SPURS judge replay(仮)#12
#12 【勝ち点3は盗まれたのか?】
UEFA-CL Group D match day5
TOT 1-1 SPO
スパーズファンの皆様こんばんは。シーズンが開幕して早2ヶ月となり試合の結果に一喜一憂する日々が続いてるかと思います。
今日はグループ突破の懸かるスポルティング戦後半終了間際に取り消されたケインのゴールを中心に振り返りオフサイドルールのあり方について競技規則を元に少し考えてみたいと思います。皆様も是非一緒に考えて頂けたら幸いです。
※このブログはあくまでも一人の審判員がスパーズ戦の判定について述べるブログです。UEFAやFAの見解などは参考にしてませんのでご理解の程、お願い致します。
①続いたナイスジャッジ
この試合の議論の大半はラストプレーのオフサイドジャッジになると思いますが(このブログも同様)それまでには何点かナイスジャッジがありました。
ゲームを担当したのはUEFAトップレフェリーのダニー・マッケリー(NED)。混戦したグループのアポイントとして頷ける人選でした。
まずは40:45〜コアテスのハンド
競技規則第12条 警告となる反則より
(赤線部参照)
上記のように正しい判定で警告を提示しました。
※オフェンスの得点を試みるハンドに関して1発退場項目はありません。
続いて79:45〜ベンタンクールの同点ゴール
このシーンは動画で見るとよく分かりますが、ベンタンクールはキーパーよりも先に落下点に入っておりジャンプも真上にしています。側から見ればキーパーの動きを妨害してる様にも見えなくないシーンですがベンタンクールの動きを見極めた非常に高いレベルの判定でした。
問題なく進む試合も最後の最後に大きな議論を呼ぶ判定が起こります。
②話題となった94:43〜オフサイド
さて今回の本題です。
誰もが歓喜した決勝点。さらにグループステージ突破も決まるという普通の1点では無いこのシーンでしたが残念ながらケインはオフサイド判定でゴール取り消し。私も勿論相当落ち込みました。何故なんだ?ふざけるな!という気持ちになった方が殆どじゃないでしょうか? ですがこのブログは判定を振り返るブログですので出来る限り振り返りたいと思います。
まずこのシーンの結論を出す前に皆さんは判定を見る際に正しく"事象"を捉えられてますか?
ただ"蹴られた"や"倒された"などでは残念ながら判定を振り返ることはできません。
我々審判員も判定をFBする際は"事象"の確認から入ります。
それでは皆さんまず今回のケインのオフサイドについて事象(一連の流れ)を説明お願いします!と言われたらどう説明するでしょうか。
『ペリシッチが左サイドからアーリークロスを入れて大外のエメルソンがヘディングで折り返すも至近距離に居たSPO71に当たり、そのこぼれ球をケインが押し込んだ』
私ならこんな感じで事象を振り返ります。
では自分の考えた事象から重要な部分を抽出してこのシーンを改めてまとめます。
(1)エメルソンがヘッドで折り返し
(2)SPO71の足にあたりケインにこぼれる
(3)こぼれたボールをケインが押し込む(オフサイド判定)
私はこのオフサイド判定を支持できる正しいと考えています。
③何故オフサイドとなったのか?
それでは何故オフサイドとなったのかを考察していきます。今回のシーンは②で触れた(1)→(3)がオフサイドとなりました。簡潔に言えばエメルソンが折り返した時にケインがオフサイドポジションに居たということになります。
では(1)について
まずオフサイドラインが引かれたのはボールであり折り返したエメルソンはボールより前でプレーをしています。勘違いされることが多いですがあくまでも出し手(このケースのエメルソン)の体のは関係無くボールがラインの基準になります。
(3)に関して
https://www.football-zone.net/archives/402117
https://www.soccer-king.jp/news/world/wc/20220701/1663391.html
今季のCLから半自動オフサイドシステム(SAOT)が導入されています。(カタールW杯も採用)
そのため今回のオフサイド判定がミスジャッジと考えるなら機械のトラブルかライン合わせの間違いがない限り(3)に関しては正しい判定と言えます。
ここまで(1)と(3)について述べましたがルールを知ってる方の中には(2)はどうなんだ?ということに気付かれたのでは無いでしょうか?
