものです。そして、顔の下の枕は読んでいる途中にあなたに奪われたひとまず用のハンカチです。すごく居心地良さげにしてますけど。まぁ、使う出番がなかったことが唯一の救い。怒るに怒れない、猫バカな自分。怒られないってわかってるんですね。もう、満足げな顔が可愛いったらありゃしない。

「猫の尻尾には、秘密があるって、ご存知でしたか」

私がこの文にもう一度触れる時。それは、あなたをおくる、まさにその時でしょう。
今回読んで思いました。これは今ではない。でも、きっと必要になる。この物語の空気が必要になる時が私には必ず来てしまう。淡々と読み進められた話もその時には違うかもしれない。そう感じたから、今こうして手紙を書くことに決めました。
おくるということをまだわかっていない私が読んだこの拙い感想を。
触れば温かく、ふわっとした毛並みの触りごごちと共に書いた思い出を、こうして綴っておきたかったのです。次の時はたくさん泣いてしまうだろうから。
まあ、大丈夫ですね。次はタオルもハンカチも使い放題だと思います。

ただ、できることならば。
その日はずっと先がいいです。
たとえ、この先何冊も服の袖で涙を拭くことになろうとも。
新たなタオルを取りに行くためにぐしゃぐしゃな顔で階段を降りることになろうとも。
ずっとずっと先がいいです。

だから。このメモを読む日なんて来なければいいのにと思っています。

かしこ 
   
2021年2月某日
飼い主

読んだ本:
猫をおくる
野中柊 著

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