競技規則 第11条 オフサイドより
相手競技者の(このケースはSPO71)意図的なプレーがあった場合オフサイドポジションの選手がボールを受けてもオフサイドにはならないと書いております。
実際に競技規則では"意図的"に関してこのように記されており意図的なプレーの判断は下記のように定義されてます。
この定義から考えるとSPO71に当たったシーンは映像を観ると意図的なプレーでは無いことが分かるかと思います。
以上のことから(1)〜(3)を細かく観ていくとこの得点の取り消しは限りなく妥当な判定だったと私は考えます。
※補足
(2)で述べている意図的なプレーとは守備側競技者のことを指し攻撃側競技者の意図は競技規則上全く関係ありません。
今回のシーンでVARから主審がモニターを観に行くOFRは勧められずVARのオンリーレビューのみで判定が完結しました。
観ていたファンの方は『何で映像観に行かねえんだよ?』と思った方もたくさん居ると思います。
しかしこのシーンは(2)が意図的なシーンの可能性が高ければOFRもありましたが(1)→(3)での確認だけだったのでオンリーレビューのみでした。これも正しい運用だったと考えます。
④フットボールはエモーショナル
ここまで読んで頂いた皆さんは恐らく『うーん。判定が妥当っぽいことはある程度分かった。だけどさぁ…』
分かります。
私も同じ気持ちです。
"判定は妥当でも納得できない"
そう感じていませんか?
フットボールで1番大事なのはゴール。さらには同じゴールでも順位決まる優勝が決まる、そんなゴールもたくさんあります。
そのフットボールで1番エモーショナルな部分がたった"数センチ"のオフサイドで取り消されてしまう現在のシステム。
VARが導入された時に私は今回のようなケースを懸念しました。
実際多くの人が『VARが導入されれば誤審がゼロになる!』そう思ってなかったでしょうか。
しかし競技規則を知れば知るほどVARによって失われる"エモさ"が出てくることを知ってしまいます。
このブログを見てくださってる方々に伝えたいことは『これくらいならいいだろ!』は明確な代替案がなければ成立しないということです。
仮に今回のケインのオフサイドの様に靴一足分や数センチを許すとなった場合、何センチまでOKなのか果たして決めれるでしょうか。
もし10センチまでOKになったら11センチはダメ。そうするとその1センチはテクノロジーを使うのかそれとも…?そうなるとその1センチは許すべきだ!と言った批判は必ず出ると私は思います。
ただしルールというのは毎シーズン若干の改正が入ります。明確な代替案が出てくれば今以上に厳格なルールの中でエモーショナルさが活かされたフットボールになるかもしれません。
残念ながら現状では今のルールがベストとは言わずともベターであると私は考えています。
⑤さいごに
読んでくださってる皆さんにお願いしたいのは是非とも競技規則に触れてみて欲しいということです。
"誤審だ!"
"審判ふざけんな!"
という気持ちはファンですからスパーズに不利と感じる判定があればそう言いたくなるのはもちろん当然です。ただ試合後少し自分の気持ちが落ち着いた時に競技規則を確認したら実は誤審じゃないのでは?と感じることが増えてくると思います。
スパーズ戦でSNS上にて審判員に対する酷い表現で誹謗中傷する方をよくお見かけします。"自分が知らないから" "見慣れないシーンだから" 審判が悪い!というのは違います。批判をするにしても一度競技規則に目を通してから批評すると覚えることも知ることもたくさんあります。
私がこのブログをスパーズファンの皆さんに少しでも競技規則に触れてもらうことと試合観戦時に判定で溜めるストレスが減って欲しいという気持ちで始めました。
今までどれくらい皆さんに伝わっているか分かりませんがこれからもこの活動は地道に続けて行きたいと思います。
さて今回はいかがでしたか。
劇的なゴール取り消しの検証と現行のルールの考え方について触れてみました。
なかなか連戦で調子の上がらないスパーズですがシーズンはまだまだこれからです。遠く離れた極東の地からみんなでチームをサポートしましょう!
また次回何かあれば更新します。
今回もご覧頂き本当にありがとうございました。
COYS !!
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